0/真夏の夢


 ふと気が付くと、強い夏の日差しの下にいた。
照り返しで陽炎がゆらめくグラウンド。
横に一列に並んだ、ランニング姿の同年代の学生達。
スタンドには「全国高等学校陸上総合体育大会・神奈川県予選」の垂れ幕。
そして、五月蝿いくらい響いてくる声援とブラスバンド部の演奏。

それは、紛れも無くあの日の翌日に訪れる「はずだった」光景。

――――全ては、夢だったのか。

 スタンドを振り返る。
応援の垂れ幕を掲げたクラスメイト達の中に、一人の少女の姿。
幼馴染。そして、この予選を勝ち抜けたら想いを告げようと心に決めた相手。
「―――よし」
スタートラインに付き、クラウチングスタートの体勢を取る。
喧騒がぴたりと止んだ。
己の心臓の鼓動が五月蝿い程に頭の中に伝わってくる。
空砲音。
彼は弾丸の如く地を蹴った。

―――走る。

横一線に並んだ中の誰よりも早く。
次は日本中から選ばれた中の誰よりも。
そして、世界中から選ばれた者達の中の誰よりも、早く。

熱く照り返す陽炎を切り裂き、目の前の白い線へと。

―――そして。
ゴールテープを切った瞬間、世界が暗転した。


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