voyage
21
 

 

 
一斉に花火が打ち上げられ、あたりは昼間のように明るくなった。
その時、サンジは自分がいる場所にやっと気づいた。 

ひまわりだ。
 あたり一面、ひまわりが咲いている。

 いつか、ルフィが言っていた。
子どものころ、いつも黄色い花の咲いているところで遊んでいたと。
そこを海賊の大海原に見立て、よくエースと戦っていたと。
 
ここだ。
 ここに違いない。

 マキノさんの店にまっすぐつながった場所。
 ここに、ルフィとエースの全てがあったんだ。

サンジは花火に照らされる花をまばたきするのも忘れて見た。
この場所で、すべてが生まれたんだ。
ルフィとエースの大切な場所。
そう思うと、胸が痛くなった。

「サンジ」
いつの間にか、ぐったりしていたルフィとエースがしっかりとサンジの手を掴んでいた。
「ししし、お前にここを見せたかった」
「オレこそ」
すっかり元気になったルフィとエースにはさまれて、サンジは急に自分の状態に気づき、真っ赤になった。
 
 心臓がばくばくいって、気が動転しそうだった。
 サンジは激しく動揺していたが、サンジにおぶわれたままのチョッパーもまた、激しく動揺していた。
 サンジがルフィとエースと交尾したことがあるのは知っている。
 オレ、さっきから気がついてたんだけど・・・。
気づいているなんて、とても言えない。
死んだふりだ・・・死んだふりしかない。

 サンジはルフィを見て、エースを見て、せわしなく目を泳がせた。
いつもならいくらでも言葉が出るのに、何も言えなくなって、サンジは困り果てた。

 頭上では、盛大に花火があがっていたが、ルフィとエースは花火など見てはいなかった。
 花火に照らし出されるサンジの姿だけを目に焼きつけ、エースはしずかにサンジの腕から離れた。

 今は、まだ、その時じゃねえ。
愛を語るのは先でいい。
 オレたちはこの罠をすりぬけていかなければならねえ。

 エースの様子に気づき、ルフィもサンジの腕から離れた。
 ここで、サンジを愛でるのはたやすい。
けれど、そうしていたらオレたちの未来は閉ざされてしまう。
とにかく、ここは逃げるしかないんだ。 

ルフィは空を見上げた。
 ウソップの花火はさまざまな形をして天を彩っていた。
「うおっ、あれって、さっきのケムリ野郎の形の花火だ!!」
「オイ、あの美人のお姉様の形の花火は誰なんだよ!!      知らねえよ」
サンジが美女の花火にすばやく反応した。

「ありゃ、ヒナ将軍だ。あの女は恐らくこの港に来てる」
エースは冷静に説明した。
 エースもスモーカーやヒナと対峙したことがある。
あの女将軍はなかなかやっかいだ。
頭も切れるし、他人の弱点を見つけることにかけては天才的だ。
 スモーカーは、卑怯な方法を好まず、正面衝突だけを狙う正当派の将軍だが、ヒナは謀略やスパイ活動も多用する油断できない将軍だ。
 
ルフィたちは、港に向かって走りはじめた。
 港は人でごったがえしていて、どれが海軍で、どれが麦わらや火拳のにせものなのかも分からないくらいになっていた。
 サンジはチョッパーを背負ったまま、ルフィとエースに手を繋がれて、人込みの中をどんどん歩いた。
 離れそうになると、ぎゅっと手を握られた。

 明日になると、新しい冒険が待っているから、今だけは、ともに。 
港に着くと、停泊している船という船から、ウソップの花火が打ち上げられていた。

 名付けて、麦わらのルフィ帰還花火大会。
 船に残ったクルーたちはせっせと花火を配り、一斉に花火を打ち上げてもらうように依頼した。
ゾロの場合は脅しも入っていたのだが、本人にはもちろん自覚はなかった。

 ゴーイングメリー号は港の中を彷徨っていた。
めだつ船首ですぐに見つかってしまうから、他の船に出会いそうになると向きを変えた。

 船のあり場の目印は、花火。
 ルフィたちはそのへんにあった小舟に勝手に乗ると、港の中の、ゴーイングメリー号を捜した。
 チョッパーが、ずっと大事に持っていた目印の花火に火をつけた。
 それは、空中高く舞い上がり、大きくはじけた。
「おおっ、あれは青鼻のトナカイ、チョッパーの花火だ !! 」

 それを合図に、ウソップの形の花火や、ナミの形の花火、サンジの形の花火が次々とうちあげられた。
ゾロとルフィの花火があがるとひときわ盛大な歓声があがり、港に集まった人々の喧噪と興奮は最高潮に達した。
 ルフィはその花火をじっと見て、きっぱり言った。
「ゴーイングメリー号はあっちだ!!」
ルフィが指さした方向を見て、サンジは顔を赤らめた。
メリー号の印の花火を知っているのは、ルフィだけだった。
チョッパーにもサンジにも知らされていなかったからだ。

 エースは緊急事態なのに、ゆっくりと船を漕いだ。
 サンジの花火が目印とは。
我が弟ながら、やるな。
いや、オレもきっと同じことをするな。

 他の船をさけながら、ゆっくりと進んでいく小舟。
 このままで、終わるわけはない。
海軍はそれほど甘くない。

 ルフィたちを乗せた小舟がゴーイングメリーをとらえた時、それまで影も形も見えなかった船が忽然とあらわれた。
 右のはスモーカー将軍の船。
左のはヒナ将軍の船か。
はさみうちってわけだ。

 スモーカーとヒナは悠然と、ルフィたちがメリー号に乗り移るのを待っていた。
 それぞれのクルーの花火が各船から打ち上げられた瞬間、
スモーカーからヒナに『コックの花火をあげた船に行け』という指令が伝わった。
 ヒナは手袋をきっちりとはめ、甲板に立った。 
どうしてコックなのかは分からないけれど、スモーカー君の読みどおりだわ。

あそこにいるのは、火拳のエースだわね。
気の毒だけれどこの村に帰ってきたのが、運のつき。
私があなたたちをロックして見せるわ。

 スモーカーは揺れる船の中から、ルフィとエースとサンジとチョッパーの姿を見た。
麦わら、お前はバカだ。
もし、ロロノア・ゾロの花火が合図だったら、オレはここに来ていなかった。
そのコックがそんなに大事なのか? 
だったら、一緒に逮捕してやるのがせめてもの情け。

「遅いわよ   あんたたち!!」
ナミは待ちかねて叫ぶと、ゾロがすばやく錨をあげた。
 ウソップはスモーカーの船とヒナの船、どちらを狙撃するべきか迷っていた。
 いかん。一隻はしずめられても、その間にもう一隻が接近してしまう。

「白い船を狙え !!」
エースが船をまっすぐ見て怒鳴った。
 スモーカーの船を沈めるのが先決だ。
このままでは、ちっぽけなメリー号など、簡単にしずめられてしまう。 

打ち上げられる花火とともに、砲弾がメリー号に降り注いできた。
 不意にエースが、乗ってきた小舟に飛び乗った。
「エース!!」
ルフィが叫んだ。
「ルフィ、サンジを頼む。
サンジ、できの悪い弟だが、よろしく頼むよ」

「エース!!」
サンジも叫んだ。
どうして? 
さっきまで、手を繋いで一緒に逃げてきたのに。
足ががくがくして、手が震えた。

 エースはサンジを振り返ると、帽子をとってお辞儀をした。
「姫、必ず迎えにまいります」
エースはそれからサンジに背を向け、二度と振り返らなかった。

 砲弾を浴びせられながら、小舟でヒナの船に接近した。
船に乗り込み、火拳をくり出し、ばたばたと敵を倒した。

「私の船で好き勝手は許しません」
 マントを翻したヒナ将軍がそこには立っていた。
能力者同士の戦いだ。エースは気をひきしめた。
 この女はひとすじなわではいかない。
サンジがここにいたら、怒りまくるだろうが、オレはここで負けるわけにはいけねえ。 
あんたにはうらみはねえが、オレには守らなければならないものがある。男には、命をかけても戦わなければいけない時があるんだ。

「火拳!!」
幾度めかの応酬のあと、ヒナの身体がぐらりと傾いた。
「悪いな。死ぬほどはやってない」
ヒナを生かしたまま、船を去ろうとするエースを見て、ヒナはポケットにしのばせたスイッチを取り出した。
「屈辱、ヒナ屈辱」
どんなことがあっても、私の檻の中から逃げられない事をあなたに見せてあげるわ。
 ヒナがスイッチを押すと、船の中心部で微妙な振動が始まった。
 ・・・何だ?
 エースは船の奥から聞こえる異常な音に気づいた。
 ・・・まさか!!
 
異変に気づいた瞬間、轟音とともに船が爆発した。
 ゴオオオオ!!
  爆音とともに、ヒナの船が木っ端みじんにくだけちる様子をルフィもサンジも茫然と見た。

 エースサンジは夢中で海に飛び込もうとした。
 あいつは能力者だから、泳げねえ!!  
助けねえと!!  
助けねえと、エースが死んじまう!!

 飛び込もうとするサンジにゴムの手がからみつき、懸命にもがくサンジはその身体を拘束された。
「離せ、離せ!!  
エースが死んじまう!!」
サンジはぼろぼろ泣きながら叫んだ。

 ゴーイングメリー号も、爆破のあおりを食って、右に左に激しく揺れ続けていた。
船自体も転覆の危険がある。

 だが、サンジはそんなことにも気づかなかった。
 ただ、エースが荒れ狂う海の中に投げ出されてしまった。そのことだけが、心を占めていた。

 せっかく会えたのに。
いっぱい手も繋げたのに。
 あんな挨拶して行ってしまうなんて。

 オレは姫なんかじゃねえんだ。
文句も言わせねえで行っちまうなんて、ひでえ。
オレを置いていっちまうなんて。

「エースを助けるんだ!!   
行かせてくれ !!」

「駄目だ!!   
サンジがいなくなったら、エースが悲しむ!!」
泣きながら叫ぶルフィに、サンジは胸を抉られたような気がした。




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