voyage
18
 

 
 
 

 
 アラバスタの戦いから5年。
 ルフィ海賊団は数々の冒険をし、その名を知らぬもののない海賊団になっていた。
 船長モンキー・D・ルフィ、賞金百億ベリー。
 剣士ロロノア・ゾロ、賞金六十億ベリー。
ナミやサンジにも億のつくベリーがかけられており、史上稀にみる高額賞金首となっていた。

 海軍将軍に出世したスモーカーは、麦わらの一味が故郷のフーシャ村に帰るという情報を得た。
 麦わらのルフィと、今や白ひげの後継者はこの男しかいないと言われるポートガス・D・エース。
この二人は一番海賊王に近い男と言われており、スモーカーもまたそう思っていた。

 その兄弟が幼いころに入り浸っていたという酒屋の女主人が急病のため危篤だという。
 それを聞いて、ルフィは故郷に帰ると言ったという。
どこまでが真実かは分からない。
だが、あいつらは妙に情が深い。
ありえねえ話ではねえ。

麦わら海賊団がワンピースに最も近づいていると考えられた瞬間から、クルーたちのあらわれそうな場所には海軍が常駐することとなった。 
ウソップが懇意にしていたというカヤというお嬢さんのところだとか、
ココヤシ村のベルメールの墓やナミの姉のノジコの住んでいるあたりだとか、
サンジのいたバラティエだとか。
青鼻のトナカイがいたドクター・くれはとかいうとんでもない医者だけは海軍の常駐を拒み続けているらしい。
 とにかく、行ってみる値うちはありそうだ。

 スモーカーは自分の白い軍艦を外港で待機させ、私物の小さな船でフーシャ村の港に向かった。
 おだやかで静かなはずの港は、麦わらのルフィと火拳のエースを一目見ようというもの、あやかろうというもの、
無謀にもその首を討ち取ろうとするものなど、烏合の衆でいっぱいだった。
手配書をまねたルフィもどき、ゾロもどきが何人もいて、何が何だか分からない状態だ。
 これでは、逮捕の邪魔になるばかりだ。
 スモーカーは舌打ちをすると、めざす酒場へ向かった。

酒場のあたりにはすでに海軍の生え抜きのすぐれた軍人を配置させている。
すでに店の内部は海楼石で囲まれているはずだ。
麦わらのルフィも火拳のエースも悪魔の実を食っているから、来たらおしまいだ。
虫が火の中にとびこんでくるようなもんだ。
「責任者を出せ」
スモーカーは海楼石のない部屋に入り、店の様子を見渡した。
 小さな店で、いくつかカウンターがあるだけだ。
「コビー大佐です」
内部勤務がにあいそうな男が手をさしのべた。
ぱっとしない外見だが目の光はしっかりしている。
希望してこの任務についたと聞くが、これならいいだろう。
「女主人は?」
「こちらです」
病に伏せて、意識すら定かでないマキノの様子をスモーカーは覗き見た。
 ・・・もう長くなさそうだな。
原因不明の高熱か。
 あいつらは、来るのか? 
「あんたらは、何者だ!! 
わしは村長だ!!  
なのに病人の見舞いにも来れんのか!!」
フーシャ村の村長が大声で文句を言っていた。
村長はマキノの店の異様な雰囲気に驚いたが、村を守るために怒鳴りこんできたのだ。
「海軍だ。オレはスモーカー将軍だ。
ちょうどいい。麦わらと火拳について知っていることを話せ」
将軍? 
スモーカー将軍といえば、泣く子も黙る海賊狩りとして恐れられる男だ。
そいつが、ここに? 
ルフィとエースが帰ってくるとでも思っているのか? 

噂のために、これだけ人が溢れて、妙な輩が徘徊して村はめちゃくちゃだ。
我々の平和な村は、たった二人の兄弟のために大変なことになっておる。
「知らん !!  
あんなバカどものことはもう忘れたわ!!」

食えねえおっさんだ。
スモーカーは葉巻きを吹かせながら考えた。
ここにはあの赤髪のシャンクスも来ていたという。
まさか、やつまであらわれるということはあるまいが。
 
スモーカーは、少年だったルフィやエースの姿を思いだした。
あいつらは変わっただろうか。
コビーの準備した調書に目を通し、スモーカーはルフィとエースを待った。
 よくこれだけ調べたものだ。
ローグタウンでの事件、アラバスタでの戦い、謎の空島と鐘の音。
恐らくこの男に麦わらの伝記を書かせたら、優れたものが書けるに違いねえ。

 スモーカーは、じっと待った。
 隣の部屋からは、マキノの荒い息が聞こえている。
 店の内部には、てこでも動かない強情な村長が残っていた。
待つのはつまらん。
だが、今はこうするしかねえ。

店の中でじっと待っていた時だ。
 表でざわざわとした気配がした。
 来たか、麦わら。
予想通り、正面玄関から入って来た。
「ルフィ!!」
村長は思わずその名を呼んだ。
 ルフィがこの村を出てから、もう5年以上が過ぎた。
けれど、どれほど高名になっても村長の中では小さな少年にすぎなかった。
 来てはいかん!!

 ルフィに続いて青鼻のトナカイが入ってきた。
医者を連れてきたのか。
それから、コックのサンジ。
 バカか。
こいつらに看病させようってわけか。
 お前は、絶対絶命のはずだ。
海軍が取り囲んでいることを知っているはずだろう。
「マキノさんに会いたい」
ルフィがまっすぐにスモーカーを見て言った。
「いいだろう。ただし、逃げ隠れするなよ。そいつらも一緒か?」
「ああ。チョッパーとサンジも一緒だ」
言い終わった途端、戸口から別の声がした。

「ルフィ、もう1人、忘れてるぜ」
「エース!!」
村長は思わず立ち上がった。
「や、どうも村長さん。お久しぶりです」
律儀にお辞儀をするエースの姿は、少し大人びていたけれど、昔のままだった。
世界を支配すると言われる兄と弟は、大人びて、男らしくなったけれど、まったく昔のままだった。
ルフィは麦わら帽をかぶっていて、相変わらず短パンにちゃんちゃんこのような服を着ていた。 
風の噂では、極悪非道だとか、悪魔のようなやつらだとも言われていたが、噂は噂にすぎなかったのだと村長は確信した。

 この兄弟は、子どもの頃と変わっていない。
権力や地位を手に入れると、人は醜くなるものだ。
だが、まったくそうなっていない。
 こいつらがどんな冒険をしてきたかはわしには分からん。
でも、人を悲しませるようなことをしていないことだけは、分かる。
わしの村の子どもたちだ。
間違いをおかすはずはない。
こいつらを見れば、分かる。
 どんな悪い噂も、あてこすりのような批評も、こいつらの存在の前には無意味だ。
もっとも、そういう噂など気にするようなガキどもじゃないはずだが。
海賊は村の恥と言ってはばからない村長だったが、二人の姿を見たのに、どうしてだか安堵していた。





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