皇帝の正しくないチェス

Beating the French


1 e4 e6
2 d4 d5(図−1)
図−1
【図−1】

 フレンチ・ディフェンスの基本形です。

 1. ... e6にポーンを進め、c8のビショップの進路を自ら塞ぐこの黒の構えは、一見すると緩やかな序盤戦の意志表示のようにも見受けられますが、黒は次に3.c5から白のセンターへ即時反抗することを考えており、白は対応を誤ると「えっ、うそ、まじで、ちょっちょい待って」と言う間もなくつぶされてしまいます。

 実際、チェスを覚えたての頃にフレンチの学習をした方はほとんどいないと思います。そして、私が昔そうだったのですが、フレンチ使いにこてんぱんにされて、フレンチに苦手意識を持つ方も少なくないでしょう。

 そこで、ここでは、白番でフレンチのゲームを楽しむための手をちょこっとだけ紹介します(必ずしも勝つための手ではないので、悪しからず)。

● French Defence/Diemer-Duhm Gambit

1 e4 e6
2 d4 d5
3 c4(図−2)
図−2
【図−2】

 普通フレンチと言ったら、3.e5 とするか、3.Nc3 とするか、3.Nd2 とするか、3.exd5 とするかのどれかです。当然フレンチ使いはそのそれぞれに対して、自分なりの対策を持っていますが、3.c4に対して準備しているホビープレーヤーは少ないでしょう。

 ここでもし黒が考え込むようであれば、黒は絶対に意表をつかれています。1.e4 e6 2.d4 d5 3.c4 dxe4 となったら、4.f3 としてもう一度度肝を抜いてやりましょう。

 このまま泥仕合に突入すれば、定跡の知識ではない、チェスのセンスの戦いになります。

● French Defence/Winawer Variation/Winckelmann-Reimer Gambit

    
3 Nc3 Bb4
4 a3 Bxc3
5 bxc3 dxe4
6 f3(図−3)
図−3
【図−3】

 4.a3 はかのフィッシャーも指した事のある手です。少し強い方なら、これで白がポーン損になることが分かるでしょう。

 黒は当然 5. ... dxe4 と取ってきますが、ここでとっておきの 6. f3 です。黒の度肝を抜いてやりましょう。

 Diemer-DuhmGambitと違う点は、この時点で既に黒が黒マスビショップを失っていると言うことです。白は当然f筋をこじ開けてf筋からの攻撃を意図しておりますので黒はf6を如何に防御するかということが重要になってきます。

 ところが黒には黒マスビショップがもうありませんので、f6を支えきれないだろうというのがこの手のポイントです。実際のゲームを見てみましょう。

[White "Winckelmann"]
[Black "Baranowski"]
[Result "1-0"]
[ECO "C15"] PGNファイルのダウンロードは→こちら

1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nc3 Bb4 4. a3 Bxc3+ 5. bxc3 dxe4
6. f3 exf3 7. Nxf3 Nf6 8. Bd3 c5 9. O-O O-O 10. Bg5 Nbd7
11. Ne5 h6 12. Bh4 Qc7 13. Bxf6 Nxf6 14. Rxf6 gxf6 15. Qg4+ Kh8
16. Qf4 Kg7 17. Qg3+ Kh8 18. Ng6+ 1-0

 うーん、出来過ぎですね。

● French Defence/Wing Gambit

 Winckelmann-Reimer Gambit は黒が3手目に3. ... Bb4とせず、例えば3. ... Nf6としたら成り立ちません。

 もっと、強制的に白が望む変化に持っていこうとする場合には最初に紹介したDiermar-Duhm GambitとこのWing Gambitがあります。

    
1 e4 e6
2 Nf3 d5
3 e5 c5
4 b4 (図−4)
図−4
【図−4】

 フレンチ・プレーヤーはe6, d5, c5 のポーンの構えに命を懸けていますので、絶対にこの展開になります。

 4. b4 の趣旨は、4. ... cxb4 とさせて黒の攻撃の焦点をd4から外させ、d4-e5のポーンの連携を維持するというもっともな目的がありますのでそのことをちゃんと理解しておいてください。

● French Defence/Winawer Variation/5. ... Ba5 6.b4

    
3 Nc3 Bb4
4 e5 c5
5 a3 Ba5
6 b4 cxb4
7 Nb5(図−5)
図−5
【図−5】

 もしここで、7. ... bxa3+ なら、8.c3 として、その後 Bxa3 なり Nd6+ なり白はやりたい放題できます。よって、7...bxa3とする人はあまりいません。

 ですが7. ... Nc6 なら、8.axb4 Bxb4+ 9.c3 Be7(Nd6を警戒)10.Bd3 a6 11.Qg4(これぞwinawer) Kf8(g6はf6に穴を作るのでダメ) 12.Ba3 となって白はほとんど総攻撃体制です。

 例えば、

[White "Trost, H."]
[Black "Robeling, S."]
[ECO "C17"] PGNファイルのダウンロードは→こちら

1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nc3 Bb4 4. e5 c5 5. a3 Ba5
6. b4 cxb4 7. Nb5 Nc6 8. axb4 Bxb4+ 9. c3 Be7 10. Bd3 a6
11. Qg4 Kf8 12. Ba3 Bxa3 13. Rxa3 Qb6 14. Qf4 Bd7 15. Nd6 f6
16. Ne2 Qb2 17. Ra4 b5 18. Nxb5 Nxe5 19. dxe5 Bxb5 20. Rb4 Qa2
21. exf6 Nxf6 22. O-O Re8 23. Qd6+ Kf7 24. Nd4 e5 25. Nf5 Re6
26. Qc7+ Bd7 27. Nd6+ Ke7 28. Rb6 g6 29. Qc5 Kf8 30. Rxa6 Qb3
31. Rb1 Qxb1+ 32. Bxb1 Kg7 33. Qa7 1-0

● French Defence/Advance Variation/Milner-Barry Gambit

 こんどは白がd4のポーンを餌にして黒の攻撃を誘い込み、反撃を喰らわす手です。

         
3 e5 c5
4 c3 Nc6
5 Nf3 Qb6
6 Bd3 cxd4
7 cxd4 Bd7
8 0-0 Nxd4
9 Nxd4 Qxd4
10 Nc3 Qxe5
11 Re1(図−6)
図−6
【図−6】

6.Bd3 がMilner-Barry Gambitと呼ばれている手です。その後他にも変化の余地はあるのですが、上記は Milner-Barry Gambit/Double Pawn Sacrificeと言われているものです。

白は d4と e5のポーンをさらわれてしまいましたが、黒はクイーンを動かし過ぎました。

実は、11. ... Qb8とするのが黒の正着で、11. ... Qb8 12.Nxd5 Bd6 13.Qg4 Kf8 14.Bd2 h5 15.Qh3 Bc6と進むのが普通なのですが、そのことを知っている人はあまり居ません。

11. ... Qd6とする人が多いのですが、それなら12.Nb5 Bxb5 13.Bxb5+ Kd8 14.Be3 とし、次にルックをc1に持ってきて総攻撃が(たぶん)成立します。

● French Defence/Tarrasch Variation/Korchnoi Gambit

Milner-Barry Gambitと同じ手筋です。d4のポーンを餌に黒の攻撃を誘い出します。

         
3 Nd2 Nf6
4 e5 Nfd7
5 Bd3 c5
6 c3 Nc6
7 Ngf3 Qb6
8 0-0 cxd4
9 cxd4 Nxd4
10 Nxd4 Qxe4
11 Nf3(図−7)
図−7
【図−7】

[White "Metral, Jean Paul"]
[Black "Lucchetti, Philippe"]
[ECO "C05"] PGNファイルのダウンロードは→こちら

1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nd2 Nf6 4. e5 Nfd7 5. c3 c5
6. Bd3 Nc6 7. Ne2 Qb6 8. O-O cxd4 9. cxd4 Nxd4 10. Nxd4 Qxd4
11. Nf3 Qb6 12. Qa4 g6 13. Re1 Bb4 14.Re2 O-O 15. Bb5 Nb8
16. Qxb4 Bd7 17. Bh6 Rc8 18. Qf4 1-0

written by huda

管理人付記

 このページを書いていただいたhudaさんは、個人のHPでもフレンチディフェンスについての解説を行っています。
是非とも、こちらも御覧下さいませ