voyage
20
 

 

  海楼石か!!  
戸を塞がれたら、終わりだ!!
 外で戦ったら、スモーカーに勝てるはずがない。
サンジにもそれが分かっていたから、サンジは申し訳なく思いながら、戸の横の壁を吹っ飛ばした。

 轟音とともに、店の横にぽっかりと穴があき、どんどんとギャラリーが集まってきた。
しかし、店の周りは海軍によって完全に封鎖されていた。
「スモーカー将軍、無事でありますかっ!!」
スモーカーは部下たちを追い払うと、サンジが外に出てくるのを待った。
麦わらの一味で動けるのは、あのコックただ1人。
やつに勝ち目はない。

「あれ・・・力が全然はいらねえ」
「エース、これは海楼石だ。
悪魔の実を食ったやつはみんなこうなるんだ」
 
マキノは目覚めた時、知っている子どもたちが側にいるのに気づいた。
妙にぐったりしていて、知らない青鼻のトナカイもいたけれど、マキノはかすかに笑った。
 
フーシャ村にDの子どもたちが帰って来た。
あまり元気そうではなく、情けない表情だが、それはお互い様だ。
  「マキノさん、今日も店の食い物と酒、食いつくしちまった」
エースが倒れたまま言った。

「ししし、宝払いのツケをオレはちょっとだけ持って来た。
ナミから だまって借りてきた」
ルフィはポケットの中から、サウスバードの形をした黄金を置いた。

「オレだって、ちょっと持って来た」
エースは帽子をとって、白ひげのマークの黄金を置いた。
 驚くマキノに、ルフィが言った。

「それと、ヨメさんを連れてきた」
「いや、サンジはオレがもらう」
倒れていたエースががばりと起き上がった。
「だめだ!!  お前はサンジを泣かせる!!」
ルフィもむくりと起き上がった。
「「サンジはオレのだ !!」」

二人が同時に怒鳴った瞬間、サンジがマキノのところに飛び込んできた。
自分で音をたてた為、サンジは二人の会話を聞いていなかった。

 振り返ったエースとルフィに、急にさすような目で見られ、サンジは固まった。
 え・・・何?
 二人の剣幕に驚き、倒れているチョッパーを見て、それから身体を起こして自分を見ているマキノさんを見た。

「ああ、運命よ!!  
なんて素敵な人だ!!  
天は美しすぎる貴女を嫉妬して病という罪を架したのです!!  
でも、もう大丈夫です!!   
貴女だけの騎士が今ここに参上いたしました!!」
挙動不審にくるくる舞うサンジをマキノは不思議なものを見る目で見た。

 サンジの行動はマキノの理解を越えていた。
ルフィやエースより理解できないといってよかった。

 スモーカーは隣室の様子を伺っていたが、聞こえてくる音が理解できず、しばらく反応できなかった。
 ・・・今、麦わらと火拳は両方、サンジはオレのだとか言わなかったか? 
その後で、あのコックが言ったことはまったく理解不能だ・・・。
幻聴か? 
幻聴だな、きっと・・・。
 クソ、あいつらを海楼石で動けなくするのはいいが、オレも入れんのは都合が悪い。
悪魔の実は時としてやっかいだ。

 サンジはじっと見るマキノにひざまづくと言った。
「もっと御一緒したいのですが、ここを去らねばなりません。
外は囲まれています。
こいつらは見ての通りの役立たず・・・」

「地下の道があるわ。ルフィとエースは知ってるでしょう」
マキノはふらふらと立ち上がった。

「「マキノさん!!」」
ルフィとエースは叫んだ。
 叫んだが、さらにだんだんと力が抜けていく。

 マキノはにっこりと微笑んだ。
「この部屋には私が誰も通さない。
だから、あなたたちは、行きなさい」
そう言うと、今まで寝ていた枕元に『薬』と書かれた小さな袋があるのがたくさんあるのをじっと見た。
 
この子たちは私の命の恩人。
そして、夢をまっすぐに追いかける旅人。
海賊がなんだっていうの? 
私はこの子らを守る。

 サンジは急いでチョッパーを背にくくりつけると、力の抜けたエースとルフィをひきずってマキノの教えてくれた道への扉をあけた。
「それは、昔、ルフィとエースが作った道なの。
 サンジ君って言ったわね。
この子たちを頼みます」
今まで病の床に倒れていたとは思えないほど毅然とした態度に、サンジは思わずうなずいた。

このひとはすげえ。
ルフィとエースはこんなすげえ人に見守られてたのか。 

マキノは消えてゆくサンジの後ろ姿を見つめた。
 あのルフィとエースが口を揃えて言ったこと。
あのサンジってコのことが好きなのね。
いつだって二人は好きなものが同じだった。
でも今度ばかりはエースがルフィにゆずる気はなさそうね。
それでいいのよ。

いつも弟を大事にしていたエース。
仲のよい兄弟だった。
きっと誰もがあの子たちを好きになる。
ルフィとエースのために戦おうとしていたあの金髪のコも。

 幸せになりなさい。
私たちはいつでも、あなたたちの幸せを祈っているから。

 海軍は急にしずかになった部屋にマキノが立っているのを見て顔色を変えた。
「貴女は・・・・、何をしたのか分かっているのですか?」
コビーは叫んだ。
 重罪人の逃亡幇助。
それも海軍がいる前で・・・。
「分かっています。
けれど、私はあの子たちを守りたい。
あの子たちは夢に向かって進んでいるだけです」

誰を傷つけるわけでもない、誰かを苦しめるわけでもない。
ただ、求めてやまない夢があるだけだ。

「港を封鎖しろ!!」 
スモーカーは店を飛び出した。
 
麦わらにかかわるやつは皆こうなる。
自分の保身を捨ててまで、やつの夢に共鳴する。
やつらがお前たちの叶えられない夢を叶えるとでも思っているかのように、やつらを助ける。

 何故だ? 
自分で夢を見ず、人に夢を託すだけで、どうして幸せになれるというのだ?

 麦わらは人を変える。
 人が人として生きるために大切なものは何かというのを常に問いかける存在だ。
それが、海賊王だ。
それでこそ、海賊王だ。
 麦わらは、また一つ、伝説に近づいた。
スモーカーはそれを確信した。
 やつは、いつか海賊王になる。そして、世の中を変える。
オレは『伝説の時代』にかかわっているのか。

 スモーカーが港につくと、そこでは何故か盛大な花火大会が始まっていた。
すべての船から、盛大に打ち上げ花火が上がっている。
「止めさせろ !!  
何の騒ぎだ、これは!!」

「あの船には鼻の長い男が、あちらの船にはオレンジの髪の女が、
向こうの船には刀を3本さした腹巻の男があらわれて花火を置いていったそうでして・・・」
「バカ野郎!!
  麦わらの一味じゃねえか!!」
「ですが、将軍・・・そんな格好のやつは何人もいて・・・」
部下のたわごとを無視して、スモーカーは船に乗り込んだ。
麦わらのルフィ、そして火拳のエース。
このオレから逃れられると思うなよ。



 そのころ、サンジは力の抜けたルフィとエースとチョッパーをずるずるひきずりながら、真っ暗な穴の中を歩いていた。
 せまい穴は、通り抜けるのがやっとで、時々、1人を置いて、先に1人を運ばないといけないほどだった。
 ずっと歩いていると、やっと明かりが見えてきた。
 ときおり、ドーンとかパーンとかいう音が聞こえて来る。
 
やつら、はじめやがったか。
サンジは暗闇にうかぶ鮮やかな光を見た。
ウソップの花火が、空を彩っている。

 あいつらは船という船に、祝福の花火をくばった。
 ウソップは器用だから、中にはたくさん麦わら海賊団のドクロのマークのも仕込んであるらしい。
あれはオレたちを呼ぶ合図だ。
メリー号からは、ルフィの決めた目印の花火があがることになっている。
それに向かって進んでいけばいい。
 





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