と 小 さ き 掌 の 君 に |
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シャンクス・サンジ
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目的のレストランまであとわずか。
船は目的地をとらえた。
「お頭、着いたぜ」
暢気に昼寝を続ける赤髪の男にベンは声をかけた。
「あ・・・ああ、これが赫足のゼフの店か。ふうん」
そう言うと先頭をきってずかずかと店の中に入る。
それは珍しい海上に開かれたレストラン。
開店してまだ一月にしかならないが、すでに評判になっていた。
豪華なつくりの船。
デッキでも食事ができるようになっているようだ。
フロアは広く、しゃれている。
いかにもな海賊船が横付けにされ、店の客はみな怯えた表情を浮かべていた。
店内は上品なレストランだ。
あんな荒くれのくるような店ではない。
シャンクスはまっすぐ、客席をめざした。
「こら、海賊!!」
子供の声に振り返ると、コック服を着た幼い子供が包丁を片手に立っていた。
その子供なりにせいいっぱいに闘うつもりなのだろう。
包丁をシャンクスの方につきつけ、じりじりと近寄ってくる。
「お頭・・・」
呆れたようなベンたちを手で制すと、シャンクスは凶悪そうな笑みを浮かべて子供に近づいていく。
間合いを詰められ、子供がわずかに後ずさる。
・・・窮鼠猫を噛むってやつだな。
シャンクスは微笑んだ。
その時だ。
「てめえら、静かにしやがれ!!」
いつ聞いても迫力のあるゼフの声がフロアに響く。
「よう」
シャンクスは笑いながら、ゼフを振り向く。
「・・・来やがったか」
ゼフの表情が微妙に変化した。
「オーナー、お知りあいで!!」
なりゆきを見守っていたパティが大声で怒鳴る。
「こいつは客だ。てめえら、さっさと仕事に戻れ!!」
ゼフが一喝するとみな一斉に持ち場に戻る。
客達の間にはほっとした空気が漂う。
「てめえもだ、サンジ!!!このボケナスが!!」
ゼフの一蹴りで子供は軽々と壁際まで吹っ飛ばされた。
「うるせえ、クソジジイ!!!」
わめく子供を大柄な男達が引きずっていった。
「ヘボイモおそれいります。こちらのテーブルにどうぞ」
いかついウエイターに案内され、海賊達は奥の席についた。
席につくとすぐに様々な料理が運ばれてきた。
しばらくするとゼフが現れた。
目につく、コック帽。
三つ編みにされた見事な鬚。
「赫足の。足はどうした?」
「てめえこそ。腕はどうしたんだ」
お互いに睨みあう、ゼフとシャンクス。
一瞬、緊迫した空気が流れる。
やがてシャンクスがニヤリと笑った。
「まあそいつはおいといて、食い物だ!!」
成りゆきを見守っていた客たちも楽し気に食事をする男達からやがて視線を外す。
「聞いたか、赤髪のシャンクスだとよ!!」
「うお、さすがオーナーだな。大海賊の客か!!どんどん持っていけ!!」
サンジは芋の皮をむきながら、シャンクスの武勇伝を聞いていた。
「サンジ、とろとろすんな!!まったく、料理もろくにできねえくせに余計なことだけはしやがる!!」
サンジは怒鳴られ、悔しそうな顔をしながらも手を休めない。
・・・クソ。
だって海賊からバラティエを守らねえとって思ったから・・・。
オレが守らなきゃって・・・。
目の前には皮の山。毎日、毎日、雑用と芋の皮むきだ。
シャンクスは酒を飲み、閉店までねばっていた。
ゼフとも色々喋ったがゼフ自身はこれまでの事をあまり語らなかった。
ま、相変わらずだな。
別に耄碌してるってわけじゃないらしい。
「明日もくるぞ、明日も」
「毎度ヘボイモありがとうございました!!」
ふらふらと甲板の方に足を向けると、そこには昼間見た子供が懸命にモップがけをしていた。
「お頭・・・」
ベンの声に耳を貸さずに、シャンクスは子供の方に近寄った。
普通の子供はもうとっくにおやすみの時刻だ。
だが、この子供は普通じゃないだろう。
「よう、坊主。また会ったな」
サンジは振り返って、あの海賊の頭だということに気づく。
赤髪のシャンクス。
それくらい、自分でも知っている。
でも、海賊が何だ。
「うるせえな。仕事中だ!!話しかけんな!!」
可愛げのないサンジの返事にシャンクスは思わず笑みを浮かべた。
「あっそ。なら待ってやる」
そういうと、本当にそこに腰をおろし、ベンたちに手で帰れと合図を出した。
まったく、お頭は昔から子供好きだからな・・・。
呆れたような顔をしながらも、船員たちは先にバラティエを出ることにした。
シャンクスはしばらく、せっせと働く子供を見ていた。
生意気で元気のいい子供は好きだ。
例えば、麦わらをやったあの子供。
初め、この子を見た時、ルフィに似ていると思った。
だが、こうして見ているとちょっと違う。
そのうちにサンジの仕事は終わったらしい。
「終わったのか。なら、こっち来い!!」
そう言って、自分の膝をぽんぽんとはたくシャンクスに、サンジは冷たい視線を投げ掛けた。
「何で? 」
「仕事終わったら、話してもいいんだろ。それとも、海賊に近づくのが恐いとか?」
そういって、ニヤリと笑うと、サンジがビクリと反応する。
「・・・こわくなんか・・・こわくなんかねえ!!」
サンジが恐る恐る近づいてくるのがおかしくてたまらない。
だが、顔は無表情を装ったままだ。
側に来るといきなり、体をつかんで抱き込んだ。
「うわ−−−」
サンジは驚きのあまり、暴れるが拘束は緩くならず、頭上からは笑い声が降ってきた。
「わははははははは、ひっかかった!!!」
心から喜ぶシャンクス。
「クソ!!離せよっ!!」
いくらもがいても、大人との力の差は歴然としていて、片手なのに身動きが取れない。
サンジが動きつかれると、ようやくシャンクスも腕の力を少し緩めた。
シャンクスはクスクス笑いが止まらない。
お子さまだ。
恐ろしく、お子さまだ。
サンジは真っ赤な顔をして怒っている。
そのうち、泣きそうな顔になってきた。
「あーー、悪い、悪い」
そう言って、拘束を解いてやる。
サンジは涙目でシャンクスを睨むと脱兎のように逃げ出した。
シャンクスはニヤニヤしながらサンジの消えた先を見た。
気に入った。
明日も来よう。
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