voyage
7
 

 
 
 

 君のことを思いだす日なんてないのは、
君のことを忘れた時がないから。
 記憶の中の笑顔だけ優しすぎて、どうしようもない。




アラバスタへの航海はおだやかに続き、
ルフィとサンジの関係は静かに進んでいた。

 アラバスタに着いたら、また戦いがある。
 ルフィは、先のことなど考えないから、いつもサンジを激しく求めた。
二度、三度と身体を重ねるうちに、ルフィにもサンジのいい所がだんだん分かってくるようになった。
 ルフィが求めると、サンジはちょっと困ったような顔をしてから、身体をくれる。
 全部をもらっていると思うのに、どこか足りない気がする。
 ルフィに笑いかけるその顔はおだやかで優しいのに、何かが足りない。
 ルフィは自分とサンジの間にうすい壁のようなものがあることに気づきはじめていた。
 確かにサンジはオレを受け入れてくれて、オレのことを嫌ったりはしてない。
 けれど、オレが好きで好きでたまらなくって、いつも側にいたいというのとは違い、時々オレを遠ざけようとしている。
 抱いている間だけは、確かにオレのモノだと感じるのに、離れた瞬間にサンジは遠くなる。

 サンジは、オレが初めての男じゃないと言った。
その時、オレの知らない誰かのことを考えていることに気がついた。
 サンジが誰を好きだったって、いい。
今はオレを見てくれたら、それでいい。



 ナノハナに着くと、そこには砂漠の街があった。
ルフィが見たこともないような服を着た男たちが沢山いた。
ルフィはそこで、懐かしい男に会った。

 その背中の入れ墨をサンジは見たことがあった。
「エース?」
 ルフィの口からその名を聞いた時、サンジは目の前が真っ白になった。
 ルフィの、兄ちゃん?

 サンジの顔色が蒼白になっていることに興奮したクルーたちは誰も気がつかなかった。
船に戻っても混乱していたが、サンジは平静を装いながら、ルフィの話を聞いた。

「エースはオレより3つ年上だから、3年早く島を出たんだ」
オレより一つ年上。
知ってる。

「とにかく強ええんだ、エースは。
負け負けだった、オレなんか。
 でも、今やったらオレが勝つね」





「お前が、誰に勝てるって?」

「エーーーーースっ!!!」

サンジは突然あらわれたその男をじっとながめた。

 エースだ。
生きて、元気に動いている。


 オレはこいつを知っている。
そうか、ルフィの兄貴だったのか。
どこか似ている気がしてたけど、血がつながってたとはな。

 エースは変わらないルフィをじっと見た。
それから、船に乗っているクルーをさっと見て、階段に腰を下ろしている見覚えのある顔に気づいた。

 サンジ?

 まさか、お前がこの船に?

 弟のことが心配で、ずっと追いかけていたのだが、
まさかサンジがここにいるとは思わなかった。

 忘れたことなどない。
けれど、あの時のエースにはああすることしかできなかった。

「ルフィ、お前、うちの白ひげ海賊団に来ねえか? 
もちろん仲間も一緒に」
エースはサンジをちらりと見た。

「いやだ」
即答するルフィを見て、エースは安心した。

 白ひげはエースにとって最高の海賊だった。
白ひげこそ海賊王になるにふさわしい存在だと思う。

 自分とルフィとの違いはそこだ。
あくまで自らが海賊王になろうとするルフィと、他の誰かを海賊王にしようというエース。
同じ海賊王という目標をもちながらも、微妙に立ち位置が違う。

 きっと、自分がルフィのようであったなら、迷わずバラティエからサンジを連れ出していた。
だが、それはエースにはできなかった。

「オイ、話なら中でしたらどうだ? 茶でも出すぜ」
ずっとルフィとエースの様子を見ていたサンジが、急に声をかけてきた。

「あーいや、いいんだ。お気づかいなく。
オレの用事はたいしたことねえから」
エースはまっすぐにサンジを見た。

 久しぶりだな、サンジ。
 だが、今は、まだ、こうしちゃいられねえ。

 エースはルフィに紙切れを渡すと、ルフィの仲間たちに頼んだ。

「できの悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ。
おめえらもこいつにゃ手え焼くだろうが、よろしく頼むよ」

 ルフィの仲間たちを見て、エースは感じた。
 こいつらはいい仲間だ。
ルフィは本能で仲間を選ぶにちがいない。
見た感じこそ普通だが、骨のありそうな連中だ。
ロロノア・ゾロの気などはさすがだ。
オレンジの姉さんもいい気を出している。
 そして、サンジ。

 まいったなあ。
まさか、ルフィに持ってかれるとは思わなかった。
確かにガキの頃から好きなもんのツボは一緒だったが。
サンジを連れてきたってのが、もうこいつの人選が正しいってことを示しているようなもんだ。
きっと、他の連中もいい奴なんだろう。

 ルフィ、いい仲間を見つけたな。

「次に会う時は、海賊の高みだ」
 エースはルフィに別れを告げると、ビリオンズたちを火拳で倒していった。

 残されたクルーたちは、ルフィの兄が弟思いで礼儀正しいことに驚いていた。




「わからねえもんだな・・・海って不思議だ」
サンジはぽつりとつぶやいた。



 エースとのことはもう忘れたつもりだったのに。

でも、自分がチェーンスモーカーになったのは、
きっとエースのせいだ。




 




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