voyage
8
 

 
 
 

 3年前のバラティエ。
 そこでは、毎日が戦場のようだった。

 赫足のゼフの開いたレストランは軌道に乗り、客はどんどん増えていた。
それに目をつけた海賊も毎日のようにあらわれ、戦いがくりひろげられていた。

「海賊だ!!!  野郎ども、店を守れ!!!」
戦うコックさんたちは一斉に海賊船に奇襲をかけ、
片っ端から海賊たちをぶちのめしていた。




「おー、派手にやってるなあ」
人の気配のなくなった厨房にふらりとあらわれた入れ墨のある半裸の男は、
焼きたての肉を手にとった。

 その途端、背後から鋭い蹴りが入れられた。
「なんだよ。あぶねえ、あぶねえ」
肉を手にしたまま振り返ると、十五、六の少年が立っていた。

「よお、お前、なかなかいい蹴りしてるな」
そう言って、手にした肉にかぶりついた。

「うおおお、うめえ!!」
その肉は絶妙の味付けと焼き加減で、実にうまかった。

「蹴るのちょっと待て。これすげえうまいから、食ってからな!! 」
「へえ・・・そんなにうまいか?」
しゃがみこむエースの様子をじっと見て、
黒服の少年は言った。

「おうよ。こんなにうまい肉めったに食えねえ」
そう言ってガツガツ食うと、
いつの間にかさっき蹴りを入れていた少年も側にしゃがみこんでいた。

「あのよう、それ、オレが焼いたんだ」
「何? あんたコックなのか?」
エースはどうみてもアルバイトのウエイターだと思っていたので、少し驚いた。

「オレあ、ここの副料理長だ」
「へえ・・・。あんた名前はなんてんだい?」

「サンジ」

「オレはエースだ。以後よろしく」
きちんとお辞儀をするエースに、ついサンジもかえしてしまう。

「あっ、えっ、こちらこそ・・・って、てめえ、盗み食いじゃねえかよ!!」
「いやあ、悪い悪い。
オレ文無しでさ。あんまりうまそうなもんで、つい」
悪びれないエースに、サンジは呆れた顔をした。

「金、ねえのか?」
「ねえ!!」
きっぱり言い切るエースに、サンジは困った顔をした。

 そして、隣の部屋にエースを連れて行き、座らせた。

「んじゃ、これだけやるからよ。
オレが作ったやつだから、ただでいい」
 サンジが言い終わらないうちに、
戻ってきたコックたちの怒号が響き渡る。

「コラ、サンジ!!
 あのガキゃあ、またどっか行きやがった?」
「うるせえぞ、コラ!!」

「サンジ、てめえ何さぼってやがったんだ!! 
ちんたら仕事すんじゃねえ」
「てめえらこそ、ぐずぐず言わねえで仕事しやがれ!! 」
エースが食いながらこっそり覗くと、
コックたちが乱暴に言い合っていた。

 なんちゅう荒くれたコックたちだ。
じっとここでいた時には、
おとなしくてかわいく見えたサンジも実にガラ悪く言い返していた。

 あいつ、・・・見かけと違うじゃねえかよ。
だまってりゃ、かよわそうなくせに、
蹴りはなかなか鋭かったし、口は悪いし・・・。
でもって、他人には興味なさそうなのに、
オレにうまいメシを食わせてくれた。

 ・・・気に入った。
しばらく、この店に通おう。

 サンジが厨房で仕事を終え、エースのいた部屋に戻ると、
きれいに食いつくされた食器が残っているだけだった。

 行っちまったか。
ヘンなやつだったけど、
すげえオレのメシをうまそうに食ったよな。

 サンジは食器を重ねると、タバコを口にくわえた。
 えーと、マッチは・・・。
ポケットを探っていると、とつぜんタバコに火がついた。

 ???
 首をかしげると、
さっきの男がすぐ近くにいることに気づいた。

 あれ? 
こいつ、全然気配を感じなかった。
部屋にいたっけ?
それに、この火は一体?

「メラメラの実ってのを食っちまって。
それ以来、便利な身体になっちまった」
エースはそういうと、てのひらの上に火をともして見せた。

 サンジはびっくりして、
目を大きく見開いたままだ。

 こいつ、なんかすげえかわいいよなあ。
年はいくつだ? 
ルフィよか上だろうけど、ガキっぽいよな。

「手品だろ?」
サンジは半信半疑でつぶやいた。

「なんだ。恐いのか?」
「バーカ、炎が恐くて料理人が勤まるかよ」
にやりと笑うサンジの顔を、
エースは惚けたように見つめた。

 ・・・やべえ。こいつ、オレのツボすぎる。
いちいち気に入るようなことばっかり言うし、
これってもしや一目惚れか?

「へえ、怖いもんなしか?」
エースはそう言うと、ゆっくりサンジに近づき、口づけた。

 へ?
 サンジは訳が分からないという顔をしてから、
真っ赤になった。

「ななななな、てめえ、今、何しやがった!!
      レディにうばわれたこともねえオレさまの唇になにしやがった!!  」
エースはサンジが動転する様子をにやにやと眺めていた。

 あーそう。
さっぱり経験がないってわけか。
でも、こんなかわいいやつ、よく誰も手を出さないもんだな。

「大人なら、これくれえどうってことないはずだ」

 大人。

 その言葉にサンジは反応した。
 少しでも早く大人になって、コックたちにバカにされねえようになりてえ。
ジジイに追いついて、オレを認めさせてやりてえ。

「へっ、オレぁ大人だから、
そりゃこれくれえ平気だ!! 」

「あっそ。じゃ、もう少し先までヤってみねえか。
まあ、あんたが怖いなら無理強いしねえけど」
エース自身も青二才としてしか扱われない年齢であったが、
経験のないサンジにはそんなことすら分からなかった。

「怖くなんかねえ!!」
「そっか。なら、今晩つきあえよ」
そう言うと、エースはサンジに紙切れを押し付けた。

「オレは、この宿にいるから、
仕事が終わったらここに来てくれ。
大人なら夜遊びくれえ当然だろ?」
サンジの反応から、
見かけと違い、世間知らずで、
大事に育てられたのだということが分かる。
 そういえば、サンジの様子を見ていると、
サンジがいない時に厨房で誰かが、
オーナーはサンジに甘いから、というような事を言っているのが聞こえた。
 
かなりな箱入りらしいが、
その本人はその箱から出たがっているようだ。
 だから、こいつは必ず来る。






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