祝福の日
三十路XS

2

スクアーロ誕生日話
3月13日





意識のないスクアーロに気づいたザンザスは動きを止めた。

ちっ。
早くもくたばりやがって。

それから、ちらりと時計を見た。
日付は変わり、
3月13日になったところだ。

ふん。
このカスザメが何時に生まれたかなんざ、知らないが、
13日に一番にマーキングしたのは、このオレだ。

ザンザスはスクアーロのさらさらした髪の毛を手にとった。
30を過ぎたというのに、
このドカスはなかなか見れる姿形をしている。
つまらねえパーティーとかに行っても、こいつより上をいく男も女もいやがらねえ。
まあ、このオレがずっと側において、仕込んでやっているんだ。
あたり前だ。
相変わらずがさつで気が利かなくて品がねえが、
黙って立っている時だけは、絵になりやがる。

このカスはオレのもののくせに、
どうもふらふらしやがっていけねえ。
あっちこっちで男を誘ってやがる。
二代目剣帝を名乗り、男らしくて無敵だと思っているのは、このドカスだけだ。
周りのやつらがどんな目で見ているかなど、
まったく気づかず無関心だ。

なんで、このオレがこいつのせいでイライラしねえといけないんだ。
誕生日だからって、
一番に手をつけなければならねえんだ。
・・・納得できねえ!!

ザンザスは、足音も荒く執務室を出た。
あのまま執務室にいたら、
どうしていいか分からなくなるからだ。
さらに犯したらいいのか、
殴って起こしたらいいのか、
手当てをして服を着せたり、
そっと寝かしてやったりしたらいいのか。
ザンザスは一瞬だが、浮かんだ「やさしい」行為を頭から振り払った。

 ありえねえ。
あいつはカスだ。
オレの元にひざまづいて言いなりになってりゃいいんだ。
支配者はオレだ。
そのオレが何で、カスザメをなでたり、抱きしめたりしねえといけねえんだ。
 
イライラする。
酒でもかっ食らって寝るしかねえ。










3月13日は、朝から、たまたまヴァリアーの幹部が全員揃っていた。

「あら、スクちゃん、その傷・・・」
おやつの時間と称して、
スクアーロの誕生日ケーキを切り分けているルッスーリアが、
右頬を赤くはらしたスクアーロを見て眉をひそめた。

「ししし。先輩、夕べの仕事でしくじった?」
すでにケーキをつまみ食いしているベルが近づいて面白そうにじろじろ見た。

「ゔぉおおおおおい!!
オレがそんなヘマをするはずねえぞお!!」
スクアーロが怒鳴るが、やや覇気がない。
心なしか、声もかすれている。

「はいはい。じゃあ、どうしてかしらね?
スク、このケーキ、あなたの好きなレアチーズにしたの。
私からのプ・レ・ゼ・ン・ト♡」
ルッスーリアがくねくねしたが、
すっかり慣れた幹部たちは微動もしない。

「ししし。上にキャビアのせてみね?
共食い、共食い」
「ゔぉおおおい、ベル、てめえ、今、何つった?」
「王子、知らないよ。空耳じゃない? 魚類だから、人の言葉は分からないんじゃね。
ほら、これ王子からのプレゼント」
ベルは極上のキャビアの瓶詰めを一つ差し出した。
ボス用コレクションから一つ失敬してきたものである。

レヴィは、スクアーロに包装紙につつまれた菓子を差し出した。
「貴様になど、やるのは惜しいが、
特別にこれを食わせてやろう」
それは現在のレヴィのマイブームである、雷おこしだった。
最近、日本に行った誰かが土産に買って来た
そのごつごつして見目のよくない菓子を見て、
ザンザスが、
「ぶはっ、これはレヴィの菓子だな!!」
と言ったのだ。
それから、雷おこしは、ボス公認のレヴィの菓子である。
常に持ち歩いていて、会う人間すべてにその菓子を配っている。
「ゔぉおおい、またこれかぁ?」
スクアーロはしぶしぶそれを受け取った。
 
その様子を見ていたルッスーリアはため息をついた。
スクって本当にバカな子ね。
あんなもの、ボスになんかあげたら、
レヴィは確実に殺されるわね。

「ミーも、持って来ました。
ベル先輩がこれがいいって言ったから・・・」
新入り幹部のフランは、
表紙にでかでかと「よい上司になるための十か条・これで貴方も部下に好かれる」
と書かれたビジネス書を手渡した。
「ゔぉ? 何だあ?」
スクアーロはなぜこんな本を寄越すのかが分からなかったが、
とりあえず受け取った。

「ししし、中見なよ。
先輩が見なければいけないところに、
王子も印つけたから」
スクアーロが本を開けると、
ところどころにマーカーで分かりやすく線が引かれていた。
「常に笑顔を絶やさない」
「自ら率先して早く出社し、掃除をする」
「上品さをこころがける」
「部下を尊重する」
「細かい気配りをわすれない」
「謙虚を心掛け、傲慢にならない」
「大声を出さない」
など、いくつもチェックが入っていた。
明らかにスクアーロのできないことばかりである。
そこまで読んでやっと、この本はいやがらせのために贈られたのだと気づいた。

「ゔおおおお゛い!!  何だこりゃあ!!」
スクアーロが大声で怒鳴り、ベルに本を投げつけた。
「待ちやがれ!!」
「バッカじゃねーの。待つわけないし」
スクアーロがベルを追いかけ、
二人は暴れはじめた。



「これ、おいしいですね」
「確かにな」
暴れるベルとスクアーロを無視して、
フランとレヴィがケーキを食べ続けている。
「コーヒーのおかわりはどうかしら?」
ルッスーリアも、小指をたてて給仕中だ。



スクアーロとベルは暴れ続けている。
私室でいたザンザスのところまで、
スクアーロの大声が聞こえてきた。
ちっ。
あのカスがまた騒いでやがる。
あんなに元気がありやがるなら、
夜に手加減してやるこたあなかったな。
また、ベルのやつに遊ばれてるのか。
いつも好きに遊ばれやがって。
本当にあいつはどうしようもねえカスだな。
ドカスが!!

ザンザスは立ち上がると、
騒がしい広間に向かった。
不機嫌なままで広間に入り、部下達に命令した。
「くだらねえ。散れ」

不機嫌そうなザンザスに気づき、
幹部たちは不承不承腰をあげた。

ベルも動きを止めた。
ししし、ボスは、おかんむりだ。
せっかくスクアーロで遊んでいたのに。
いや、スクアーロで遊んでいたからか?
スクアーロの頬が赤くなっているのは、ボスが傷つけたから。
スクアーロの顔に傷なんてつけることができるのはボスだけだし、
他のやつが傷つけたら、きっと生きてはいられない。
スクアーロも、ボス以外に傷なんてつけさせない。
スクアーロは、ボスに全てを捧げついていくと公言してはばからない。
ボスはそれをいつもせせら笑うけれど、
どうみても特別な存在だ。
それをボスは認めない。
まあ、認めたくない気も分かるけど。


「ボスはスクアーロに何かやるの?」
ベルは、部屋を出る時にザンザスを見た。
ボスは、王子がアホ鮫で遊んでいると、いつも不機嫌になる。
自分も遊びたいんだろう。
気づいているかどうかは知らないけれど、
気づかない方がしあわせかも。

「もう、やった」
ザンザスは気に入りの椅子にどっかりと腰を下ろし、言い放った。
このカスには、
ちゃんと自分が誰のものであるかを教えてやった。
それなのに、さっぱり気づきやがらねえ。




「ゔぉおおおおおい、何をだぁ?」
何ももらってねえぞぉ。
スクアーロは、首をかしげた。
だいたい今日、ボスに会ったのは、今がはじめてだ。
そりゃあ、昨日は会ったけど・・・。
そういえば、日付は変わりかけてたな。
ゔぉお゛お゛い。
そういえば、
ぎりぎり13日になる瞬間に、
ザンザスにやられてたかもしれねえ。
そん時、めったに呼ばない名前を呼ばれた。
スクアーロって、呼ばれた。
ありゃあ、夢じゃなかったのか。
まさか、アレか?
いや、ドレだ?
名前を呼んだことか?
そういや、撫でられてた気もするし。
あれか、精液か?
でも、中に出すのは、いつもだし。
それなら、いつもたっぷりもらってる。
ゔぉおおおおい、違う違う違う。
そうじゃなくて。
ボスがそんな下賤なものをくれるわけがねえ。




「忘れたのか?
それとも、足りねえのか、カス。
なら、今晩もくれてやる」
ザンザスはにやりと笑った。
まったく、このカスザメの頭の中はどうなっているんだ?
脳みそがねえのか?
このオレがこいつ以外抱いていないというのに、
そのことに気づいてすらいないようだ。
まったく、いまいましいほどカスだ。
バカにはきっちり身体で教えてやらねえとな。




スクアーロは首まで赤くなった。
ゔぉおおおおい、
やっぱり性的に?
ドレだ?
ドレをくれるんだ?





ルッスーリアは肩をすくめた。
もう、ボスったら、素直じゃないんだから。
今晩もスクとしたいのね。
それじゃ、今宵の祝賀パーティーは簡潔にしたほうがいいようね。
なんたって、今日は祝福の日だもの。
スクアーロにとっても、ボスにとっても。




ベルは凶悪な笑みを浮かべた。
ししし。
今宵の祝賀パーティーは、スクアーロにいっぱい酒飲ましてやろう。
そんでもって、日付が変わるまで王子につきあわせよう。
邪魔するのは楽しい。
なんたって、今日は祝福の日だからね。
王子も、せいぜい楽しませてもらうよ。





スクアーロは、青くなったり赤くなったりしながら、
頭をぶんぶんとふった。
どうかしている。
誕生日だから、またするのか?
ゔお゛お゛お゛お゛い、いたたまれねえ。

でも、なんだかみんなに祝福されているみたいで、
ほんわりとした気分だ。
ザンザスに祝福されているみたいで、
なんだかどきどきしやがるぜえ!!



こんな誕生日も、生涯に一度ぐれえはいいかもしれない。
祝福の日はあると信じられるから。









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