*5*
サンジは目を開けた。
ココはどこだ・・・。
身体を起こそうとするが力が入らない。
ゆっくりと記憶が蘇り、ぼんやりとしていた瞳にも焦点があう。
そして気づく。
自分がゾロに抱きしめられるようにして眠っていたことを。
コレって・・・。
サンジは頬を赤らめた。
何だか、恥ずかしい・・・。
ゾロの腕から逃れようとするが、がっちりと抱きしめられていて離れられない。
力の入らない身体。
抱きしめられてる逞しい腕。
満ち足りた寝顔。
オレとは全然違う。
強引で勝手な剣豪。
自分の信念を貫き通すまで、行動を止めはしない。
オレ達は何をしているのか。
意地の張り合い?
オレはコイツに屈したくねえ。
オレがオレであるために。
サンジは力を振り絞ってゾロから離れた。
身体が重く、いうことをきかない。
クソ、ヤリすぎなんだよ。
だけど、オレはこんなとこでのうのうと寝てるわけにはいかねえ。
朝飯、作らねえと・・・。
だりい・・・。
責任感と義務感。
日課としての無意識の行為。
壊れた頭のまま、のろのろと服を身につける。
メシ、作らねえと・・・。
ふらふらする身体を壁でささえて立ち上がる。
数歩で腰がくだけ、その場に崩れおちた。
・・・。
メシ、作らねえと・・・。
サンジは再び立ち上がる。
ゾロは何かが動く気配を感じてかすかに目を開く。
ココは・・・。
ああ、そうだ、夕べサンジとヤったんだった。
視界の端にサンジの姿が目に入る。
何やってんだ・・・アイツ。
ああ、動けねえのか・・・。
ちっと、ヤリすぎたかな・・・。
体力じゃ絶対オレの勝ちだからな。
大人しくじっとしてりゃいいのに・・・。
チクショー。
サンジは唇を噛みしめた。
動かない身体。
だるくて、だるくてしようがねえ。
だけど、メシつくらねえと・・・。
何とかドアのところまで辿りつく。
手をかけたところを不意に後ろから抱きしめられた。
顎を掴まれて無理矢理ゾロの方に顔を向けさせられた。
「・・・てめ・・・」
悔しさに涙が出そうになる。
ゾロは出ていこうとするサンジを抱きとめて唖然とした。
コイツ・・・。
この状態で外に出る気か・・・。
ってオレはまだハダカだけど・・・。
涙のたまった濡れた瞳。
昨夜かなり泣かせたせいで頬が赤くはれている。
かすかに開いた唇。
このエロいツラ見たヤツが何も感じねえはずがねえ。
ゾロは思わず溜息をつく。
「てめえ、自分がどんなツラしてるか分かってるのか?」
ゾロの問いにサンジは答えず、睨みかえした。
ゾロはサンジの顔をまじまじと見る。
これって・・・。
絶対逆効果だ。
上目使いに涙目で睨まれたって・・・。
そそるだけじゃねえか。
こんなツラ他の誰にも見せられねえ。
コイツのこんなツラ見ていいのはオレだけだ。
「うる・・せえ・・・オレは・・・朝飯つくるんだ・・・放っとけ・・・」
サンジはゾロの身体をつっぱねようとした。
だが、力が入らず、逆に倒れこむような形になった。
「てめえ・・・には、関係ねえだろ!!」
悔しい。
ゾロに勝てねえのが、悔しい。
ゾロの上位に立てないのが、悔しい。
同情なんかいらねえ。
敵でいたい。
対等でいたい。
同じ目線で戦いたい。
なのに、このザマはなんだ。
勝ちたいのに・・・。
負けたくねえのに・・・。
「ヤってましたってツラしてるぞ」
ゾロが真面目くさって言う。
チクショー。
チクショー。
押さえられない感情。
悔しさ。
サンジは自分の頬を叩いた。
ゾロは一瞬、サンジが何をしているのか分からなくて唖然とした。
涙を浮かべて自分の顔を叩いているサンジ。
何・・・してるんだ、コイツ。
あわてて、手首を握りこみ、動けないようにする。
「てめえ、何やってんだ!!」
「うるせえ!! 放せ!!」
暴れようとするサンジを抱きかかえる。
「アホか!!何でてめえで叩くんだ!!」
ゾロは訳が分からなくて怒鳴る。
サンジはうつむいて顔をそむけた。
ゾロはその顔を見た。
自分で叩いたのでかなり赤くなっている。
ぎゅっと目を閉じ、噛みしめた唇。
頬を流れ落ちる涙。
な・・。
コイツ、何で・・・。
何で泣いてるんだ。
「オイ・・・」
「うる・・せえ!!オレを見るな!!」
サンジは涙声で言う。
「夕べのあとなんて、もうねえんだ!! もうねえ!!」
泣きながら言うサンジ。
「オレは朝飯作るんだ!!」
ゾロはサンジの涙に口付けた。
そりゃ・・・無理だ。
このまま出てったら、ヤバい。
そんな事はオレが許さねえ。
「行かせねえ」
絶対に、コイツはここにいるんだ。
だいたい、ロクに動けねえくせして・・・。
でも、コイツ、飯つくらなけりゃいけねえんだよな・・・。
ルフィが騒ぎそうだし、ナミも。
クソ。
何で、こんなことに・・・。
どうすりゃいいんだ。
どうすりゃ・・・。
とにかく、サンジは駄目だ。
今のコイツは、他のヤツには見せねえ。
・・・。
いくら考えても答えは一つ。
ゾロはサンジを抱きしめたまま考える。
オレが作るしかねえ?
このオレが?
何か・・・。
違う。
どうして、こうなった。
オカシイ。
こんなはずでは・・・。
「クソ!!オレが作ってやる!!」
ゾロが言うとサンジは驚いてゾロを見た。
ゾロはその顔を見る。
まったく、ガキみてえなツラして泣いてやがんな、コイツ。
バカなんだから。
ま、いいか、コイツの代わりにこっそり作っときゃいいんだ。
「だから、てめえは休んでろ」
ゾロはそう言うと素早く衣服を身につけた。
サンジは茫然とその様子を見ていた。
あまりにも突飛なゾロの提案。
何、考えてんだ・・・。
料理なんてできねえくせに。
「てめえ、来るなよ!!」
ゾロはサンジに刀を突きつけた。
「来るってんなら、服切るぞ」
サンジはぼんやりとした頭で考える。
ゾロ・・・。
どっちにしたって・・・。
バレるぞ。
オレはホントにだりいから。
でも・・・。
「クソ!!縛っとく!!」
そう言うとゾロはサンジを柱に拘束した。
あわててキッチンに行き、適当に料理をして皿に盛る。
いつもサンジが作っているのとは何かが違う。
まあ、食えば、同じだ。
サンジにも持っていってやるか。
倉庫に戻るとサンジは眠っていた。
耳元で呼んでも反応がない。
顔色も悪い。
ゾロが作った飯など食えそうにない。
ゾロは溜息をついた。
なめらかな頬に指を這わす。
涙の跡。
何であんなに意地はるのか。
だけど、嫌などころか・・・。
辺りには淫行の跡が残っている。
掃除するのってやっぱりオレか?
ゾロはまた溜息をついた。
ふり回されてる。
サンジに。
なのに止められねえし。
何より、離す気はねえし。
オレはサンジより強い。
だからコイツを守るぐらいのことはできる。
だけど、コイツは何かと逆らいやがる。
手に入らねえ。
何度ヤってもふり回されてる気がする。
戦いを挑んで。
ヤってる時は勝ってると思う。
ヤった後で負けてる気がするのはどうしてだ。