匣兵器の宿命

アーロ編





「ベスターは乗り物じゃねえ」
ザンザスは不機嫌に言い放った。
ここはイタリアの人里離れた山の中だ。
山の中に反ボンゴレな基地を築いた馬鹿者どもはヴァリアー幹部による襲撃によって一瞬のうちに破壊された。

「ボス、ぜひオレの雷エイに乗ってください!!」
レヴィが顔を赤らめながら申し出た。
ザンザスはおし黙ったまま答えない。

「ししし。スク先輩は王子を乗せてよね」
「スクちゃん、私もお願いね」
「隊長、ミーもお願いします」
スクアーロは、残りの幹部に頼まれ、うなずいた。
「いいぜえ。アーロは何人でも乗れるぜぇ。なんなら、ボスさんも乗せてやってもいいんだぜぇ」
ザンザスの眉がぴくりと動いた。

「おほほほほほ。レヴィ、ボスをお願いね!!」
ルッスーリアは素早くレヴィをザンザスの方に押した。
「ぬぅ!!! 任せておけ!!! ボス、このレヴィが命に変えてもお運びします!!!!」
ボスのための大役が与えられたレヴィは鼻息荒く言い放った。
「うっわーーー、雷隊長、キモいんでけどーーーー」
「ししし。言えてる」
ベルとフランはさっさとスクアーロの方に近寄った。

ここまで乗って来た専用機は、ザンザスの憤怒の炎の巻き添えをくって炎上してしまった。
こんな山中から帰る交通手段などないし、救援を待つといつになるかは分からない。
ルッスーリアのクジャクは用途が違うし、ベルのミンクでは人一人運べず、
フランの匣兵器に至ってはまだ誰も開匣された時を見ていないのだがスルーされ続けている。
飛べるのはレヴィの雷エイとスクアーロの鮫、それからザンザスのベスターも可能だと思うのだが、乗り物として使うのは嫌らしい。

レヴィは興奮した面持ちで匣兵器を開匣し、うやうやしくひざまづいた。
「ボス!!!! どうぞ!!!!」
かつてない、ボスと自分と二人きりの時間である。
夢のような出来事である。
ザンザス様が自分の匣兵器に乗ってくださるのである!!! 
なんと光栄なことか!!!!

感動のあまりぶるぶる震えるレヴィを一瞥したザンザスはスクアーロの方に向かった。
「おい、カスザメ、てめえのに乗せろ。
のこりのカスどもはレヴィのに乗れ」
「えー、王子、レヴィのには乗りたくない」
ベルが抗議したが、ザンザスの視線を感じて肩をすくめた。
「しようがないわねえ。ボスのご命令だもの!! 
ベル、フラン、行くわよ!!」
切り替えの早いルッスーリアがベルとあぜんと突っ立っているフランを引きずり、レヴィの匣兵器の前に立った。
レヴィは、地面に両手をついて悲しみに震えていた。
「ボス・・・何故だ・・・なぜ、スクアーロなどの・・・!!!
サメのような下品なものに!!!」
衝撃を受けうなだれるレヴィだったが、みな冷たい目でながめるだけだった。

「アーロ、出ろ!!!」
スクアーロは匣兵器のアーロを出し、ひらりと飛び乗った。
ザンザスはむっつりした顔でその後ろに乗った。
「ボス、立つといいぞぉ!!!!」
スクアーロは仁王立ちになり得意そうだ。
アーロは自慢の乗り物なのである。

・・・スクちゃん、それ使い道違うから・・・。
タクシーじゃないのよ。
私のクーちゃんは、寂しい時に一緒に夜回りしてくれるぐらいやさしいわ。
アーロかわいそう・・・。
ルッスーリアの心の声は届かない。
仮に声が届いたとしても、スクアーロの心には届かない。

素早く飛び立ったアーロはもう慣れたものだ。
上で立つスクアーロは、楽しそうに下の景色をながめている。
ザンザスはアーロの上に座って景色を見下ろしていたが、ふとスクアーロに目を止めた。
スクアーロの髪が風になびき、きらきらと輝いていた。
景色より目を奪われるそれに近づき、ぎゅっとつかんでひっぱった。

「ゔぉお゛お゛お゛、何しやがる!!」
バランスを崩して落ちかけるスクアーロに気づき、アーロはあわてた。己の主がピンチである。
救わねば!!!!
思った瞬間、スクアーロの身体はザンザスの腕の中に抱きとめられた。
「ドカスが!! 
えらそうに突っ立ってんじゃねえ!!」
不自然な体制のまま倒れ込んだスクアーロは、妙な雰囲気に顔を赤らめた。
こういうことは、執務室とかボスの部屋ではなくもない。
しかし、今は事情が違う。

「ゔぉおお゜お゜・・・!!」
突然静かになった主スクアーロの気配に、匣兵器のアーロは動揺していた。
明らかに主スクアーロとその上司ザンザスは密着しすぎている。

アーロは必死でヴァリアー本部をめざした。
一刻も早くたどりつかなければ、主スクアーロが危ない!!
というか主スクアーロはザンザスの言いなりになってしまうので、自分ががんばるしかないのである。

かつてないほどのスピードでヴァリアー本部に着いたら、出迎えの隊員達がわらわらとあらわれ、
密着していたザンザスとスクアーロはやっと離れた。
「ボス!!! 
お帰りなさいませ!!!!」
隊員たちはザンザスとスクアーロから微妙に目をそらしながら出迎えた。
二人の間にただよう妙な雰囲気と、いつにも増してエロいスクアーロ作戦隊長。
・・・何があったのか・・・。
考えてはいけない。
考えると仕事に差し支えてしまう。
そう思いつつ、考えを止めることはできなかった。
「散れ」

ザンザスが命じると、部下たちは蜘蛛の子を散らすようにぱらけていった。
「アーロ、ご苦労だったぜぇ」
アーロはそのまま待機していた。
やっと気づいたスクアーロに命じられ、アーロは匣に戻った。
戻る前、アーロをじっと見ているザンザスと目が合った。
ザンザスの目つきはいつも凶悪で優しさのかけらも感じられない。
それでも、それなりにスクアーロを大事にしているのは分かる。
主スクアーロはとんでもなく鈍くて気が利かないので、もう一つ分かってない。
迷惑である。
自分は戦いのために匣から出てくるのに、変な用事ばかり言いつけられたり、妙な場面に出くわしたりする。
間違っている。
間違っているのに、主スクアーロに嬉しそうに言われるとしょうがないと思ってしまう。
自分がこのすこしずれて隙だらけの主人を守るしかないと思ってしまうのだ。


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次回続編ベスター編です。



スクアーロがアーロに獄寺や雲雀を乗せていたのでつい・・・。



モドル