桜二重奏
 


 
 

ZORO★SANJI
 
 
 
 
 

その島は、しずかで人の気配のないところだった。
桜の咲き乱れる公園のような場所は、
不思議な空間だった。

咲き乱れた花からは、
いっせいに花びらが散り、
はらはらと地に落ち、
まるで雪のように、
地面を桜色で埋め尽くしていた。
 
 
 

「エッエッエッ、ドラムで見て以来だ。こんなきれいな桜」
「だめだろ、チョッパー、忘れたのか?
去年は宴会したろ!!!」
はしゃぐルフィやチョッパーを身ながら、
ゾロはゆっくり歩いていた。

ここは不思議な気のする場所だ。
殺意とか悪意とかではなくて、
なんだか落ちつかねえ、
ざわざわするような感じ。
なんだってんだ・・・。

ゾロは精神を統一して理由を考えようとしたが、
耳に聞き慣れた声がとびこんできた。
「桜の下を歩くナミさんも素敵だーーーーーー!!!!!
ロビンちゃんも素敵だーーーーーーー!!!!」

・・・。
ゾロはその様子を見て、眉間にしわをよせた。
このうかれっぷりはどうだ。
女どもには何ひとつ変化がないというのに、
サンジ一人がうかれている。
・・・何が素敵なんだ。
魔女みてえなナミと、
得体のしれねえロビン。
なんでここまでメロメロになれるのか・・・。

てめえは誰のもんなんだ。
オレのもんじゃねえのかよ。
オレの腕の中に入ってくるくせしやがって、
ふらふらと女ばかり見てやがる。

ゾロはなんだか、
ムカムカしてきた。
クソ・・・。
なんでか落ちつかねえ。
最近、サンジを見ていると、
よく落ちつかねえ気分になる。
修業が足りねえ。

目をそらすと視界にとびこんでくるのは、
咲き乱れた花と、
舞い落ちる花びら。

ドラム王国。
チョッパーのいた雪の国。
冷たい狂王と、
それに屈しなかった人々。
人々にあざけられた一途な医者の咲かした花。

すげえな。

あの時、ゾロはそう思った。
だが、その言葉を口に出したのはサンジだった。

いつもいつも、
からんできて、
アホで、
女好きで、
どうしようもねえコック。

なのにあの瞬間感じたのはまさしく共鳴。
それは鬼徹や雪走に感じた時と同じ感覚。
コレだ、と。
・・・そう感じた。
・・・なんでだ?

必死で違うはずだと思うのだが、
気づくとクソ生意気なコックを見ている。
・・・・。
ゾロは何とも言えない気分になって、
サンジから目をそらした。
見てはそらし、
そらしては見て。
 
 
 
 

そのうち、ルフィが公園の茶店を発見して、
駆け込んでいった。
「メシーーーーー!!!!!」

ゾロはそこに子供のころに見覚えのあるものがいくつか置かれていることに気づいた。
着物だとか、茶の道具だとか、
墨と硯だとか。

「あら、着物ね。
着てみようかしら・・・」
「ロビンちゅわんも着ればいいのに。
絶対似合うはずです!!!!」
ナミの言葉に、サンジはきらきらと目を輝かせて、
そわそわし始めた。

ルフィはバアさんから借りた、
「墨と筆」というものにすっかり夢中になっていた。

ゾロは、いつもの調子で女たちに美辞麗句を並べ立てるサンジから目をそらし、
かたわらに置いてあった琴に目を止めた。
「・・・琴か」

「おや、お前さん、琴を知っているのかい?
イーストブルーの楽器だが・・・」

「弾けるのか!!!!ゾロ?」
「ほう・・・」
チョッパーの言葉に、バアさんがゾロの方を見た。

アホか、
弾けるはずねえだろ。
ゾロは速攻で否定しようとした。

なのにいつの間にか、
床に座らされ、
どうみても弾くしかないようになっていた。

なぜか油断するとクソコックの方を見てしまう。
それなら、ちっと弾いたほうが気が紛れていいかもしれん。

ゾロが弾くと、
すこし思っていたのと違う音がでた。
なぜだかメロディーにもならない。

何度か弾いたのだが、
予定と違ってうまくいかない。

気づくと、サンジが膝をたたいて笑っていた。
ウソップも大笑いしていた。

なのになぜか笑うサンジにだけ、カチンときた。
「ああ、てめえ、うるせえぞ!!!!」

「ギャハハハ!!!!
今の音聞いたか?
ギューって・・・。
ギューって行ったぞ!!!」
ムカムカ感が頂点に達したゾロは、
笑い続けるサンジを抱えて、
すたすたと歩き始めた。

「オイ!!!!
何しやがる!!!」
ばたばたと暴れるサンジを無視して、
ゾロはずんずんとルフィ達から離れて行った。
 
 
 
 
 

誰もいない桜の園には、
しずかに花びらがまっていた。
ふわりふわりと風にただよう花びら。

ゾロは暴れるサンジの身体をしっかりと抱えて、
どんどん歩き続けた。

あの雪の国で、サンジはナミをかばってケガをしたという。
許せねえ。
絶対に許せねえ。

命を簡単に捨てようとしたサンジを。
こいつを命を捨てるような場面に出向かせたオレを。

オレの剣は勝つ為の剣でもあるが、
守りたいもの一つ守れねえような剣では意味がねえ。

このアホは目を離すと、
すぐにケガをする。
女にもメロメロで好きなように使われている。
ロクなもんじゃねえ。

なのにオレはこいつを見てしまう。
放っておけねえ。
離せねえ。
そうだ、離せねえんだ、オレはこいつを。
・・・なんてこった・・・。
オレはこいつをオレだけのモノにしてえのか?
 
 
 

ゾロはサンジの身体を突然地面に落とした。
「いてえ!!!!
何しやがる、クソまりも!!!!!」
サンジはここぞとばかりに悪態をついたが、
ゾロがのしかかるようしてサンジを押さえつけてきたので、
起きあがれず、
その場でもがくだけだった。
 
 
 

「確かめさせろ」
ゾロはサンジに向かって言った。

大剣豪になる野望には何の迷いもねえ。
疑問もねえ。
ただ戦えばいい。
強くなればいい。

だが、サンジに関しては、分からねえことだらけだ。
疑問ばかりで、
迷うばかりだ。
オレにとって、こいつは不可欠な存在なのか?
こいつが女にメロメロになっていたら、
イライラするのに、
こうしてオレだけを見ているのを見たら、
満たされた気分になるのは何故だ?
どこまで手に入れたら、
オレのモノになるのか?
 
 
 
 
 

サンジは真剣なゾロの視線に、
言葉を失った。

え・・・何?
ゾロは何を真剣に考えている?
迷いのないゾロの視線。
まるでゾロの刀の輝きのような、くもりのない強い意志。
オレはこの目に弱ええんだ。

この目で見られたら、
今日のメシの事だとか、
素敵なレディのことさえ忘れちまう。
オレでなくなっちまって、
ゾロしか目に入らなくなりそうで、ぞっとする。

オレはゾロやルフィには勝てねえ。
それはミホークやアーロンの戦いを見た時に体感として思ったこと。
力じゃなくて、生きざまが、負けてた。
こいつらはすげえ。
オレはコイツに負けねえくらいになりてえ。
まだ遅くねえだろ。
オレは弱くなんかねえんだ。

ゾロやルフィとは対等でいてえ。

けど、この目で見られると、
オレは何もできなくなる。
オレのすばらしくワンダフルで、流暢な言葉が出なくなっちまう。

だってよ、ヘンじゃねえか。
ゾロがオレを見てると嬉しいだなんて。
ゾロがオレをぎゅっとすると、すげえいい気分になるだなんて。
オレにかまって欲しいだなんて。
オレがレディでなく、野郎にドキドキしてるなんて、
言えるわけがねえ。
負けたくねえ相手に触れてほしいと思ってるなんて、
絶対に言えねえ。

時々感じるゾロの視線。
てめえも、もしかしてオレのこと見てんのか?
いつも冗談めかして抱き合ってる。

お互い、性欲処理にちょうどいい相手だろ。
そういいながら、
オレはゾロをもらってる。
身体を少しもらうと、
もっと他も欲しくなる。
少しじゃ足りねえ。
もっともっと欲しい。
けど、そんなこと絶対に言えねえ。

ゾロが欲しい。
これは誰にも言えねえことだ。
そのうち、こんな想いは消えるから、
オレは見て見ぬふりをする。

ゾロにはオレの気持ちは伝わらない。
それでいい。
ゾロは絶対に気づかねえ。
いつも難くせつけて、からんでばかりいるからな。
 
 
 
 

なのにこんな目で見られたら、
オレはどうしていいか分からなくなる。
全てを見抜かれてしまいそうで。

分かっているのに、
目もそらせねえ。
睨み返すことすらできねえ。
ただ、オレはぼーっとゾロを見ちまう。
 
 
 

どうしてコイツなのか?
問うても問うても答えは出ない。
ゾロは自分を見上げるサンジの瞳を覗きこんだ。

いつものふざけた目ではなく、
うかれた時の目もない。
サンジはいつも本当の姿を見せない。
口に出す言葉には真実がこもっていない。

本当の思いを語る時には、
サンジは無口になる。
手に入れたと思っても、
すり抜けていくつかみどころのない存在。

オレは欲しいものは手にいれる。
どんなことをしても。
そしてそれはココにある。

てめえはオレだけを見てりゃいいんだよ。
 
 
 

サンジは雪のように散る花を背に、
ゆっくりと近づいてくるゾロを見つめた。

逃げられねえ。
自分の気持ちからは、もう逃げられねえ。

なあ、てめえはどうしてこんなコトするんだ?
ちっとでも、オレの事スキ?

けど、言葉にすることはできねえ。
ゾロの言葉には嘘がねえと知っているから。

言葉にして確認をしてえ。
けど、もうそんなことも必要ない気がする。
てめえが、ここにいて、
オレの事を見てる。
それが全てだろ。

なあ、てめえもオレを欲しがってる?
これって桜の見せた幻か?
花があんまり綺麗だから、
オレは自分の都合のいい夢を見てる?

てめえがココにいて、
オレがココにいて、
それで満足だ。
 
 
 

ゾロはゆっくりとサンジに口づけた。
かすかに強ばるサンジの身体をゆっくり抱きしめる。
コレはやらねえ。
他の誰にもやらねえ。

めずらしくカジュアルなシャツを着て、
いつもより少年ぽく見えるサンジの肌に手をはわす。
服といい、
場所といい、
いつもとは雰囲気が違う。
ゴーイングメリー号での密やかな情事も燃えるが、
それは闇にまぎれた、秘め事だ。

サンジは無意識に瞳を閉じた。
 
 
 

ゾロはなんだかそれが気にいらなかった。
「オレを見ろ」
てめえの相手はオレだろ。
だったら、オレだけを見ていればいい。

いつも生意気なサンジの瞳が困ったような色をうかべ、
おずおずとゾロを見上げてきた。

!!!!
ゾロの中で何かが切れた。
 
 
 
 
 
 


 


WJ269話「協奏曲」扉絵からの妄想・裏編
表の「桜協奏曲」のゾロサン編です。
 こっからエロってとこで終わってしまいました。
次はヤりますよ、ゾロは。

厨房裏

裏top