★ Ura-Top    ★  地下食料庫 ★ 王国の海 番外編・幻の海 ★


 王国の海 番外編  



 

★6★
 
 
 
 
 
 
 
 

サンジは鈍く光るナイフをじっと見つめた。

すいこまれるようにその光を見つめ、
のろのろとナイフをかざした。

苦痛からの逃避。
快楽からの逃避。
屈辱からの逃避。

のがれたい。
すべての懊悩から、
離れたところに行きたい。
その思いだけがあり、
サンジはゆっくりとナイフを喉元にあてた。

全ては、一瞬で終わる。
一瞬で生を終わらせたら、
あとには何ものこらない。

もう、苦痛を耐えることもない。
悲しみに泣くこともない。
惨めでうなだれることもない。

そこはかぎりなく静かで平安な世界だ。
苦しみもなく、
悲しみもなく、
痛みもない。
 
 
 

「何をしている?」
不意に背後から声をかけられ、
サンジはびくりと身体を震わせた。
握りしめたナイフに力が入る。

ゴールド・ロジャー。
ゼフを倒した敵にして、
最強の王。
 
 
 
 

「お前は約束を忘れたのか?
国はお前自身とひきかえだということを。
バラティエという小国を滅ぼしたければ、
そのまま、
ナイフを突き刺すがいい」
ゴールド・ロジャーは悠然と言い捨てた。

サンジは屈辱に顔をゆがませた。
全てを終わりにできたら、
どんなにいいだろう。

ただの苦痛や屈辱なら耐える覚悟はあった。
だが、時が過ぎるごとに生まれるのは、
憎しみの心と、
快楽を求める身体。
自分の闇の部分がどんどん増幅されていくことへの恐怖。
自分が自分でなくなってしまうのなら、
生きる意味はあるのだろうか。
誇りすら失ったら、
餓鬼や畜生と同じだ。
日々、
性欲ばかりが増して行く。
いつか、ヒトですらなくなって、
ケモノのようになってしまう。
いや、もうなりかけている。
身体は欲望を満たしてほしくて、
じんじんしている。
心を裏切って暴走してしまう身体。
そんな身体ならいらない。
だけど、
そんな身体が国と交換される。
ゴールド・ロジャーがそう決めたから。
すべては王の意のままにしか、動かない。
 
 
 

サンジはふるえる手でナイフを握りしめた。
自分に向けていた切っ先を、
前方に向けた。
それから、
ゆっくりと振り返った。
 
 
 

ゴールド・ロジャーは無表情に、
自分に刃を向けるサンジを見ていた。
普通の状況では、
 果物用のケチなナイフなどでは、
万が一にもサンジがゴールド・ロジャーを討ち取れる見込みはない。

「いいだろう。
刺したければ、刺せ」
ゴールド・ロジャーはそう言いながら、
自らサンジのナイフの刃先に近づいてきた。
 
 
 

ひとつきで、
命をうばえるほどの至近距離。
サンジはふるえながらも、
手に力をこめた。
かすかな抵抗感とともに、
肉に刃物が刺さる確かな手ごたえがあり、
ひとすじの血が流れ落ちた。

殺してやる。
殺してやる。
ずっとそう思いつづけていた。
国をのっとった憎い男。
ゼフの足をうばった憎い男。
バラティエの誇りをうばった憎い男。

ゼフの仇をうつ。
バラティエの仇をうつ。
城が焼かれ、
町が焼かれ、
すべてを失った今、
憎むものは目の前の男しかいないのだ。
怒りをぶつけるのはこの男しかいないのだ。

渾身の力で、
このナイフをつきたてれば、
この男といえど、
命をうばえるかもしれねえ。

ほとんど、
抱き込むような形で近づかれ、
サンジは身体をかたくしたまま、
ナイフをかざし続けた。

ゴールド・ロジャーの身体を確かにナイフは傷つけている。
流れる血の量が、
多くなっている。

ひとつきで、
この男がこの世から消せるかもしれない。
そうすれば、
自分は救われるのか?
バラティエは救われるのか?
すべては元通りに・・・、
元通りに・・・、
そんな奇蹟はおきない。

国は破壊され、
ゼフは足を失い、
自分は・・・。
 
 
 
 

流れ落ちるゴールド・ロジャーの血。
 
 
 
 

サンジは目の前に壁のように存在する絶対的な力を感じていた。
その前ではあまりにもちっぽけな、
己の精神。
存在する肉体に傷をつけることはできても、
ゴールド・ロジャーの意志には傷一つ入らない。
 
 
 
 
 

サンジの手から、力が抜け、
ナイフは音をたてて、床に落ちた。
 
 
 

殺してしまえばいい、
オレはこの男を殺そうとしたんだから。
なのに・・・、
なぜ、致命傷を与えようとすることができない?
 
 
 
 

「どうした?
もう終わりか?」

燃えるような視線に射すくめられ、
サンジはうなずくことすらできなかった。
 
 
 
 

ゴールド・ロジャーは、
動く事すらできず、
おびえたように自分を見つめるサンジの身体に手をはわした。

サンジはびくりとしたものの、
大人しくされるがままになっている。

いつものサンジだ。
従順だが、
屈辱に満ちた表情。
 
 

「脱げ」
絶対的な権力者としての命令。
サンジはのろのろと自らの肌をさらしていく。
うすもの一枚しか身にまとっていない身体があらわになる。

屈辱に満ち、
泣きそうな顔で、
うつむいているサンジのあごを
ゴールド・ロジャーの無骨な指がとらえた。
 

かすかに触れられただけで、
サンジは身体を昂らせた。
心では抵抗しているのに、
身体のほうはうずうずし、
刺激をもとめていた。
 
 
 
 

こいつは篭の鳥だ。
酔狂で飼いはじめた、
めずらしい小鳥。
自分から媚びて尻をふるような小鳥などいらない。
啼かない小鳥もいらない。
今のように、
欲情して、
発情しているといい声で啼く。
いい声で啼くが、
まだ心のどこかで抵抗している。
身体の隅々まで支配しているはずなのに、
まだ手に入らぬ。
こいつは支配する欲望をかきたてる。
手に入ったようでありながら、
手に入らない。
すこしでも目を離すと、
こんなくだらないことをする。
まあ、それも一興だが。
 
 
 

ゴールド・ロジャーは前戯もなしに、
サンジを犯した。
「ああああっっっつ」
それは悲鳴ではなくて嬌声だった。
サンジの身体にゴールド・ロジャーの昂りが入って来る。
男を待ちわびていた身体は、
それにからみつき、
もっと深くうけいれようとした。
身体はとっくに堕ちている。
サンジは無意識のうちに、
もっと深くて激しい刺激を求め、
腰を振っていた。
「・・あっ・・・ああっ・・・」
もう、苦しいのか、
嬉しいのかすら分からなかった。
だが、サンジの身体は喜びの精を吐き出し続けていた。
 

ゴールド・ロジャーは激しくサンジの身体をむさぼった。
仮にも、おのが命を狙った相手だ。
この場で殺してやってもいい。
くびき殺すのなど簡単だ。

だが、従順なだけの小鳥はつまらぬ。
手の中の小鳥は、
懸命に啼き声をあげている。
触れるだけで反応する身体。
すでに意識ももうろうとしているのだろう。
意味のないよがり声しか、
聞こえない。
涎をたらして、あえぐ姿は、
淫乱な色情狂そのものだ。
なまじ、
王子などというプライドがあるから、
男なしではいられない今を認めたくなくなるのだ。
人に地位など必要無い。
ただその存在だけがすべてなのだ。
国とか民とか、
そんなものに縛られたものには、
永遠に自由などない。
 
 

「あっ・・・・ん・・・」
激しく突き上げられ続け、
サンジの身体は跳ね回る。
無意識に手をばたつかせて、
何かを掴もうとした。
必死で伸ばした手は宙をさまよい、
開いた手には何の手ごたえもなかった。

逃れようと伸ばした手はあっさりと絡みとられ、
サンジはなすすべもなく、
快楽と羞恥と苦痛に満ちた時間を耐え続けた。


 



 
 
 
 
 
 
 
 

 NEXT