voyage
6
 

 
 
 

朝になっても、キッチンはひっそりとしたままで、
いっこうに食事のできる気配がない。

 足を踏み入れたナミは眠るサンジとルフィを見つけた。
サンジは泣いた後の顔そのままで眠っており、
ルフィがサンジに巻き付くようにして眠っていた。
ルフィの顔は、やわらかく幸せそうだ。

 ナミはゾロとウソップを呼び、そっと二人の様子を見せた。
「ゾロ、チョッパーを離してくれて、協力に感謝するわ。
じゃ、約束の十万ベリー払ってもらえるかしら?」
本人達に確認するまでもなく、既成事実があったのは明らかで、
ゾロとウソップは顔を見合わせた。
「ままま、まさかルフィの奴、本当にヤっちまうとは・・・」
「クソコックの奴がヤらせるとは思ってなかった・・・」
魔女の罠にかかったと思いつつ、
二人は借用書に名前を書かされた。

「あら、ルフィはヤる気まんまんだったし、
この前のケガのことがあるから、当然じゃない? 
よく、待ったわよ」
ナミはにっこり微笑んだ。
「とにかく、サンジ君は私たちが知ってると気づいたら
海に飛び込みかねないから、知らんふりしてあげましょ。
ビビとチョッパーは気がついてないみたいだしね」
ルフィがナミやチョッパーにサンジとのヤり方を聞いているなど想像もしないウソップがしぶしぶうなずいた。

「・・・そうだよな。チョッパーは子どもだし、
ビビは王女様だから そういう関係はちょっとなあ・・・」
とにかくこうなってしまったんだし、ルフィがサンジの事が好きなのは見ていれば分かっていたので、
こういうこともないわけではないということで・・・、
真の船長、キャプテン・ウソップとしては二人を温かく見守るだけなのである!!

 ゾロはナミの言葉に何かうさんくさいものを感じたが、
ルフィとサンジの問題であって自分の関知するところではないから、
考えるのを止めることにした。

 甲板に行き、いつものように鍛練を始めたゾロを見ながら、
ビビがキッチンの方にやってきた。
ナミに手招きされて中を覗くと、顔を赤らめた。
「ミスターブシドーの協力のおかげね。ルフィさん幸せそう」 
ゾロは自分がルフィに協力したことに全く気づいていない。
チョッパーがいたら、サンジは絶対にイエスと言うはずがないからだ。

 何をかんちがいしたのか、ビビはゾロのことを尊敬のまなざしで見ている。
協力したことにも気づかず、十万ベリー借金を増やしたゾロって確かに、おいしい仲間かも。
「まあね。今日の朝ごはんは私たちで作りましょ」
ナミはにっこり笑った。
 この後はルフィから成功料をもらい、
サンジ君からは口止め料をもらうだけよ。

 サンジはうとうと眠っていた。
 きれいな女性の声がして、あたたかい料理のにおいが漂ってくる。
こんな記憶は自分にはねえ。
生まれた時から、母親なんていなかったし、
バラティエは男ばっかりで起きる前に料理のにおいがしたことなんてねえ。
ああ、これは夢だ。
かなわねえから、人は夢見る。

「ねえ、これくらいかしら?」
「ナミさん、それ少し多くないですか?」
どこかで聞いた声だ。
あ、ナミさんだ。それと・・・ビビちゃん?
 サンジは不意に覚醒し、飛び起きた。
 起きようとすると、身体の奥で鋭い痛みがした。
身体にはルフィのゴムの腕がからまっていて、昨夜の記憶がありありと蘇ってきた。
 ・・・!!!
 昨夜、ルフィにヤられた。
でもって途中で意識不明になって・・。

「あら、サンジ君、寝てていいのよ」
おそるおそるキッチンを見ると、
流し台のところにはナミさんとビビちゃんがいて、皿とか食材を手にしていた。
「そうです、サンジさん。たまにはゆっくり休んでください。
誰でも寝坊はしますもの」

・・・ななななななな、何?
サンジは滝のように汗を流しつつ、
しあわせそうに眠っているルフィを見つめた。
 えーと、えーと、えーと。
 自分の服はルフィが着せてくれたようだが、微妙にぐしゃぐしゃになっている。

「あら、あんたたちが抱き合って寝てたなんて、誰にも言わないから大丈夫よ。
それよりサンジ君、シャワー浴びて来た方がいいと思うわよ」
ナミにびしっと言われ、サンジは泣きそうになった。 
ナナナ、ナミさん・・・、何を?
「ち、違うんです。これは・・・」
「口止め料はもらうけど、今見た事は忘れてあげるから、さっさと行きなさいよ」

サンジはあわれっぽい顔をして、ナミをじっと見た。
それから、あわててルフィをひきはがそうとした。
 だが、ルフィはサンジにがっちりくっついていて離れそうにない。
 蹴りを入れようとして、サンジは自分の中からどろりとした液が出てくるのに気づいて動転した。
 信じられねえ!!!
  信じられねえ、中出しされたままだ。
 サンジはパニック状態になってルフィをばんばん殴りはじめた。

「・・・なんだ・・・、サンジか」
ルフィも目覚めてから、昨夜の事を思い出した。
 サンジはすごいエロくてかわいかった。
昨夜は最高だった。
あまりにかわいかったから、思いだしてキスをした。
「ぎゃーーーー、何しやがる!!!」
サンジはパニック状態になっていた。
 ナミさんとビビちゃんの目の前で、ルフィにチュウされてしまったのだ。
女神の前でなんてことを!!!
「てめえなんか死ね!! 百回死ね!!」

サンジは自分がどうやら動けないことに気づいていた。
ルフィに風呂に連れていけと言いたいのだが、目の前にはナミさんとビビちゃんがいる。
レディたちに今の状態を悟られてはならない。
騎士道を語るものとして、絶体絶命のピンチである。
 ルフィに悪態をつきながらも、すがるような目で見て、ぎゅっとルフィの腕をにぎりしめた。

 ??
 ルフィは不思議そうにしたけれど、一向にサンジの状態に気づきそうにない。
 ナミはため息をついた。
 まったく、こいつらときたら・・・。
 ナミはルフィの耳をぎゅーっと掴むと囁いた。
「バカね、サンジ君は動けないのよ。連れてってあげなさいよ !! 」
心の中で、ワンアドバイス一万ベリーだからね、とつけ足す。
 ルフィはやっと気づくと、あわてて暴れるサンジを抱き上げた。

 お姫さまだっこで風呂場に向かうルフィを見た他のクルーは唖然とし、
それから赤面し、
頭をぶんぶんと振って見なかったことにした。

 風呂場につくとサンジは大人しくシャワーを浴びた。 
風呂場の前でサンジを待っているルフィを見て、チョッパーはサンジの診察を申し入れたが、却下された。
「だめだ。サンジの身体は誰にも見せない」
きっぱりと言い放つルフィに、チョッパーは言い縋った。
「けど、無理させるなら医者として診察しないと・・・」
「・・・そう言えば、チョッパーからもらった楽になるっていう薬、使うの忘れてた」
「歩けないくらいスるのは、ヤりすぎだ。
獣だって、そこまではしない。
次は、薬も使って加減しろ」

風呂場の戸の前で、そんなおそろしい会話が交わされているとは想像もしないサンジは、
もう外にはルフィはいないものと思って放心していた。
 身体中に、昨夜の情事の痕が残っている。
奥からは掻きだしても掻きだしても流れてくるルフィの精。

 自分がリードしてやればいいと思ったが、
ルフィは何一つサンジの思うようにはさせてくれなかった。
ルフィらしいといえばそうなのだが、次にどう出るかが全然読めず
気持ちよくなったかと思うと痛くされ、痛いと思っていると気持ちよくなったりした。
痛くて苦しかったけれど、
こんなになってもルフィを嫌だとは思わない。
 
まいったな。
 サンジはずるずると風呂場にしゃがみこんだ。
ルフィはサンジがどんなに自分を変えまいと柵を作っても、
あっさりとそれを飛び込んでサンジの内側に侵入してくる。
そして、太陽のようにサンジの内側を照らす。

 かつては捨てていたはずのオールブルーの夢も、
もう忘れたはずの誰かを愛するということも、ルフィが思い出させてくれた。

 愛した後で、一人取り残されるのは嫌だ。
 だから、サンジはもう誰も愛さないでいようと思った。

 身体をつなげるだけの一瞬の満足とは違う。
心まで相手に持って行かれてしまったら、
相手が消えた時の衝撃は大きい。

 けれど、ルフィはここにいる。
この船にいて、いつも笑っていて、真直ぐな目でサンジを抱きしめる。

 信じていいのだろうか? 
ルフィがオレのたった一人の相手だと。








NEXT

voyage

top