top地下食料庫knockin'  on  heaven's  door

■ knockin  on  heaven's  door
       
■  ZORO*SANJI
 

 

■13■
■彼方■
 
 
 

幾度の夜と幾度の昼。
飢えは静かに高まり、満潮のようにひたひたとおしよせる。
気づかないくらい少しずつ、確実に狂っていく体と心。

「あー、だりい」
サンジはその夜の仕込みを終えると、タバコをふかす。
毎日、毎日が同じ。
勿論、料理に手を抜いているわけではない。
なのに、何かが、足りねえ。

料理の味付けに必要な、最後のかすかなスパイス。
それが、足りねえ。
生活に必要な何か。
満ち足りて、平和なはずなのに・・・。
それが、何なのかは考えたくなかった。

戦慄。
身震いするほどの恐怖と欲望と・・・飢餓に似た感情を満たす行為。
一度覚えた蜜の味は生涯忘れることはできない。
恍惚と不安。
必然と絶望。
求めたわけではない。
だけど、気づくと与えられていた。
それをくれる相手は、ただ一人。
先にあるのは天国か地獄か。
 
 

ゾロは静かにキッチンの扉を開けた。
毎日毎日、退屈なはずの日々。
退屈しなかった訳は?
いままでどんなことをしても消せなかった退屈・寂寥。
親しんできた孤独とは違った感覚。
誰かを必要としたことなど無い。
誰かを愛したことなど無い。
誰かを憎んだことなど無い。
誰かを憐れんだことなど無い。
喜びは剣とともに。そこにしか、無い。
ずっと、そうだった。ガキの頃から。

なのに、ゴーイングメリー号に乗ってからゾロは変わっていく自分を感じた。
「仲間」
くだらねえものが出来た。
それを何のためらいもなく信じるルフィ。
オレの約束は善意の為なんかじゃねえ。
「約束」しないとそれが履行できないからだ。

そしてゾロの目の前をちらつくコック。
最初は体だけ食った。
それから心も食った。
身も心も食ったらもう骨を捨てて、終わり。
それで終わりのはずだった。
だがゾロは待った。
狩られた果実が元通りに育つまでに。
一度狩られた体は前よりも艶を増し、前よりも脆くなりゾロの目の前を動く。

ゾロは酒が発酵するのを待つように、サンジがゆっくりと変化していくのを見る。

殺してはならない。
逃がしてはならない。
繋いでおかなければ。
尽きることのない美酒を注いだような体。
狂おしい歓喜や征服欲をかきたてる心。

それらの全てを手にする瞬間。
そこには言葉はいらない。
 
 

これは必然なのだ。
他に選択肢はないのだから。
これしか選べないのだから。
 
 
 

サンジは言葉もなく目の前のゾロを見つめた。
カチャリ。
キッチンの鍵がしずかに下ろされる。
絡みあう視線。
待っているのは性の饗宴。
支配する喜び。
支配される喜び。
取り返しのつかない煉獄。

身震いするような欲望。
欲望を満たすための方法はこれしか無い。
行き着く先がどこであろうとも。

サンジは無言で身につけていた衣服を脱ぎ捨てた。
ゾロはサンジが近づいてくるのを待つ。
体が触れ合い、欲望が高まる。
はやく来いサンジ。
オレのもとに。
お前から来るんだ。
もうお前はオレに食いつくされるしかない。
味わって、全部、食いつくす。体も、心も隅々まで。

お互いに久しぶりの体に欲望をたぎらせる。
サンジはゾロに貫かれ、歓喜の声をあげた。
ただの欲望の塊と化す二人は全てを忘れて交わった。
欲しいものを欲しいだけ味わい続ける。
淫らな方法で。

体で心を満たすことを選んだ瞬間、扉は開かれる。
それは天国の扉?
もうどうでもいいことだ。
今、欲しいのは目の前の相手。

もっと深く、もっと奥まで。
羞恥さえが歓喜。
快楽と苦痛すれすれの世界。

もう閉じることのできない扉。
ここは二人だけの国。
有るのは体だけ。

二人で灼熱の世界を浮遊する。
快楽と陵辱には終わりがない。

生あるかぎり。
死する時まで。
 
 
 
 
 
 

end