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レポート9  第13回目の訪問  12月4.5日

1.
 12月4日、11時頃O養護施設についた。
 子供たちは庭のお掃除をしていた。
 私が庭に行くと、子供たちが新しく入ったZ(5才)を紹介してくれた。
 Zが木の枝にせみのぬけがらを見つけ、「とって」と言ったので、私は彼を抱っこして、せみのぬけがらを取らせた。Zはその後たくさんせみのぬけがらを取ってきた。
 Iが手をつなぎに来た、「かまきり、さがそう」そういって、あちこち散歩した。
 しばらくして、Bが手をつなぎに来た。
 二人の手を握っていると、私から大量の咳がでてきた。
 二人は1時間私の手を離さなかった。私も1時間、大量の咳を出し続けた。
 

2.

 4日午後、羊毛をくるみに巻き付け、石鹸水にひたし、ビニール袋に入れごろごろもみ、フェルト玉を造り、カッターナイフで先端を星形に切り、くるみを取り出し、小さな器を造った。
 2才児も幼稚園組もいっしょに、造った。
 
 Zは、まあるいボールにしたいと言った。
 真ん中の紫色のフェルトのボールは彼の作品である。
 
 くるみにふわふわの羊毛を巻き付けていく感覚は優しく自分の体と心を癒してくれる。
 また、石鹸水に浸し、ごろごろころがしながら羊毛を収縮させフェルトにしていく過程は、自分の意志を育て、慰めてくれるのである。
 意志を育てるということの意味は、他者の心を聴き、他者の本当の意志を聴き取り、他者の本当の意志が他者の行為と言語にまで昇ってくるまで、待てるようになることである。
 
 4才児クラスのB、G、Fの集中した顔(前掲写真)は、とてもすてきである。
 Kも集中して造っていたが、握力が足りないのだろう、フェルトが十分まとまらずほつれがおおくでた。彼の肉体が精神を失っている状態が握力のなさとなって現れているものと思われる。
 
 子供たちには、中の羊毛80グラムと外の羊毛40グラムで造らせた。
 左写真を見ていただければ、どの子の作品においても、その2色の調和を感じていただけると思う。
 
 保母達も熱中して喜んだ2時間であった。

 
3.
 子供たちが宿舎へ戻った後、保母の高木さんの希望でミーティングを行った。
 子供たちの様子を話し合った後、言語形成法の講義をした。
 口に意識を置いて、前後に動きながら発声をすると、頭声をしっかりと発声できるようになる。
 意識を第3肋骨の中心に置いて、左右に動きながら発声をすると、胸声をしっかりと発声できるようになる。
 意識を丹田に置いて、膝をついた姿勢から立ち上がりながら発声すると、腹声をしっかりと発声できるようになる。
 以上の訓練を開始した。
 
 保母の仕事は、子供たちの心と体の発達を助け、子供たちの心と体の障害を癒し、慰め、治療する仕事である。
 これができるためには、まず、他者の心と体をゆがまずに正確に自分の心に伝えることができなければならず、次に、他者に自分の認識と感情と意志を伝える能力を身につけなければならないのである。
 
 他者の心と体をゆがまずに正確に自分の心に伝える、ということは、保母自身のコミュニケーション障害が癒され、治療されている過程にあることを、自覚できていることが必要である。
 保母にその自覚が在れば、自分の目の前にいる子の気持ちを聴こうとすれば、時間がかかってもその子の気持ちを正確に聴き取ることができる。
 
 他者に自分の認識と感情と意志を伝える能力は、「他者の心と体をゆがまずに正確に自分の心に伝える」能力が起こった後に花を開いてくるのである。
 言語形成法は、「他者に自分の認識と感情と意志を伝える能力」を開発するための一つの方法である。
 
4.
 5日8時半頃、私は男子学童の部屋を訪ね、KとLを見つけた。
 私は、Kのオステオパシィを丹念に行った。
 Jも来たのでオステオパシィを丹念に行った。
 その後、3人を代わる代わる抱っこして、「そらをみてたら」「さんびきのくま」「ゆかいなぼうしやさん」のオィリュトミーを何度も繰り返し行った。
 5歳児たちは何度も私の抱っこを求めてきた。
 

5.

 Zは、3日に入園したばかりだった。
 しかし、4日に出会ったときは、4才児たちが素直に紹介してくれたし、私の目を見て自然に会話ができた。
 5日には、「なんで、ジージーいうの」、などといいながら、私のオステオパシィを素直に受け入れていた。
 オステオパシィをしてみてわかることは、Zの感情が6月末に出会った頃の4才児たちや、現在の5才児たちよりも安定していて、温かであることであった。
 それは、やはり、Zを含む兄弟たちが親からの愛情をしっかり受けて育ってきたからであろう。
 ひとつだけ気になったのは、4日の散歩の時に、地面を張っていたつたに足を取られて転んだときに、Zが「罠にかけられた」といった一言である。
 家族という絆の外側にある環境や世間に対して、家族や自分に対する緊張関係や敵対関係を感じてしまうことがあったのではないかと思う。
 しかし、現在のO養護施設の体制の中で保育され養育されれは、問題なく成長すると思われる。

 
6.
 5日午前は、自由遊びをしたあと、足に鈴をつけ「もりのくりすます」を8の字を描きながら歌い、
 次に、「パレード」(新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲)を足を踏みしめながら歌った。
 そこで、子供たちは疲れてしまったので、座らせ、
 もこもこもこ
 ころころころ
 がちゃがちゃどんどん
 まるまる
 こくまちゃんのほっとけーき
 ぐるんぱのようちえん
 キャベツくん
を読んだ。
 
 みんな、よく聴いていた、キャベツくんまで読むと、Zが「眠くなった」といったので、後は自由遊びにした。
 

千葉義行

 

2000年12月13日

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