匣兵器の宿命

ベスター編




その日、ヴァリアー幹部はみな仕事に出払っていて、残っているのはボスのザンザスだけだった。
ザンザスは退屈なので匣兵器のベスターを出し、新しい技を試していた。

試し終わった時、ふと気になっていたことを思い出し、ベスターのもふもふの背にまたがった。
「おい、ベスター、飛んでみろ」
レヴィやスクアーロの匣兵器があんなに飛べるのだから、自分のライガーが飛べねえわけはねえ。
ザンザスは自信満々だった。

とうとうきたか。
ベスターははっとした。
ザンザスが飛ぶ匣兵器をいつも目で追ったり、スクアーロやレヴィの匣兵器の話を聞いたりした時から嫌な予感はしていた。
負けず嫌いのザンザスが言い出さないわけはなかった。 
もちろん、自分は百獣の王たるべき存在である。
飛べないわけはない。
ベスターはしようがなく、空に舞い上がった。

「ふははははは、できるじゃねえか!!!!」
子供のように喜ぶ主人を見ると、少しぐらいサービスしてもやむをえないと思った。
自在に空を翔けるなど、ベスターの力をもってしたらたやすいことだ。
しばらく飛び続け、本部を出て森のあたりにさしかかると、眼下にいつの間にか帰って来たレヴィがいて、感嘆の声を上げていた。
「ボス!!! さすがはザンザス様!!!!」
「うるせえ!!」
言い終わらないうちに、ザンザスの手から憤怒の炎が放たれ、レヴィは焦げて倒れた。
「降ろせ」
ザンザスはいつものように尊大に言い、ベスターも何事もなかったかのように気に入りの椅子にザンザスをもどした。

主は繊細なのだ。
ベスターに乗って喜んでいることなど、誰にも教えはしないだろう。
主ザンザスの公私ともの側近であるスクアーロとはえらい違いである。
スクアーロの匣兵器のアーロは、常に雑用にこきつかわれ、己の主の心配ばかりしている。
ベスターはゆったりと座り、大きくあくびをした。
その点、自分の主は鷹揚で、無理難題はめったに言わない。
ザンザスの存在は絶対で、誰もがひれ伏す。
自分の主になるにふさわしい男だ。
ちょっとひきこもり気味で、趣味は銃の手入れとスクアーロいびりぐらいなので、ベスターとしてはそう困ることはない。
いびりと言っても、最後は番って終わりだ。
強いオスとして、ザンザスはメスを手にいれ放題のはずなのに、あのうるさいスクアーロばかりを相手にしている。
濡れ場はさんざん見せられて慣れている。
スクアーロが勝手なことをしたり不在の時は、ザンザスの機嫌はたいてい悪い。
ベスターから見てもスクアーロは「特別な存在」なのに、おどろくべきことに、スクアーロはそれに気づいていない。
主であるザンザスも頑としてそれを認めない。
スクアーロの剣の腕前はなかなかで戦いの際に手助けなど必要ないが、
ベスターはいつの日か「主ザンザスのために」スクアーロだけは助けなければならないのではないかと思う。
ザンザスがたとえ口に出さなくても、自分はそうしなければならないと感じるのだ。
それがルッスーリアがよく言う、「口下手」で「繊細」な「御曹司」を主に持った己のつとめなのだ。



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匣兵器の宿命・アーロ編の続きです。



ふだんはこんなくらいのんびりしているはずです。

モドル