★ Ura-Top    ★  地下食料庫 ★ 王国の海 番外編・幻の海 ★


 王国の海 番外編  



 

★7★
 
 
 
 
 
 
 
 

ギンは少し残された皿を見て顔をしかめた。
・・・サンジさん、
また、残して・・・。
毎日、少しずつ残すことで、
サンジの食事の量は徐々に減り続けている。
 
 
 
 

最近のサンジは、
すべてをあきらめたように従順になり、
ゴールド・ロジャーの意のままに行動している。
王の望むように抱かれ、
王の望む服を着て、
王の望むものを食べる。

サンジは日々無表情になり、
ぼんやりと座っていることが多くなった。
ギンが側に行っても、
顔すらあげずぼんやりとうつむいていることも多い。

まばたきもせずに、
じっと座っている姿は一枚の絵のようだった。
憂いをおびた視線と、
はかなげな風情。
それはかつてバラティエの王子だった時の誇りと生気にあふれ、
がむしゃらに前に進んでいた時のサンジとは別人のような瞳だった。
同じ身体なのに、
全ては変わってしまった。
うつろな視線の先に見ているのは、
失った自分の過去か、
失った国なのか。
 
 

いつかゴールド・ロジャーが飽きる日が来る。
その日は近い。

そうささやかれながらも、
何ヶ月も過ぎ、
王はサンジを手放すことはなかった。
サンジに用意された形ばかりの小さな寝室はまったく使われないままで、
サンジは毎夜、王に抱かれていた。
王が明らかに特別に目をかけていることは誰の目にも明らかだった。
 
 
 
 

サンジはうつむいたまま、真っ白な床を見ていた。
美しく磨かれて、
鏡のようにぴかぴか光っている。
でも、ここで昨夜ゴールド・ロジャーに抱かれた。
泣きながら、
この美しい床の上で、
精液を何度もぶちまけた。
醜い身体と、醜い心。
いくら消そうとしても、事実は消えない。
自分では忌み嫌いながらも、
昨夜の感覚が肉感的によみがえると、
身体がうずいて来る。

もう、全てを忘れてしまいたい。
何も、考えたくない。
いま、この一瞬でいいから、
忘れてしまいたい。

苦しい、
苦しくてたまらない。

自分の存在が、苦しい。
王の存在が、苦しい。

タスケテ、
タスケテ、
ここから出たい。
出たい・・・。

すべてを忘れられるのは、
寝ている時か、
ゴールド・ロジャーに抱かれている時だけ。

オレに意志なんていらねえんだ。
イヤなんて思うなんてゼイタクだ。
だって、バラティエが、
あの国さえあれば、いいんだ。

ゴールド・ロジャーは、
わけもなく国を潰したりする王じゃねえみてえで、
その点は信用できる。
きっと今、こうしているのも、ほんの酔狂なんだろう。
バラティエの運命にはもうオレなんて関係ねえと思う。
だけど、逃げられねえんだ。
苦しくてたまらねえのに、
この場で毎日毎日毎日毎日・・・、
オレはゴールド・ロジャーにヤられてる。
だって、オレには選択権なんてねえんだ。
それで、いい・・・。
それで、いいはずだ。

平気だ、こんなこと、どってことねえ。
生きてるよな、
オレは生きてるだろ。
だから、どってことねえよ。
もう何のために生きてるのか、
誰のために生きてるのかも、わからねえけど。
・・・でも、ちょっと疲れたな。
 
 
 

「今日も、快調です」
王のお抱え医師は、
王の様子を簡単に見てから、
部屋を出た。
そこには見覚えのある男が思い詰めたような顔で立っていた。
「・・・あの・・・、
頼みがあるんです・・・」
幾度か見た事がある、サンジの世話をしているギンという男だ。
いつも側にいて、
サンジから目を離さない、
忠犬のような男だ。
「何か?」
「サンジさんの様子が・・・・おかしいのです」

無視しようとしたが、
いつか王が、
『サンジを診てやれ』
といったのを思い出した。

「今までなら・・・表情がいろいろ変わって・・・、
イヤな時はイヤと分かったのですが、
最近、表情がないのです・・・」

医師は普通の状態のサンジというものを知らなかった。
診る時は、王の寵愛が過ぎて、
熱を出すとか傷ができたという時ぐらいなのだ。
ほとんど全裸に近い格好で、
まともな状態では見たこともない。
あえぎ声か、嫌がる声くらいしか知らず、
言葉すら交わしたことがない。

医師はサンジの様子を見て、
眉をひそめた。
意志をなくしたような瞳で、
じっと座り込んだままだ。

・・・これは、
ゆるやかな精神の死だ。

「王は、ご存知なのか?」
医師の問いに、
ギンは首を横にふった。

医師は瞬時で見抜いた。
この子は、何も考えないことで、
今の状態から逃げ出そうとしている。
だが心が壊れても、身体は機能する。
王にとっては、その方がいいかもしれん。
この子にとっても、その方がいいかもしれん。
もう充分、この子は我々を手こずらせてきたのだ。
我々に必要なのは、
ただの抱き人形でよいのだ。

・・・私は、王には進言しない。

それが、医師の結論だった。
 
 
 
 
 

ゴールド・ロジャーはいつものようにサンジを抱いた。
慣れた身体は、
喜びの証を示し、
からみつくようにして男のものを受け入れる。
やわらかい身体を押し開き、
さまざまな体位で、
さまざまな場所で交わった。

手に入れがたい美酒に酔ったような酩酊感、
国をとった時のような高揚感、
それに似た満足感を得られるサンジとのセックスは貴重なものだった。
サンジは抱けば抱くほど、
感度が良くなり、
淫乱さを増した。
まるで、これは中毒だ。
何ものにも代えがたい淫らな子ども。

サンジの意識を奪い、
身体の反応もすべて奪うまでは、
ゴールド・ロジャーの支配は続くのだ。

より完全なる支配を。

それは、
ほんの気まぐれだった。
王は初めて、
目覚めるサンジの様子を見た。
少し離れた椅子に腰掛けて、
とうに朝食の時間であるにかかわらず、
サンジの様子を見ていた。
 
 
 
 
 
 

のろのろとした動作で身を起こしたサンジは、
のろのろと服を身につけた。
何も考えられず、
何も見る気がしない。
すべてがどうでも良かった。
 

ゴールド・ロジャーはサンジの様子がおかしいことに気づいた。
服を着ても、
まったく動こうとせず、
何もない壁をぼんやりとみており、
自分が部屋にいることすら気づかない。
いや、はなから確認しようという意志すらない。
まるで外界を拒絶したような反応だ。

サンジは長い長い時間、
身動きもせず、
まばたきすらしないようだった。

それから、
さらに長い時間がたち、
ゴールド・ロジャーがまだ部屋にいることにはじめて気づいた。

サンジはびくりとして、
それからおびえたような顔をした。
 
 
 
 

あれ・・・、
今、夜だったのか。
そっか、
まだ夜か?
じゃ、オツトメしねえと。
 
 
 

サンジは、
のろのろとゴールド・ロジャーの方に近づいた。
それから、
明らかに性的な目的でゴールド・ロジャーに触れてきた。
 
 
 
 

ゴールド・ロジャーは、
サンジが壊れかけていることに気づいた。
・・・オレを殺せなかったから、
自分を殺すのか。
肉体は禁じられているから、
精神を追い詰める気か。
・・・おそらく無自覚。

・・・許さん。
オレの元から逃れようとするなど。
たとえ心であっても、
オレから逃れることは許さん。
 
 
 
 
 
 

ゴールド・ロジャーに呼び出された医者は冷汗を流しながら、
弁解をした。
「私は王のご寵愛の彼に触れることも近よることも恐れ多くて出来ませんので、
まさかそのような状態になっているとは、
夢にも思いませんでした・・・」
医師は、気づかないでいて欲しかったのだ。
王はこれ以上、
あの子どもにかかわる必要がない。
抱く相手はよりどりみどりなのに、
なぜあんな手のかかる子どもを寵愛するのか。
そうは思ったが、
それでも医師は最善の療法を提言した。
 
 
 
 
 
 

「外に出してやるのです。
あなた以外の誰かで、
信用できるものにあずけるのが最上策かと思われます」
 
 
 

そして、
王はルフィを選んだ。



 
 
 
 
 
 

 NEXT