voyage
19
 

 
 
 

 
 ルフィたちがマキノの部屋に入ると、高熱ですでに意識のない状態で、身体はだいぶ衰弱しているようだった。
「ケスチアだ」
チョッパーの言葉に、サンジは驚いた。
 ドラム王国で、ドクター・くれはがナミさんを治した病気。それがまさかこんなところに?
 この村は、最近、ルフィとエースのせいで招かざる客が増えたらしい。
そのせいか・・・。
だけど、それだったら、チョッパーは治せるだろう。

「治せるのか?」
ルフィの言葉に、チョッパーはこっくりとうなずいた。
「サンジ、マキノさんに食い物を!!」
ルフィはにこにこして言った。

サンジはうなずき、マキノの部屋を出て、酒場のすみのキッチンに立った。
部屋の隅には海軍が立ちふさがっていて、カウンターにはスモーカーが座っていた。
 これじゃ、逃げようがねえよな。
もっとも、マキノさんって人が治るまではオレたちも動く気はねえけどな。
「よう、あんたらも何か食うかい?」
サンジはルフィの食い物を作ったついでに、海軍にも声をかけた。

「我々は任務中だ!!」
真面目に答えるコビーをじっと見ていたルフィが大声で叫んだ。
「お前、コビーじゃないか!!  懐かしいなあ!!  
海軍にはいったんだな。良かったな!!」
「へえ、ルフィ、知り合いか?」
「オレが仲間さがししてる時に会ったんだ。まだ、海軍じゃなかったけどな」

「いや、じ、自分は・・・」
うろたえるコビーの前に、どんと皿が置かれた。
「昔のことは、どうでもいいじゃねえか !!
 再会を祝してぱーっといこうぜ!!」
いつの間にか、スモーカーの前にも、酒とつまみが置かれていた。

「そらそうだわな。
あんたたちもあせらないで、さあ飲め!!」
エースに酒を押し付けられた海軍たちは顔を見合わせ、それからスモーカー将軍の顔色をうかがった。

 目の前では、エースとルフィががつがつとメシを食っている。
 スモーカーは苦虫をかみつぶしたような顔をした。
完全にこいつらのペースだ。
オレたちが、ぴりぴりしてるのがバカらしくなるような・・・。
じっと様子を見ていたコビーがおそるおそる聞いた。

「空島は本当にあったのか?」
麦わら海賊団の伝説は謎に包まれている。
誰もが聞きたい冒険話だ。
「ししし、あったぞ!!
  ひし形のおっさんの言葉は本当だった」
その話はスモーカーもあずかり知らぬところだ。気になって、つい聞いてしまった。
「ひし形のおっさんとは何だ?」
ルフィの話はいっこうに要領をえなかったが、側にいたサンジが時々解説をしたので、その場にいる者にもだいたいのことが飲み込めた。

「その後、ゴッド・エネルとやらはどうなったんだ?」
いつの間にか、村長までが話の輪に加わり、スモーカーが気づいた時には、サンジの作った料理に海軍のものたちが手をつけはじめていた。
「う、うまいな、これ」
「しししし、そうだろ。サンジは世界一のコックだからな!!」
自信たっぷりに言い放つルフィをコビーはうらやましい気持ちでながめた。
 
初めて会ったあの時と同じだ。
なんの迷いもなく、自分の信じる道を進むルフィ。
一歩一歩夢に近づいているんだ。

「そうか。それで、謎の鐘の音が聞こえたのか」
海軍に寄せられていた、謎の鐘の音の情報。
それは、ルフィが地上にいるたった1人の男に聞かせるものだったのだ。

そして、空島は救われたのだ。
アラバスタ王国もそうだ。
あの国を救ったのは、今、目の前でメシを食い散らかしている男なのだ。
 
こいつはオレの命も救ったのだ。
スモーカーはいまいましい気持ちで思った。オレはこのガキが嫌いじゃねえ。
火拳もそうだ。
だが、任務は任務だ。
正義の名のもとに、オレはこいつらを逮捕しなければならねえ。
これだけ名前を売ったこいつらの末路は絞首刑か斬首か。
いずれにしても死はまぬがれねえ。

 スモーカーは話を聞きながら、チョッパーとサンジの様子をうかがった。
チョッパーはマキノの側にいて、せっせと薬を作っているようだった。
 サンジは次々と各国で覚えたという料理を出しながら、チョッパーに何か聞いて、
タッパーのようなものに、慎重に量をはかって何かを詰めていた。
おそらくマキノの病人食だ。
注意して見ていないと分からないくらいに手際よく、サンジは次々に料理を作っていた。
 大したもんだ。
確かに、麦わらの目は高い。
ここにある料理は、どれも高級レストラン並みだ。
これだけの料理の腕があれば、どこでだってやっていけるだろう。
よく、連れてこれたな。
あの赫足のゼフのところにいたというから、こいつもひとすじ縄ではいきそうにねえ。
見てくれはただの優男なんだがな。

 エースは心からサンジの料理を楽しんでいた。
 ここから逃げる算段はあとですりゃいい。
久しぶりのサンジの手料理なんだ。
もう動けなくなるまで食うしかねえ。
だけど、サンジ、なんだか大人っぽくなって、色っぽくなったよな。

「すげえ、うめえ!!」
そう言うと、サンジが嬉しそうに笑った。
 あ、昔と同じ笑顔だ。
オレの好きな、ふんわりした笑顔。
 良かった。
サンジはこんなに嬉しそうに笑えるんだ。
そりゃルフィは大事にしてるだろうから。

 サンジは久しぶりに会ったエースの帽子をじっと見た。
 こんな状況なのに、オレはどきどきしてる。
だってよ、エースが手を伸ばせば届くぐらい近くにいて、オレのメシをうまいって食って、オレのやった帽子をかぶってる。
 
長い長い航海の中で、オレは何度エースに出会うのだろう。
そのたびに嬉しくなったり、苦しくなったりするにちげえねえ。 

いつか、忘れられる。
いつもそう思っているけれど、それはまだみてえだ。
だってよ、ちょっと顔を見ただけで嬉しいだなんて、どうかしてる。

「ルフィ、マキノさんが気がついたぞ!!」
チョッパーの声に、ルフィとエースは飛び出すようにしてマキノが寝ている横の部屋に向かった。
 ルフィとエースがマキノの部屋に入った瞬間、スモーカーが部下に目配せをしたのをサンジは見た。

 ?
 今、何しやがった?
 コビーがごくりと息を呑んだ。
 サンジはへらへら笑いながら、海軍連中に料理を作り続けていたが全神経を隣の部屋に集中させた。

 部屋の中からは何の気配もない。
 村長は、海軍の雰囲気が急に変わったことに気づいた。
「?? どうしたね」
村長が言った瞬間、サンジはマキノの部屋に突っ込んだ。
 中に入ると、マキノの側に、ルフィとエースが倒れていた。 




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