O君とは、これまで数度の対局と幾たびの飲み会を共にしているわけでして、僕の傍若無人な態度にも、O君はニコニコと対応してくれます。
2002年の全日本では、僕との対局で自戦記をかいてもらったわけですが、2003年の全日本は対局の機会がありませんでした。
とはいえ、私はずうずうしいのがとりえですから、全日本から自戦記を1つとお願いしたところ、元全日本チャンピオンのGさんとの対局を題材に、Frenchの定跡を分かりやすく説明してくれました。
このHPの10万アクセス突破記念の投稿だそうです。ありがとうございます。
なおO君が黒番のために、局面図は黒から見た図にしています。
皆様こんにちは。
先日、皇帝のホームページに全日本の試合を載せていただく約束をしたので、2003年のゴールデンウィークに行われた全日本選手権7Rの試合を載せたいと思います。対戦相手は元全日本チャンピオンのG氏です。
[Event "Zenkoku Taikai"]
[Site "PIO"]
[Date "2003.05.02"]
[Round "7"]
[White "G.G"]
[Black "T.O"]
[Result "1/2-1/2"]
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【図−1】 |
French Defense のWinawer Variation mainlineです。
黒は黒マスビショップを失う代わりに白のポーンの形を崩します。
ビショップを失うので当然危険が多いわけですが、逆に勝つチャンスも増えるので、私の好きな変化の一つです。
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【図−2】 |
10手目まではmainlineですが、11.0-0という手はあまり指されません。
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【図−3】 |
12.Nxe5 Nxe5 13.dxe5 の方が良いです。理由は後ほど説明します。
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【図−4】 |
この14…h6が今回事前に準備をしていた新手です。
ここで一度双方の戦略を整理してみたいと思います。
@白の戦略
・c4としてダブルポーンを解消し、ツービショップのために局面を開く。
・機会があれば中央の広さを活かして黒のkingsideを攻める。
A黒の戦略
・時として...c4と突いて局面を閉じ、白のツービショップの活躍を防ぐ。
・e5のポーンを攻める。
・白マスのビショップを活躍させる。
よってこの局面で重要な地点はc4とe5であることがわかります。
白はc4により局面を開き、e5による中央のspaceを活かしたい一方で、黒はc4と突いて局面を閉じ、e5のポーンを攻めつつ白マスのビショップを活躍させたいのです。
次に本譜の14. ... h6という手を考えて見たいと思います。
もし14. ... c4とすると、15.Bxh7でperpetual checkによるドローになります。また14. ... Be8としてbishopの活用を図っても、15.Ng5でポーンを失います。
14. ... h6という手はBxh7+やNg5などの白のkingside attackの可能性を消しつつ、... Be8から白マスビショップの活用を図り、場合によっては... c4とするという、多目的な手です。
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【図−5】 |
French defenseで最も使いにくいといわれる白マスビショップですが、次にh5にいき、f3のKnightに圧力をかけ、e5を攻める狙いが非常に強力です。白はもはやe5を守れません。
ここで、12手目で白がKnightを交換すべき理由はわかります。本譜の場合、黒はBe8-h5でf3のナイトに圧力をかけると、e5が白にとって致命的弱点となります。12手目でナイトを交換していれば、白はf4としてe5を守れるからです。
実は白がe5を守るためには15.c4の代わりにg3としないといけませんでした。15. ... Be8 16.Nh4 で、もし黒がポーンをとると Nxe5 17.Bf4 Rxf4 18.gxf4 Nxd3 19.cxd3 Rxf4でexchange sacrificeが必要となり、形勢ほぼ互角でしょう。
しかし私はポーンをとる代わりに16. ... c4という手を用意していました。白がe5を守ったため、その隙にもう一つの重要な拠点であるc4を押さえることができます。
... c4とするとd4のマスが弱くなりますが、白がNh4と指した後なので、Nf3-d4の手が遅く、問題ありません。
結局白はc4とe5の2つの拠点を維持できず、どちらかを黒に譲ることとなります。よって序盤は黒の戦略的勝利といえるでしょう。
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【図−6】 |
黒の... Bh5を恐れる余りポーンを捨ててきました。事前の研究では、まず16.cxd5 exd5 17.c4 Bh5という変化を研究しました。
例えば
@18.cxd5 Bxf3 19.d6 Bxd1 20.Bc4+ Kh8 21.dxc7 Bc2
A18.Be2 Rad8 19.cxd5 Nxd5
などで常に黒優勢です。
さらに16.cxd5 exd5 17.Qc1というおもしろい罠を発見しました。狙いは17. ... c4 18.Be2 で、ここで黒がe5をすぐに取ると、白はドローにできます。正着は18. ... Ng6と一回e5を取る準備をして黒良しです。
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【図−7】 |
17. ... Nec6が正着でした。白は18.Qxe6とすればポーンを取り返せました。
お互い悪手の応酬で黒やや優勢の局面になりました。
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【図−8】 |
ここで21. ... Be4を指そうと思っていましたが、22.cxd5 exd5 23.Rxe4で駒損すると勘違いしてしまいました。単純に23. ... c4でルークを取り返せます。
また21. ... Rad8でも黒優勢を保てました。
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【最終図】 |
白はポーンを取り返すことに成功しました。まだ黒の方が若干指しやすいですが、数手後、ドローが合意されました。
ちなみ今回のOpening Preparationのすべては、French の師匠として尊敬しているM氏から伝授されたものです。3月に行われた百傑戦のために準備したものらしいですが、使う機会がなかったということで、その時教えていただきました。
この場を借りてM氏に深くお礼申し上げたいと思います。
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【参考図】 |
白はe5をf4として守ります。またc4とすることもできます。
一方黒はNがf3にいないのでh6を省略してBe8を指し、次にg6でbishopを交換できます。駒が一組交換されるので、陣形の狭さは問題を解決できます。
白のe5のポーンですが、致命的弱点でもなければ、有利な要素でもありません。
以上を踏まえ、形勢互角といえます。
いままで見てきたように、11. ... fxe5という手によって黒の序盤の問題がほとんど解決されるからです。つまり
・Bd7-e8-h5 (or g6) の道が開くのでbad bishopの問題を解消できる。
・12.fxe5の場合、e5を攻めることができる。
・12.駒を複数交換できるので陣の狭さの問題を解決できる。
等が挙げられると思います。
以下はM師匠からの受け売りですが、French Defenseの魅力とは、tactical playerが1.e4として得意のオープンゲームにしようとする意図に対して、局面を閉じ、相手をstaticな要素を重視するpositional playに引きずり込み、かつ黒からdynamicな反撃を望むことではないかと思います。
その点で、今回はpositionalな要素を理解し、相手をoutplayできたのは、まさに理想的展開だったので勝てなかったことは非常に残念でした。
次回はM師匠がFrenchの試合を掲載してくださることでしょう。
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