王国の海 |
ゾロは桜の木の根元に寝転がっていた。
月のない夜。
漆黒の闇。
この木はいつもここにある。
ゾロは出入り自由だけれど、
この桜は自由なのだろうか。
毎年、たとえようもない美しさを王国の庭にだけ咲かす。
自分は見なれているけれど、
とらわれの木なのだろうか。
だから余計に美しい。
・・・まるで、アイツのようだ。
サンジは時々、
ギンにつれられて何処かに行く。
行き先は、もう分かっている。
・・・王の館。
どうせ、眠れやしねえ。
ゾロはいつの間にか、
桜の下でサンジの帰りを待つようになった。
月の夜、
ギンにおぶわれて帰ってくる日。
朝になっても帰ってこない日。
一人だけで、
桜の木の下を通る日。
・・・一人きりの時は、
サンジはかならずここを通る。
ゾロはそれを知っていた。
そして、
ある日気づいた。
サンジも、
ゾロがいることを知っているのだと。
月明かりの夜は、
しばらく視線を合わせ、
それから無言で帰っていく。
ゾロも呼び止めない。
呼び止めたら、
もう・・。
止められない。
いままで培ってきたもの全て。
これからの未来。
すべてが失われる。
ゾロはふと、人の気配を感じた。
毎夜、この木に来ているゾロの気はもう桜と同化している。
気配を殺しながらも、
殺気を感じる。
・・・・刺客か。
やがて、
待ち人があらわれる。
ゾロは精神を集中した。
・・・サンジ、
一人でくるな。
真っ暗な闇の中、
張りつめた空気が漂う。
暗くて、
闇が深すぎて、
よくわからねえが、
聞こえてくるのは、
不安定な足音。
ふらふらとした足取り。
男が動く気配を見せた。
闇に刀が煌めく。
問答無用。
容赦ない一撃のもと、
男はあっさりと倒れた。
「・・・・ゾロ?」
サンジは誰かの倒れる気配を感じた。
イツモ、
ココニハ、
ゾロガイル。
誰かが・・・。
斬られた・・・。
「ゾロ!!!」
ゾロの名を呼ぶ。
そんなこと、
そんなことあるはずがない。
「ああ・・・ここにいる」
冷静な声が帰ってくる。
サンジは声のするほうへ駆け出した。
力強い腕が伸び、
その胸のなかに抱きしめられた。
触れては、
いけない。
触れたら、
止まらなくなる。
もう・・・止まらない。
|