パハルガム  Pahalgam    美しい避暑地 また巡礼の出発地            
 スリナガルからラダック地方の街レーに行く予定だったが,レーで暴動が発生し,外国人は立ち入れなくなってしまった。
そのため,インド側添乗員がいろいろ考えてくれて,とりあえず,景色のいいところに案内されることになった。
 我々は,タクシーに数時間揺られ、まるで上高地の様な避暑地についた。パハルガム(Pahalgam)という所だそうだ。雪の残る岩山が迫まって来る私の大好きな風景が目の前に広がった。
 ホテルは村から離れた高台にあった。木造平屋ながら、設備は高級だった。浴室は大理石。部屋には、あぐらをかいて座るのに丁度良い、背の低い大きなソファが窓際に置いてある。マハラジャが、女をはべらして座るのに使ったようなソファであるが、残念ながら私の同室は相変わらず、男のS氏であった。(或いは、シャーロック・ホームズが「唇のねじれた男」事件で一晩中たばこを吸って推理したときに、こんなソファに座っていれば絵になったと思う。)
 ホテルの入り口の前には直径二メートル程のパラボラアンテナがあった。恐らく衛星放送か、電話用のアンテナだろう。
 
 午後一時半から、昼食を食べた。バイキングなので、口に合いそうな物を選んだ。(注・今まで、インド式の料理に手を出しすぎて、お腹がひどい目にあっていたからだ)チキンカレー、ビーンズカレー、プリン、ナム、ミルクティ。食事が終わって部屋に引き上げたのは三時二十分になっていた。ここまでのんびり昼食を楽しんだのは、初めてだし、これからも日本にいるときはできないだろう。
 それから、ツアーのみんなでパハルガムの町を観光に出かけた。町のある谷間は薄暗く見えた。だが、その後ろにそびえる岩山の頂上の周りは太陽に当たり、雪が明るく輝いていた。このような風景を見たくてここまで来たのだ。私はゆっくりとカメラを構えた。
                        
 写真を撮ってから、みんなでぞろぞろ歩いていると、軍隊の制服のような物をだらしなく着たインド男が並んでついてくる。その男は球根のような形をした物を持って、私に匂いを嗅がせた。香水のような匂いがした。
 次に、その男は、私のその変な物を持たせ、私の手の甲を強くこすってから、匂いを嗅げと、ジェスチャーした。私の手の甲から匂いがした。(これは、「この物体は香りが強力で、手の甲を通しても匂いがする。」ということを男が示したがっている訳なのだが、私の手の甲から匂いがした理由は、みなさん分かりますよね。)
 その変な物を持たされてみると、それは動物の体の一部であることが分かった。私は、これは麝香鹿の匂いを出す腺ではないのかと思った。それで、思わず、買ってしまった。何と、自分から百ルピー出すといったのだ。麝香が約千円で買える訳がないのだが。
 バザールに着いて露天を覗くと、同じ物がある。店の主人は五十ルピーなどと言っているが、インドにも正直な人がいて、後ろから
「そんなもん、十ルピーがいいとこだ。」
と声を掛けた。S氏が
「じゃあ、十ルピー。」
となどと頑張っているうち、S氏は二つで十ルピーで買ってしまった。じゃあ、私の百ルピーという値段は何なのかと思うが、物の値段は、買い手、売り手の需要、供給で決まるのであり、買い手の私が百ルピーで良いといったのだから、それも正当な値段なのである。(コンチキショウ)日本では普通の消費者が交渉して値段を決めることはあまり無いから、私は良い勉強をしたことになる。
 さて、この麝香だが、インド国内を持ち歩いているうちに、腐ってきたので、S氏も私も、他の人も捨ててしまった。今思うに、あれは犬の去勢した睾丸に安香水を塗った物ではなかっただろうか。
 しかし、私は失敗もしたが、いいこともした。インドの女子高生と記念写真を撮ったのである。歩いていると傍らの草の上に七人の白い制服を着たお嬢が足を投げ出して座り、果物をかじっているではないか。
 まず、山岳会会長が勝手に彼女たちの横に座り、写真を撮ることを私たちに求めた。そして、他人の尻馬に乗るのが得意な私はそれに続いた。シャッターを押してもらい、私が立ち上がった時、向こうから教師らしい小柄な女性がやって来て、彼女たちに何か言った。それを聞いた彼女たちは立ち上がり、歩き去っていなくなってしまった。
 何を言ったのか知らないが、教師というものは、どこの国でも頭が固いものである。   
 インドでこの高級リゾート地に避暑に来るのは金持ちか、有力者のお嬢様たちに違いない。日本の避暑地である軽井沢をうろうろする軽い若者のようなものは、インドでは存在不可能なのである。
(できあがった写真を見ると、彼女らは高校生よりも年上に見える。私は女子大生と写真をとったのかもしれない。それならば、その方がもっといい!)
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 P.S.
帰国してからNHKの番組で、パハルガムはヒンズー教の聖地巡礼の出発地になっていることを知った。行者がいたり、バザールで防寒具や、シバリンガの写真をたくさん売っていた理由が分かった。