王国の海 |
その城の奥には美しい桜の木がある。
巨大な幹はうねり、
特別な生き物のようにその存在を誇示する。
王国1の桜。
春になると、
たとえようもなく美しい花を咲かす。
それを見ることが出来るのは、
その庭に入るのを許された特別な者だけ。
・・・何年ぶりか。
ロロノア・ゾロは桜の大木を見上げて考える。
夜も深く、
あたりに人影も見当たらない。
だが子供の頃に見たのとまったく印象が変わらない。
堂々として、
神秘的な桜。
盛りを過ぎかけた花びらが、
しずかに体に降り注ぐ。
ゾロは根元にごろりところがった。
細い月の光が冷たくゾロを照らす。
目を閉じ、
意識を集中する。
オレは帰ってきた。
ここに。
オレは強くなったか?
誰よりも強くなったか?
ふと、誰かの気配を感じてゾロは目を開けた。
いつの間にかすぐ側に見知らぬ男が立っていた。
月の光に金色の髪が光る。
無表情に桜の花を見上げる顔は、
まるで人形のようだ。
・・・コイツは、何だ?
戦慄が駆け抜ける。
全く気配を感じなかった。
ゾロは呆然とその男を見た。
黒い服を着ているから、
顔だけがほんのりと浮かんでいるようだ。
男は長い間、
樹を見上げて佇んでいた。
ゾロは、
ただそれを見ていた。
降りしきる花びらと、
幻のような男。
やがてその男の視線がゾロにおりてきて、
しばらく止まった。
ゾロを見ているのに、
何も見ていない。
そんな視線。
無表情にゾロを眺めていたが、
ゆっくりと背を向けるとゾロから遠ざかっていった。
男が向きを変えて去っていくまで、
ゾロはただその姿を見ていた。
・・・幻?
桜が見せた、
幻?
だが、
目を閉じても、
あの顔が浮かんでくる。
存在したのかしないのか分からないような姿が。
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