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王国の海

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波打ちぎわに、
おしよせる珊瑚のかけら。
サンジはズボンの裾が濡れるのも構わず、
一人歩いていた。

ここは王国の浜。
王国の海。

けれど、
この向こうには、
バラティエがある。

生きているのか、
いないのか、
それすらも分からないゼフ。
もう自分は知る必要のないことだ。
自分の命とひきかえに、
ゼフの命を乞った。
ゼフの嫌いな方法で・・・。
 
 
 
 

あの男は言った。
「お前次第だ」と。

「殺したければ殺せ」とも。

憎い、憎い相手。
だが、殺せなかった。
殺されもしなかった。

一縷の望み。
もしゼフの命があるのなら、
自分はどんなことをしても、
つなぎ止めておきたい。

希望を。
過去に「プリンス」と呼ばれたことなど無意味だ。
それは失われるものなのだ。
自分で選べるものではない。
そう、今の自分のように。

篭の鳥。
ルフィもオレも。

命なんて惜しくない。
なのに他人の血を見るのは恐い。
 
 
 
 

濡れながらいつまでも歩く。
歩きながら、感じる。
後ろをついてくる足音を。
重い自分の足取りとは違う、
しっかりした歩き方。

・・・ゾロ。
不意に涙が出そうになった。
自分は振り返ることはできないけれど、
そこにゾロがいて、
オレを待ってる。
いいな。
そういうのって。

振り返ったら気づかれてしまう。
ゾロの視線を欲しがってる自分を。
ゾロに側にいて欲しがってる自分を。
 
 
 
 

理由なんて分からない。
分からない・・・。
 
 
 

ゾロは何にも言わねえ。
だからオレも何にも言わねえ。

このまま、歩いていられたら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ゾロは夕日に赤く照らされたサンジの背中に声をかけた。
「オイ、帰るぞ」
ゾロの言葉にサンジは振り返った。

まただ。
またこの顔をする。

せつなそうで、
はかなげな、
ゾロをとらえて止まない視線。

抱きしめてえ。
飢えている。
オレはコイツに。
この目に。
この顔に。
この体に。

もう、ケンカのための言葉も出てこないくらい呪縛されている。
全てを捨てたいくらいに。
今までの自分など、
どうでもよいくらいに。
 
 

音もなく積み重なっていく想い。
消えることなく、
忘れることなく。



 
 
 
 
 
 
 
 
 

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