1/闇色の夢


気が付くと、光一つ無い闇の中にいた。

前後左右上下すらも曖昧に感じられ、ひどく気分が悪い。
「此処は……何処だ……?」

答えはない。
聴覚がいかれてしまったのではないかと錯覚させる程の絶対の静寂。
「何なんだよ、一体……」

どうにかしてこの空間から抜け出そうと身体を動かす――――

――――が。
動かない。
まるで磔にされてしまっているかのようだった。
辛うじて動かせる視線だけで自分の身体を見ると――

無数の黒く冷たい手が、彼の全身を掴んでいた。

「ひ――――――――――――」

その手は氷のようで、掴まれた部分の感覚が急速に消えていく。
そして無数の手に掴まれていた左腕が強く引かれたかと思うと
――音も立てずにもぎ取られた。
間髪入れずそこから苦痛が脊髄を経由し脳に流し込まれる。
「が――――――――――?!!!」
左腕の次は右足。続いて左。
四肢を引き千切り終え手が、今度は腹の中に突っ込まれる。
「や――め―――」
絶えず流し込まれる激痛で声を出すのもままならない。
成す術も無く内臓を引きずり出されるのが視界の隅に入ったところで
黒い指が眼窩に突っ込まれ、視界が消失した。

――――止めろ。

身体を返せ。
返せ、返せ、返せ、
かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、
カエセ、カエセ、カエセ、カエセ、カエセ、
返せかえせカエセ返せかえせカエセ返せかえせカエセ――――!!

応える者はいない。
耳が痛い程の静寂の中、残された僅かな自分を闇が少しづつ侵食していく。
呆れるほど速く、自分というものが磨り減っていく。

このまま、俺はこの得体の知れん何かに食われて無くなってしまうのか。
そう思った矢先、何かが額に触れた。

見えない筈の目に光り輝く、ひとひらの羽根が写る。
それを視界に捉えた瞬間、脳裏に誰かの声が響いた。

“――恐れるな”

追憶の彼方で聞いた、どこか懐かしい声。
それと同時に、遥か遠くに瞬く小さな光芒が視界に入った。
それに触れようと、引き千切られたはずの腕を延ばす。
奪われたのなら奪い返すまで。
半ば己の身に融合した闇から、奪われたものを再構築し引きずり出す。
無数の攻撃器官と擬視球体を備えた腕を、足を、そして臓腑を。

―――だが、失われたものを取り戻してもまだ届かない。
ならば、新たに付け加えればいい。
「――出来るか?」
否。そんな弱気でどうするこのばかちん。
根性努力気合情熱預金残高その他諸々、何を使ってでも成しとげるまで。
再構築した脊髄から硬質化した背中の皮膚を突き破り、3対の翅が開く。
海棲哺乳類の鰭を思わせる、風ではなく重力を捉えるための異形の翅。
それを大きく広げ、身体を完全に闇から引き剥がし―――

―――飛んだ。

そのまま、遠くに輝く光芒を目指す。
もっと高く。
もっと遠くへ。
光を突き抜け、更にその先へ―――!!

そして、視界が白く染まった。