O養護施設レポートへ戻る
  レポート13  第17回目の訪問  2月9.10日
 
1.
 2月9日11時半にO養護施設についた。
 
 昼食を取り分けていると、男子学童担当のNさんが、「Jの検査結果、ADであることが分かりました。」と、話しかけてきた。
 「予想通りだね。額が飛び出ていて、他者に〜在って欲しいと思う思いが強く、それが他の子とのトラブルの原因になっている。
 Jの弟のNも、額が飛び出していつもしかめっつらをして保母たちに自分を触らせない。NのADも調べてみる必要があると思うよ。彼はこのごろ保母たちに抱かれるようになって、体が柔らかくなって、ずいぶんよくなってきたね。
 Hの弟のUは、LDを調べてみる必要があるね、保母たちがちかづくと逃げるし、高いところが大好きだ。
 Hとは7ヶ月つきあっているけど、最初は僕の側にこなかった。そして高いところが大好きだった。7ヶ月でHのLDの傾向はほとんどなくなったよ。
 まあ、医者は診断を下す人だけのやくわりだからね……
 その子に起こる治療は、殆どがその子を世話する人から起こって来るんだ。
 Hや、Nがよくなってきたのは、ここの職員の努力のたまものだよ。
 Jも、ああいうやつだけれど、とてもいいものをもっていて、すこしずつ保母に身を預けられるようになってきている。」
 
 わたしは、E、B、G、C、のすわっているテーブルで食事を始めた。
 すると、Eが、「ばか、あほ、まぬけ、……」と、悪口言葉をとなえはじめた。
 すると、Bが、Eにむかって、「ばか、あほ、まぬけ、……」と、悪口言葉をいい、Eをつねった。
 Eは泣き出しBにむかってつかみかかろうとした。すると、BがEを再びつねったのである。
 私、「B、Eは『ばか、あほ、まぬけ、』っていっているけど、Bは、『ばか、あほ、まぬけ、』っていわれてもいたくないじゃん。……どうして、Eをつねるの?……」
 B、「だって……」
 すると、Gが、「ばか、あほ、まぬけ、……」ととなえはじめた。
 
 

2.

ここをクリックしますと大きな画面で作品を見られます。

 9日午後は、硬化粘土でくまさんをつくった。

 針金を四つ折りにして、それを「つ」の字にまげる。
 もうひとつ、針金を四つ折りにして、それを「つ」の字にまげる。
 ふたつの「つ」の字を、後ろ足でくっつけて、麻糸かたこ糸でぐるぐる巻いて縛る。そのとき、足を2本作る。
 前足も2本、麻糸かたこ糸でぐるぐる巻いて縛る。
 残りの針金は、まとめて麻糸かたこ糸でぐるぐる巻いて縛る。(これは首を支える頸椎になります)
 
 硬化粘土(プチフォルモ)を1/3で、太いへびさんを作り、それを手のひらで押しつぶし平らに伸ばす。
 これを、胴の部分に巻き付ける。(みじかい方をグルン、ながい方をグルン、グルングルングルン……くうきがはいらないようにまくんだよ)
 硬化粘土(プチフォルモ)を1/4で、少し細いへびさんを作り、それを手のひらで押しつぶし平らに伸ばす。
 それを、4当分に切り分け、いちまいづつ足に巻き付ける。(みじかい方をグルン、ながい方をグルン、グルングルングルン……くうきがはいらないようにまくんだよ)
 硬化粘土(プチフォルモ)を1/4で、おおきなおだんごを作り、首の針金に刺す。首の接着部分をていねいになでつけ、くっつける。
 硬化粘土(プチフォルモ)を1/6で、おだんごを作り、てのひらでおしつぶし、くまさんのおしりに張って、おしりをおおきくする。
 くまさんの顔を整え、耳をひねりだして、完成。
 
 Jは、胴を巻き付けた後、「自分でやる」といって、あしは自分で形を作った。足の粘土の分量が少し足りないかな?と思ったが、最終的な形はなかなかのものに仕上がっている。
 他の子どもたちの作品も、すばらしいできばえであると思う。
 まず、子どもたちの喜びが作品から伝わってくること(存在)であり、つぎに、力強いこと(力)である。
 G、E、B、A、の作品には、さらに、他者を維持し尊敬する認識(主の意識)が響いている。   
 
 コミュニケーション障害の存在の観点で見ていくと、
 Eのくまのかたちがまとまっていない点に、言語障害(内蔵の意識が小脳と視床と間脳と大脳に十分伝わっていない。現在Eが起こしている知恵遅れの原因の一部。今後内臓疾患が起こる可能性がある。)がみられ、
 Zのくまのかたちの茫洋さに、意識障害(足の筋肉の意識が第4仙骨で詰まってしまうために、手骨の他者の意識を在らせようとする痛風が前頭葉から視床下部を支配してしまう。Aや、Hや、Fを叩く、Jとけんかする)がみられ、
 Mのくまの脊椎の頼りなさに、分裂病(視床に響く他者の悲しみとわびしさを第2仙骨と下垂体で繰り返してしまう。)がみられる。
 
 
 子どもたちの作品の出来映えとはうらはらに、2月9日は子どもたちがよく泣く日であった。
 AがZに向かっていってぼこぼこにされる。
 ZとJがとっくみあいをする。
 Eが口で悪口を言い始めると、他の子どもたちが悪口を言い始め、Eをつねる、たたく。
 Gがいじわるをする。 
 Cは、最初泣きまねをしているが、Zに叩かれて本気で泣き出す。
 
 保母の高木さん、
 「子どもたちは他の職員の前ではいいこにしているんです。千葉先生の前では、みんな自分をさらけ出しているから、こんなに泣いているのですが。……」
 「そうか、保育室では、こどもたちはみんな内弁慶になっているんだね。……学童の部屋ではじっと我慢していいこになっていることが多いんだ……
 女子学童の部屋へ上がってから、1ヶ月、今は過渡期だからね……
 僕らもがんばって、ゆっくり経過を見ようよ」
 
 
3.
 2月10日は、土曜日で保育が休みだったので、午前中は幼児の部屋に遊びに行った。 すると、Kの弟と、もうひとり女の子が増えていた。
 Yちゃんがだっこをもとめてきたので、彼女を抱っこし、I、H、O、P、と順繰りに抱っこして、「ねこのおいしゃさん」「すてきなぼうしやさん」「クリスマスがやってきた」「森のクリスマス」「さんびきのクマ」「しゃぼんだま」をうたっておどった。
 Hの弟のUは、私に抱っこされると手足をばたばたして逃げ出した。
 
 みんなでテレビを見ていると、テレビの近くまで行って見ようとする。2.3人の子どもたちが大きなサイコロの積み木を足代にしてテレビを独占していたので、私が「ねえ、みんなで見ようよ」といった。
 1人、2人とテレビの前を離れたが、Hの弟のUだけがテレビの前にいたら、HがたったっとUに近づき、彼が足代にしていたサイコロを取ってしまった。
 Uはひっくりかえって泣き出し、自分の頭を床にたたきつけ始めたのである。
 「これは(自分の頭を床にたたきつけるのは)いつもやるの?」
 「はい、いつもなんですよ」
 「おそらく、自閉症系の自傷行為だよ、UのLDを調べておいた方がいいね。」
 
 Yは、私を独占しようとして、何度も抱っこして踊ることをせがんだ。
 Yには、Bのもっているものに近い、深い鬱病を感じる。
 
 
4.
 私がYを抱っこしていると、
 「ちょっと相談にのっていただきたいことがあるんですけど。」
 と、男子学童担当のTさんが、話しかけてきた。
 
 男子学童の職員室でTさんと話をした。
 「Kのことなんですけど、IQと運動能力の測定をしたら、6才児なのに運動能力が4才児なみだって結果がでたんです。なんとかしてやるほうほうはないでしょうか。……」
 「Kの場合は、胸椎の形成がとても遅れていてね。意識の統合性が失われやすい体質を持っているのですよ。胸椎の形成が遅れていると、また、垂直と横の空間意識の形成が遅れてしまうのですね。
 横の空間意識の形成が遅れると、学校の算数や国語ができなくなり、横への移動がへたですから、ドッチボールやおにごっこなどはへたですし、運動をますますしたくなくなるのです。
 垂直の空間意識の形成が遅れますと、立ち上がれなくなり寝たきりになってしまう子もいますね。」
 「Tさんの今できることで、子どもたちがすぐ喜ぶことといったら……
 そうそう、天突き体操をするといいよ。
 しゃがんで、てのひらをうえにして、立ち上がるとともに手を突き上げるのね。
 すると、脊椎がぴんと垂直に伸びてくる。
 それからね、わらべうたを子どもたちと一緒にやるんだよ、手をつないで左に移動するだけで、左の空間意識が発達してくる。右に移動すると、右の空間意識が発達してくるのさ。」
 わたしは、「ひらいたひらいた」と「クリスマスがやってくる」のわらべうたの踊りの符を描き始めた。
 
 私がTさんと話していると、Bがわたしに「だっこして」と何度もせがんできた。
 「Tせんせいとのおはなしがおわるまでまってね。」
 といっても、なんどもせがんでくる。
 すると、Mが二人の女の子に追いかけられて職員室の中を駆け回り、Tさんに抱っこされた。
 
 そこで、私は、「やってみようよ」、
 と、Bのてをつないで、 Tさんを誘った。
 「M、いっしょにやる?」
 「やらない」
 Mは、Tさんに負ぶさった状態でいた。
 「Mをおんぶしたままやってみようや。」
 
 「クリスマスがやってくる」を歌いながら、左右、前後の動きをすると、BもMもいきいきとし喜んだ。
 「ひらいたひらいた」も喜んでくれた。
 
 「2月24日に、O養護施設の子どもたちと職員を対象に、ピアノ付きで「うたとしとおどり」のコンサートをやろうと園長先生にお願いしていてね。
 そこで、こどもたちが僕とピアニストを受け入れてくれたら、わらべうたとトラや帽子店の歌を主な素材にして、歌うこと、踊ることを、3月から、学童の子どもたちに教えていこうと思っているんだよ。
 Kの運動能力を伸ばすという課題も、その中でやることが大きなヒントになるだろうね。」
 
 
5.
 2月11日、私はピアニストの照井君とリハーサルを行った。
 
 
 
   ちばおじさんとみつはるおにいさんの
 
          歌と詩とオィリュトミー    ちばおじさん
          ピアノ演奏          みつはるおにいさん
 
 
1.パレード          新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲
2.パワフルパワー       新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲
3.そらをみてたら       新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲

   間奏曲U       三枝成彰  ブルドックのブルースより

4.たんぽぽ          岸田衿子  いそがなくてもいいんだよより
5.いぬふぐり         岸田衿子  いそがなくてもいいんだよより
6.かぜとかざぐるま      岸田衿子  いそがなくてもいいんだよより

 フォスターさんちの草競馬    三枝成彰  ブルドックのブルースより

7.だっぴ    へびいちのすけ    工藤直子  のはらうたWより
8.ともだちだい こうしたろう     工藤直子  のはらうたWより
9.どっこいしょ きりかぶさくぞう   工藤直子  のはらうたWより
10.あしたこそ  たんぽぽはるか    工藤直子  のはらうたWより

 青い目をしたウサギのかなしみ   三枝成彰  ブルドックのブルースより

11.せんねんまんねん      まどみちお   せんねんまんねんより

    エピローグ      三枝成彰  ブルドックのブルースより

12.ソング           新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲
13.そらのしたじめんのうえ   新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲
14.このゆびとまれ       新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲

                 ピアノ演奏

15.ともだちになるために    新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲

 
 
 1.から14.までの、歌・ビアノ曲・詩・ピアノ曲・歌、の流れは自然でとてもよかった。
 三枝さんの曲が響いた後に岸田さんや工藤さんの詩を発声しながら踊ると、詩の内容がもっと鮮明に心に響いてくるようになる。
 「三枝さんのブルドックのブルースは、僕らの内界に響く思いを肉体に響かせる媒体になるのかねえ……
 今回詩は、笛やシェーカーやメタルフォンの音を鳴らした後に発声することにしたんだが、そうすると、僕らのほんとの意識を現す詩が、ぐっと現実と結びついて肯定的に響いてくる。
 それに、三枝さんのブルドックのブルースが響くと、楽しくなるんだな……自分の意識が内界から肯定されるためか……」
 
 14と15 の間のピアノ曲をどうするかは、なかなか決まらなかった。
 シューマン、シューベルト、メンデルスゾーン、なかなかしっくりこない。
 最後にチャイコフスキーの四季から謝肉祭、グリーグの舟歌、この二つの中から、照井君が一番しっくりくる、グリーグの舟歌を演奏することにした。
 
 グリーグの曲は非常に単純な感情を持っている。
 「この感情は、北欧の妖精たち・ケルトの神々の感情を表している」と、私には聴こえてくるのだが……。

 このケルトの単純な感情の繰り返しが、こどもたちどうしのけんか(お互いに肯定できない)のもとだったのかな……。 」

 最後のピアノ曲を選びながら、私には、このような認識が響き始めたのである。
 

 2001年2月15日

 千葉義行

 ページ先頭へ戻る