voyage
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 人との出会いは偶然にしかすぎない。
 その中には、稀に運命的な出会いがある。
 人生を変えるほどの誰かと出会ってしまったことは、幸なのか、不幸なのか。
 
 
 
 
 
 
 
 

 モンキー・D・ルフィ、
賞金三千万ベリー。
 
 

 はじめて麦わら海賊団の名で手配書が出回った時、
フーシャ村の人々は嘆いた。
だが、いつかこうなる気はしていた。

 17才になると、ルフィもフーシャ村を飛び出していった。
エースとルフィのいなくなった村はしずかになり、
落ち着いて生活できる日々が戻って来た。

「まったく、あいつら兄弟にも困ったもんだ。二人そろって賞金首とはな」
 村長はため息をついた。
 麦わら海賊団の船長と、白ヒゲ二番隊隊長。

噂にささやかれる兇悪な海賊たちが、この村で走り回っていたなどと誰も信じまい。
あいつらは並外れているが、いいガキどもだったと誰が信じる?

 我々は、エースとルフィが一般に言われる極悪非道な海賊などになりようがないと知っているし、
そうはならないことを願っている。
 

 けれど、もう彼らは手の届かないところに行ってしまった。
冒険と争いの世界に。

  流れてゆく時をとどめることは誰にもできない。
 失った時をとめることも誰にもできない。

やり直しなどできないことを知っているからこそ、
ルフィは前しか見ない。
 
 
 
 
 

 海に出たルフィは仲間を手に入れた。
   航海士のナミと、
剣士のゾロと、
狙撃手のウソップと、
コックのサンジと、
医者のチョッパー。

今は、ビビのためにアラバスタに向かう所だ。
 ゴーイングメリー号は、着々と航海を続けていた。

 病気のナミのために立ち寄ったドラム島では、仲間を失うかと思った。
だれもがかけがえのない大切な仲間だ。

 けれど、ルフィには特に大切な仲間がいた。

 ルフィより年上で偉そうにしているコックのサンジ。
一目で気に入って、懸命に声をかけ、ついに自分の船に乗せた。

 サンジのメシはうまいから好きだ。
サンジがうまそうなものを手にしてあらわれると、わくわくする。
メシがうまいというと、サンジは嬉しそうに笑う。
それを見ると、すっげーすっげーいい気持ちになる。

 サンジをながめていると全然あきない。
魔法のようにうまい食い物を作ってくれる。
だから、サンジのことが好きなのだとずっと思っていた。
 

 けれど、あの雪山で、サンジが自分を犠牲にしようとした時、ルフィが気づいた。
食い物がなくても、サンジがいる方がいい。
どんなご馳走があっても、サンジを失ったら無意味。

 ナミを守らなければいけないと思っていたのに、
ぐったりしたサンジを見た瞬間、すべてを忘れた。

 雪の冷たさも、
崖をのぼる痛みも、
身体の重みも、
何も感じなくなった。

 ナミが病気と分かっていても、
笑えたし、助かると信じていられたのに、
サンジが雪の中に沈んでいくのを見た時、
世界は色を失った。
色覚がたたれ、感覚のすべてはしびれて麻痺したようになった。

 サンジが死んでしまう。

 それは考えたこともないことだった。
ナミは女だから、守らないといけない。
ゾロは剣士で、半分死にかけたりしているから死を考えたことがある。
ウソップも弱いから、死なないように守らなければならない。
 けど、サンジはいつも偉ぶっているし、結構強いので、
生命の心配をしたことなどなかった。

 ルフィの目の前には、いつだってサンジがいて、
ルフィの大好物の骨つきの肉を出してくれる。
ルフィが肉の味をほめると、
きらきらした笑顔を見せてくれる。
それを見ると、心の中がほんわりと温かくなるのだ。

 ルフィから見たら、サンジは充分子どもっぽいのだけれど、
本人はお兄さんのつもりでいるらしい。
 すぐに指図するし、
蹴るし、とても乱暴だ。

けれど、時々、すっげーかわいい顔をする。
あの金の髪も好きだ。
 それに、いつもうまそうな食い物のにおいがしている。
料理してなくて、
シャワーの後なんかでも、
なんかすごくいいにおいがする。
きっとサンジがタバコばっかり吸ってるのは、
いいにおいをごまかすためなんだ。

 サンジは結構利口だと思う。
オレの知らないことをよく知ってるしいろいろなことも教えてくれる。
けど、女の話になると目がハートになって、
案外バカなんだなって思う。

 あの何でも信じるチョッパーですら真にうけないようなことを真剣に言っている。
雪国の女は肌をこするからすべすべだとか、
雪の白さがしみこんで白いとか。

バカだ。
だってよ、サンジの方がよっぽど色白いくせに。
そこいらのヘンな女よか、
よっぽどキレイだったり、かわいかったりするのに。

サンジを見てると、なんかさわりたくなったりチュウとかしてみたくなったりする。
 さわったら、真っ赤な顔をして蹴られる。
ししし、でもそこがまたかわいい。
 

 サンジがそばにいるとうきうきして、
とても楽しい。

サンジが誰かと一緒にいると、
なんかむかむかして嫌な感じがする。

それが、何なのか、ずっと分からなかったけれど、
サンジを失うかもしれないと思った瞬間、気づいた。

 これは、特別な想いだ。
そばにいるだけで嬉しくて、
もっともっと近づきたくて、
オレだけを見て笑って欲しい。

サンジじゃないと駄目なんだ。
 
 
 

 ドラム王国での色も音も失ったモノトーンの世界の中、
ルフィはひたすら頂上をめざして登った。
 

 あきらめたら、すべては終わる。
本当に欲しいものをあきらめてはいけない。

 一瞬も無駄にできない。
言葉なんて必要ない。

オレが痛みを感じているヒマなどない。
呻く間があれば、少しでも多く頂上をめざせばいい。
意識のすべてはサンジを助けることでいっぱいだった。
 
 
 
 
 

 再び目覚めた時、まず隣に寝ているサンジが見えた。
近寄って触れると、サンジはゆっくりと目をあけた。
深くて青い目の色。
きっと、オールブルーの海ってこんなんに違いない。
 青い、
青い、
見渡す限り広がる青い海に、
すげえうまそうな魚がいっぱい乱舞するように泳ぐ海。
 
 

 オレもそこへ行って、サンジに料理してもらうんだ。
ししし、すっげえうまいに違いない。

 サンジの瞳は夢の色。
そして、髪の毛は、
まぶしい金色。

そうだ、フーシャ村にいっぱいあった、
黄色くて秋にタネが食える花みたいに、
なつかしくて、いとしい。

サンジの髪はあの花に似ているんだ。
オレの一番好きな黄色い花に似てる。

光があたったらキラキラして、
ついじっと見てしまう。

 どうやったらオレだけのものになる? 
オレだけを見て、
オレだけに笑ってくれたら、
きっと最高に幸せだ。
 

 オレはサンジが好きだけど、
サンジもオレを好きになって、
サンジと「愛しあい」たいんだ。
 
 
 

 
 
 
 

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