1/天使兵―――Soldat Engels


 欧州某国。
黒く、深い森の奥で“彼”とその“兄弟達”は造らうまれた。
他の兄弟達の事は、それぞれの開発コード―大天使の名は以外知らない。
ただ、確かに存在しているという事実を、互いの共振が教えていた。

 研究者達が掲げた開発目的コンセプトは唯一。
「ヒトの手で天使―それも大天使クラスを創る」

SEシリーズ。
―――ヒトにのみ従う人造の天使、故にその名を“天使兵”ゾルダート・エンゲル
後に「SE計画」と称された、聖王庁の人間が聞けば激怒の余り憤死しかねない、無謀かつ涜神的な試み。

 困難を通り越して不可能と思われていた計画は、それでもいくつかの成功例を創り上げうみだした。

 最初は人間の子供に使徒の因子を組み込み、神性への適応力を持たせる事で高次存在である神霊を呼び込む器としようとした。
SE−00サタナエル”は使徒の因子に適応し、強大な力を得たものの人格形成に失敗し、人類を下等生物と見なすようになり研究員に反発したため凍結。
SE−01メタトロン”も因子に適合し絶大なポテンシャルを持つに至ったが、 精神改造に耐え切れず戦闘人格が分裂、本来の人格は幼児退行を起こしたため戦力外とみなされこれも凍結。
 その2体以外は適合できず異形化するか、適合出来ても施術に耐え切れずに死ぬか発狂するという末路を辿り、番号も与えられぬまま「処分」された。

 そして素体が人間では困難だと判断した研究員達は、今度は最初から使徒の因子を組み込んだ人造人間の創造に着手する。
その第一号となる“SE−02レミエル”は、期待以上の成果をもたらした。
発現した力は使徒を上回る高次存在―“大いなる者グレート・ワン”のそれであり、次元を裂く力を備えた彼は“00”に次ぐ戦闘能力を持つに至った。
 これに気を良くした研究者達は、次の素体に使徒の因子に加え万物に流れる無形のエネルギー“ロン”を取り込み己の力へと換える機能を組み込んだ。
そうして生まれた“SE−03ウリエル”は、確かに陸戦においてはプラーナが続く限り難攻不落の戦闘力を持つに至ったが、いかなる弊害か使徒としての力も、その証とも言える翼すらも持っていなかった。失敗作ではあったが、能力的には申し分ないものとして番号を与えられ、比較的軽い耐久実験の被検体に回された。

 しかし、これで得た教訓は次の素体でようやく“本当の成功例”として実を結ぶ事となる。
それが、“SE−04ラファエル”。
全身に発現した術式により治癒魔法の能力を飛躍的に高めるその力は、まさに“神の薬”と称されたかの熾天使セラフィムの力であった。
戦闘能力も人格形成も申し分無く、これに勢い付いた研究者達はさらなる改良に着手。原典に立ち帰り、本来術行使を苦手とする人造人間を如何にして術戦型にするかを模索。
その成果―“SE−05ガブリエル”は使徒の本分たる術戦型として申し分ない能力を持ち、研究者達を満足させた。

 しかし。
 次に生み出された“彼”は違った。
“彼”を創ったのは、度重なる失敗に業を煮やした組織が外部から迎え入れた、所謂“余所者イレギュラー”。
組織のかつての同胞国から招かれたその科学者は、とある企業で強化人間の更なる強化を研究していた。
しかし、身の毛のよだつような狂気の実験と被検体への非道な仕打ちが発覚し、社を造反後遁走。それでもなお昏い執念を抱えたまま放浪していた所をその腕を買った研究所に拾われたのである。

 創造主うみのおやが異端なら、被造物の“彼”もまた異端。
 その科学者は、人造人間としてでも使徒としてでもなく、只「自分だけに都合の良い人形」として“彼”を作り出したのである。
 科学者が企業に居た頃最も溺愛し、同時に憎悪した一人の強化人間キリングマシーン
社から持ち出したそのメディカルデータを元に、最も強く、優秀な兵器だった頃の姿を再現したのが“彼”。

SE−06サリエル”。
 七大天使の一人。強力な邪眼を持ち月の効能を熟知しヒトにそれを教えたつみを主に糾弾され、自ら天を離れたという死の堕天使。
完成当初「これが天使などであるものか」と研究者達を絶望させた“SE−02”の流れを汲むその姿は悪魔そのもの。
科学者は自らが創り上げた殺戮の天使として“彼”にその名を与えた。
本来其の名の持ち主サリエルの本分は別の所にある事など、知る由も無く。

 そんな“彼”に与えられたものは3つ。
1つ目は“成功例”の証たる番号ナンバー―――「SE−06」。
2つ目は密閉され光一つ差さない独房へや
最後は“特殊耐久実験”―その実、創造者が己の下世話な趣味の為に必要だとして実装した、戦闘用の人造人間には必要とされない要素。

連日連夜にわたり良識ある人間が見れば嫌悪に眉を顰めるような“実験”を受け続けるうちに、持って生まれた彼の“精神”からは様々なものが欠け、零れ落ちていってしまった。

そんな生き地獄のような日々は、創造者がまたしても組織を造反した事によって
あっけなく終焉を迎える事となる。
しかし、それは生き地獄が本物の地獄になっただけの事。

 事の次第が発覚し、創造者が組織の手によって「処分」された後、研究者達は“06”が目的の「力」を持っていないと判断するや「失敗作できそこない」、「欠陥品やくたたず」の烙印を押し、その番号と存在をデータから抹消。
そして“完膚なきまで破壊すること”を前提とした耐久実験に回したのである。
様々な手段で死ぬ寸前まで追い詰められては、命令入力コマンドによって無理矢理再生させられるという無茶な実験の繰り返しで、彼の人造人間としての寿命は急速に削られ、精神を構成する要素も更に欠落していく。

「恨むなら創造者と“原型オリジン”を恨め」
そんな研究者達の言葉。
しかし、もはや“彼”からはその言葉の意味を理解する事も出来ない程、あらゆる感情が失われていたのである。

 この顛末は他の成功例や研究員達の動揺を防ぐ為に一部の研究員達の間で秘匿され、その間も研究は続行されていた。
人造人間と平行し再度生身での成功例を模索し始めていた研究者達は、ここに来て一時は利用価値なしと判断した“01”が女性である事に着目する。

 そうして、“01”から採取した卵母細胞を元に一人の子供が生を享けた。
SE−07ミカエル”。
生身にして正気を保ったまま高次存在の力を宿した、最後にして最強の一。
まさしく真の“成功例”として研究者達の目的を完遂させる福音であった。

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