side ZORO
*1*
ここしばらく静かな航海が続いている。
オレがすることは食って寝て、たまに剣の練習をするぐらいだ。
敵がいねえ。
好んで敵を倒すわけじゃねえが。
だけど。
物足りねえ。
船にはルフィがいて、ナミがいて、ウソップがいて、サンジがいて。
毎日にぎやかだ。
不満があるわけじゃねえ。
戦うこと。
オレはそれを欲しているのか。
背筋が凍るような緊張の瞬間。
どこかでそれを楽しむオレがいる。
絶体絶命の瞬間。
それを求めるオレがいる。
生と死のぎりぎりの瞬間。
戦わねえ剣士なんて。
だが、大剣豪は軽々しく戦うもんじゃねえ。
オレは精神を統一する。
不惑。
不幻。
船上のくだらねえケンカ。
止せばいいのに気づけばケンカしている。
相手はルフィだったり。
サンジだったり。
サンジはすぐむかつくような事を言う。
だからオレもあいつがむかつくような事を言う。
悪いのはサンジなんだ。
オレじゃねえ。
その夜オレはどうしてか目が覚めちまった。
深夜。
すげえ月の光。
満月だ。
静かで煌々とした海。
オレはデッキに佇むサンジの後ろ姿を見つけた。
片づけや仕込みの時間はとっくに終わっているだろう。
静かにタバコをくゆらしている。
静かに船は進む。
波の音だけが聞こえる。
静かだ。
穏やかな日々。
だけど、オレは穏やかじゃねえ。
こいつといると。
何故かいらついて。
むかついて。
悪態をついて。
ケンカして。
そして、それが全て嘘のようにカラダを重ねる。
「何してやがる」
オレはサンジに声をかけた。
「てめえこそ」
サンジはオレを振り返る。
月明かりに照らされたサンジの姿。
なんだか眩しい。
オレは声もなくサンジを見ていた。
サンジはゆっくりと微笑んだ。
艶やかな微笑み。
オレはしばし見蕩れた。
サンジはオレに近づいて耳元で囁く。
「なあ。イイコトしねえ?」
コレは天使か悪魔か?
オレはサンジに捕らわれている。
でも何に?
ココロか。
カラダか。
オレが欲するものは何だ?
分からねえ。
今はサンジのカラダを感じる。
ココロは見えねえけれど。
カラダの奥にあるもの。
それが見えたなら。
このまま続けてもイイデスカ?
こっからが本番だ!!!