voyage
3
 
 
 

 ドラム島を出て、数週間がたつと、
チョッパーもだんだんと船に慣れてきた。

青鼻のトナカイとしてトナカイ仲間からも排除され、
ヒトヒトの実を食べても人になりきれないチョッパーは、
くれはやヒルルク以外に心を開ける人間はいなかった。

でも、彼らはチョッパーを憎み狩ろうとした人間達とは明らかに違っていた。
乱暴で恐いと思っていたゾロなども、
慣れるといいヒトだということがだんだんと分かってきた。
それぞれのクルーの立場とかそういうものが見えてくるようになった。

明るくまっすぐなルフィのおかげで、
チョッパーもだんだんとのびのびと生活できるようになっていた。

 そのルフィが時々、
とても機嫌が悪くなる時があることにチョッパーは気づいた。

サンジがチョッパーをぎゅうっと抱いたり、
一緒に風呂に入ろうとした時など、
ルフィが凄く怒ったのだ。

「ずるいぞ、チョッパー !!!   」
あまりにルフィが怒るものだから、
見かねたゾロがチョッパーを洗ったり、
抱いて昼寝をしたりするようになったほどだった。

「・・・、なんでかな。
オレ、ルフィに嫌われてるのかな」
落ち込むチョッパーを見て、ゾロもナミもため息をついた。

「まあ、ついに導火線に火がついたって感じなだけよ。
チョッパー、 あんたはただの起爆装置だっただけ」
「???」
意味の分からないチョッパーをひょいとつまみ上げたゾロは、
「寝るぞ」
と言うと、さっさと男部屋に向かった。
 
 

 ルフィが誰を見ているかなんて、
この船に乗っていたらすぐに分かることだ。

あの生意気なコックのどこが気に入ったのか分からないが
最初から物凄く執心していた。

生意気でムカつく奴だが、
確かに料理の腕は一流だ。

ルフィはいつも褒めちぎるので、
その時ばかりはコックの表情はやわらかくなり、
嬉しそうな顔をしている。

 サンジ自身、ルフィが手を出そうとしていることは知っているようだ。
だが、受け入れているような、いないような、微妙な雰囲気だった。

 サンジの骨の状態が良くなったと知り、
ナミが持ち出したとんでもない賭け。

『ルフィはサンジ君の身体が治って一週間以内にサンジ君をモノにするかどうか?』
魔女にだまされて、
オレとウソップは勢いで十万ベリーも賭けちまった。

モノにしないって方に賭けたが、
あの女は魔女だからな。
自分の目的達成のためには何をするか分からねえ。

 確かに、ルフィはサンジがチョッパーをぬいぐるみみたいにしているのを見て、
いらいらしているみてえだ。
ナミの時にはそうでもねえのに。

 べつに、ルフィが誰を好きになろうと口出しすべき問題ことではないし、
言うだけバカバカしいはずだ。
だいたい、あのルフィが一度思いこんだことを変えるわけはねえ。
 
 

 ゾロがチョッパーを連れていくのを見て、
ルフィはキッチンに向かった。

ナミからは、サンジのケガもほぼ治ったし、
キッチンには誰も近寄らないようにしてあげると言われた。
ナミの協力料は宝払いということになっている。

 キッチンをのぞくと、サンジはすでに片づけも明日の仕込みも終えて、
ぼんやりとタバコをくゆらしていた。

 ルフィの姿を見ると、
サンジは条件反射的に、何か食い物を作ろうと動いた。

「サンジ」
ルフィがいつもと違う口調でその名を呼んだ。
いつもの食い物をねだる声とは明らかにトーンが異なり、
戦いの時のような厳しい顔をしていた。

「なんだ、ルフィ。
ガキは寝る時間だぞ。
また夜食が食いてえのか? 
晩飯のあまりで作れるもんなら・・・」
 

「サンジ」
サンジの言葉を遮るように、
ルフィはもう一度、その名を呼んだ。
 

 サンジは背を向けたまま、ため息をついた。
「サンジ、オレの方を見ろ」
なんの迷いもないルフィの言葉。
 

 ルフィの言葉には嘘はない。
迷いがない。
 分かっているから、知らないふりを続けてきた。

時おりサンジに注がれる熱い視線。
キスをせがまれる時もあった。

 今は本気でも、一時の気の迷いにしかすぎない。
きっと、ルフィはまだレディの良さが分からねえお子様だから、
男に走ったりなんかしているんだ。

 ルフィの執心に気づいた時から、
ルフィが他の誰かに興味をうつさなければ、
いつかヤられるかも、という気がしていた。

 サンジは男も女も経験豊富だと自負していた。
 女がいない場所では、男が女の代わりとされる。
バラティエは男ばかりの店だったから、
そういう対象とされることには慣れていた。
 
 
 

 いろんな相手と身体を重ねたけれど、
記憶に残るのは、
たった一人だけ。
 
 

 その男は、サンジを迎えに来るといったまま、
二度とあらわれなかった。
 
 

しばらくはそれを信じて待ったけれど、
その一日一日はサンジにとって長過ぎた。
 

 もう、いい。
アイツはもう来ない。
 

 いくら待ったって、捜すものはあらわれない。

オールブルーだってそうだ。

じっとしていたって、何も手に入らない。

 
 
 
 

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