カシミール州の僻地校
校舎の前の子ども達
 ソナマルグからスリナガルに戻る途中のことだ。
 山中から、いくらか平野のある場所に出たところに、小さな2階建ての学校があり、そこに前を行くタクシーが止まった。このツアーには学校の先生が数人参加しており、どこかの学校で止めてくれと出発前から頼んでおいたのである。
 学校には塀も柵もなく、我々は勝手に校地に入っていった。トウモロコシ畑に囲まれた校庭では行進の練習が行われていた。太鼓がどんどこと響き、子ども達はまじめな顔で行進している。先生が何か声をかける。胸を張れとか、下を見るなとか言っているのだろう。
 行進しているのは日本で言えば高学年位の男子だけである。同年齢位の女子生徒は外に出ないで2階の窓から見下ろしている。もっと小さい子ども達は校庭で男女とも行進を見学していた。 
 デリーに戻ってから気がついたのだが、この行進の練習は8月15日の建国記念日のためのものだったのだ。道理できのうシュリナガルでも行進の練習を見かけたわけだ。(日本では同じ日が全く違う記念日になっている。歴史とは皮肉なものだ。)
太鼓の音に合わせて体操
  

 行進が終わると今度は体操が始まった。インド式ラジオ体操と言いたくなるが、音楽はなく、太鼓のリズムに合わせての体操である。生の音楽での体操も優雅でいいなと思ったが、はたと気がついた。ここには気軽に音楽を大音量で鳴らす機械はないのではないか。
 電柱は立っているので電気は使えるはずだが、拡声装置となると簡単には手に入らないのではないだろうか。この小さな学校で太鼓を叩くためだけに二人も教師を使うのは人手の上ではもったいないことだが、仕方ないのだろう。

 行進をしていない子ども達は、先生が足りなくて授業ができないため、見学しているしかないのではないかな。(子どもにとっては決して嫌なことではないだろうけどね) 
 石造りの校舎の近くにしゃがんでいた小さな子ども達に近づいてみた。みんな同じ青い上着を着ている。これは多分、制服なのだろう。ゴム草履を履き、布製のカバンを地面に置いている。 
 小さな黒板を持っている子が数人いた。始めは石版かと思ったが、黒板だ。文字の練習は黒板で行うのだろう。やたら、紙を無駄遣いする今の日本の子どもにも、黒板で字の練習をさせる時期があっても良いと思う。(環境にもいいし) 
 
 いつまでもここにいることはできなかった。他の人がタクシーに戻り始めた。私も戻らなくてはならなかったが、何か心残りで、近くにいた若い男のインド人教師に話しかけてみた。
 二言三言話した時、タクシーから私を呼ぶ声が聞こえた。私は、タクシーの方へ歩き出そうとした。すると、相手はちょっと待てというジェスチャーをして、右手を差し出した。
 私は彼の手を握った。二人の男は一瞬、目と目を見つめ合った。それから、私は向きを変え、タクシーの方に走り出した。   次へ
 
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字の練習用の黒板を手にするこどもたち