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 王国の海 番外編  



 

★1★
 
 
 
 
 

バラティエの海が炎に包まれていた。
夜だというのに一面にかがり火がたかれ、
あちこちで火の手が上がっている。
騒然とした気配と、
悲鳴があちこちから聞こえていた。
 
 
 
 

歴史ある国がほろびる時、
運命をともにする者がいる。
国に殉ずるものは、
国に抱きつづける誇りと忠誠を失うことはない。
だが、
意に反して生き延びるものもいる。

どれだけ望まなくても、
彼は生かされたのだ。
運命のなかで。
 
 
 
 
 

海に囲まれた豊かな小国バラティエ。
豊かな農地と恵まれた海産物。
美しいたたずまいのその王宮は誰しものあこがれるものだった。

年に一度国王ゼフ自らふるわれる無礼講の料理のうまさは世に知らぬ者がないほどだ。
一口その料理を食べようといろいろな客が訪れるが、
その天才的な料理の腕は自国民のためにだけしかふるわれなかった。
国民すべてが敬い愛した偉大な王、ゼフ。

その厳しく慈愛に満ちた存在は、
人々のほこりだった。
 
 
 
 

すでに火の手が回り、
崩れ落ちかけた王宮の中で、
二人の男が対峙していた。
バラティエの国王ゼフと、
一代にして王国をきずきあげたゴールド・D・ロジャー。

ゴールド・D・ロジャーの噂は疫病のように広まっていた。
世界の歴史はこの男によって塗り替えられた。
何百年も動かなかった権力地図があっというまにかきかえられた。

従うものには厳しい掟を。
逆らう者には容赦ない死を。
 
 
 
 

王と王の誇りをかけた一騎討ちだ。
たがいに間合いをつめ、
攻撃のチャンスをうかがう。
お互いに相手が名ばかりの王でないことを瞬時に見抜いていた。
おそらく勝負は一瞬。
隙を見せた瞬間に全てが決まる。
 
 
 
 

ゼフは間合いをつめ、
勝負に出ようとした。
その時だ。
視界の端に見覚えのある金髪がちらついた。

!!!!
一瞬の隙に刀が振り下ろされ、
鮮血が飛び散った。
切れた足が転がり、
喉元に刀がつきつけられた。

「勝負あったな」
ゴールド・ロジャーが倒れこんだゼフに冷たくいい放った。
 
 
 
 
 

「ジジイ−−−−−−!!!!!!」
血まみれのゼフをかばうように、
金髪の少年が走りこんで来た。
 
 
 
 
 

ゴールド・ロジャーは無表情にその少年を見た。
印象的な金髪と、
印象的な巻眉。
・・・プリンス・サンジだな。
正確には王の孫にあたるが、
王の息子はこの世を去っているため、
プリンスと呼ばれている。
第一王位継承者だ。

ゼフはこの金髪に気をとられたのだ。
ゼフとまともにやりあったら、
自分としても危なかった。
それ程の男だ。

このガキはオレにとっては「勝利の女神」というやつか。
この場で切り捨てるのはたやすい。
それよりも・・・、
コイツには違う楽しみ方がありそうだ。
 
 
 
 
 
 

ゼフを見るサンジの目。
サンジを見るゼフの目。

言葉はなくても見るものには分かる。
それは互いにとっての枷となる。

あまりにも偉大な国王ゼフ。
その王を王でなくすためには戦い以外に方法がある。
生きながらえることは王として敗北を意味する。
ゼフが権力を失った今、
興味は違うものに移る。
 
 
 
 
 
 

「ジジイ!!!!!!
足をっっっっ!!!!
チクショウ、ゴールド・ロジャー!!!!
斬るならオレを斬れっっっ!!!」

泣きながらゴールド・ロジャーに突進していくサンジの身体に剣が打ち込まれた。

「サンジ!!!!」
倒れたまま叫ぶゼフを見下ろすと、
ゴールド・ロジャーはサンジをかつぎあげた。

「ゼフ、このガキはあずかった」

それは人質としての運命を握られたという宣告だ。
ゼフは殺さないが、
サンジを連れていくという。
戦いに破れた国の行く末は3つしかない。
再び戦いをするか、
勝利国の施政をうけいれるか、
国としての機能を崩壊させてまで勝利国の施政に反するか。

バラティエの国民は疲れていた。
戦うコックさんの国と言われるほど、
荒い国民性と裏腹な繊細な料理。
あらゆる料理の食べられる富んだ国、バラティエ。
戦いの中で存続できる国ではない。
それは誰よりもゼフが知っていた。

「降伏しろ。
そしてお前が民を救え。
国王ゼフとしてではなく、
属領の主ゼフとして。
お前がそうするなら、
国は安泰だ。
このガキの命もとらねえさ。
もっともお前には選択権などないのだが」
 
 
 
 

ゼフはつっぷしたまま、
頭を縦にふった。
屈辱だ。
だが、
何万人という民の命には変えられぬ。
 
 
 
 
 

「たった今、バラティエ王国は消滅した。
国王ゼフは死した。
プリンスサンジもまた死した。
こいつはオレの国に連れていく」

勝利のラッパが吹き鳴らされ、
バラティエの兵士たちは捕らえられ、
逆らうものは殺された。

王が破れた。
民はそれを恐れ、
それを悲しんだ。
偉大な王ゼフ。
我々の敬愛する国王。
われらは王と運命をともに。

われらの王はゼフただ一人。
王が選んだ運命を受け入れるのだ。
それが最善の策だ。
 
 
 
 

バラティエは属国となり、
ゴールド・ロジャー王国はますますその勇名をはせた。
のちに語り継がれるバラティエの戦いのすざまじさは、
王国の戦史にも記され、
永遠に語り継がれることになった。

名将の一騎討ち。

破れたわけも、
破れてからの事も、
歴史は何も語らない。

白と黒しか必要としない世界。
伝説になった王の武勇伝の山場として語り継がれる戦い。
 
 
 
 
 

そこに秘められた想いは誰も知らない。
国の夢も望みも誇りも歴史は語らない。

壮大な流れの中の、
高名な王の活躍。
生きながら伝説となったゴールド・D・ロジャー。

歴史に残るのは光の部分だけ。
影に生きるもののことなど、
誰もふり返りはしない。

人々は様々に王を評す。
あるものは誉めたたえ、
あるものは悪しく言う。

誰もがかりそめの忠誠を誓う。
だが本当のことは誰にも分からない。
 
 
 
 

幻でぬりかためておけば、
真実を隠すことができる。
 

真実は幻の向こうに。
 
 
 
 

幻の海の彼方に。



 
 
 
 
 
 
 
 

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