*5*
side ZORO
オレは迷っている。
迷わせているのは、あのクソコック。
夜になると、あいつが欲しくなる。
昼の間は忘れていられるのに。
オレはあいつへの飢えを自覚してしまった。
それから、できるだけサンジに近寄らないようにしている。
だが、せまい船の中だ。
顔を会わせまいとしても、会ってしまう。
このままじゃダメだ。
オレはこの船にいていいのか。
時々サンジがオレを見ている。
感じる視線。
落ち着かなくなる、心と身体。
危険。
危険。
オレはそういう時、剣を手にする。
剣をふっていると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。
オレは剣に助けられている。
剣がなければ、オレはあいつに何をするか、分からねえ。
この前のようなことになったら?
オレであって、オレでない。
何かに魂を乗っ取られたような感覚。
それは、剣を交わしている至福の時に似ている。
だが、対等じゃねえ。
オレはあいつに何をするか分からねえ。
惹かれ、恐れる。
オレの正常な神経を壊す奴。
夜になると、オレはさっさと寝ちまう。
だが、ちっとも眠れやしねえ。
毎晩、サンジをこの手に抱いていたのに。
この失望感は何だ。
この空しさは。
サンジが欲しい。
まるで悪魔みてえに、オレの頭を焦がすこの想い。
チクショー。
まんじりともせずにオレは横たわる。
オレはオレのことで精一杯だ。
だれもオレに近づくんじゃねえ。
オレのイライラは他の奴等にも分かったのだろう。
サンジもイライラしてるみてえだし。
船が港に着いた時、しばらく、町で羽を伸ばそうという事になった。
くじびきで、船に残ることになったのは、ウソップ。
オレは別にどうでも良かったが、町へでかけた。
酒でも飲むか。
ここのところ、欲求不満だし・・・
ちっとばかし、暴れるのも、いい。
オレは店の酒を片っ端から飲んでた。
表のほうで、何か騒ぎが起きてるらしい。
誰かの罵声と、女どもの悲鳴。
オレは店から出て、通りにでた。
倒れる男たち。
とりかこむ仲間風の男。
輪のまん中にいるのは・・・
サンジ。
冷たい表情をして、突っ立ってる。
何故だ。
どうして、オレはこいつに出会ってしまったのか。
止められない。
「加勢するぜ」
そう言ってオレが剣をぬくと、男たちの間に動揺が走る。
ふん、手ごたえのねえ。
「いらねえよ」
サンジはそういうと近くの男を蹴り上げた。
男達は泡をくって逃げ出していく。
残されたのはサンジと、オレ。
視線がかち合う。
何処か自棄なその表情。
サンジは無言で立ちさろうとした。
どこまでもオレを追いかける想い。
逃げられねえ。
どうして斬りすてることができない。
自制心。
克己心。
不動の心。
オレは石のように立ち尽くす。
視界から消えるサンジの姿。
我に返ると、オレはサンジを無意識に探す。
探して、どうするというんだ・・・
オレはあいつと顔を合わせていられない。
なのに・・・
サンジを見つけた時には連れがいた。
いかにもいかがわしそうな男。
二人はいかがわしそうな宿屋に入って行く。
許せねえ。
オレの中で何かがキレた。
オレは手にした剣を握りしめた。
イケネエ。
剣を自分の欲望に利用するのは。
凶剣になっちまう。
だがもう止まらねえ。
オレはその宿屋に向かって真直ぐ歩き始めた。