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レポート1  第1第2回目の訪問 4月17日、25日

4月17日

1.




 4月24日9時30分ころにO養護施設 についた。
 食堂では、朝の打ち合わせが行われていた。
 すると、F(3才)がD(3才)の手を引いて食堂に入ってきた。そして、食堂を散歩し、私の周りで遊び始めた。
 そして「おうたをうたって」と私にせがみ始めた。
 そこで、わたしは、FとDを抱き上げ幼児室に向かった。

2.

  「ねこのおいしゃさん」を、まずFを抱きながら踊った。
  すると、D、B(2才)、C(2才)、G(4才)、が、順番をまっていた。
 彼らを順番に抱きながら踊ったあと、すみにひとりでいるA(2才)を抱き上げた。
  入所したばかりのAは、表情がほとんど動かなかった。
  「ねこのおいしゃさん」(増田裕子作詞作曲)
  「さんびきのくま」(増田裕子作詞作曲)
  「すてきな帽子屋さん」(増田裕子作詞作曲) と順番に歌っていくと、
  「ねこのおいしゃさん」を特に喜ぶのは、D。
  「さんびきのくま」を特に喜ぶのは、A。
  「すてきな帽子屋さん」を特に喜ぶのは、B、C。  

 Fは、繰り返し私の踊りをせがんだ。私の踊りを一番体で喜んだのもFである。
  しかし、ほかの子供たちが待っていても、自分がやって欲しいと思い、実現できないとひっくり返ってないてしまうこともある。
  B(2才)も、抱いて踊ると体中で喜びを表す。体も温かい。
  Dは、表情の動きが鈍い。 CとGは、まだ自分が関係したいときだけ私のそばにくる。
  Aは、まだ自分の意志を外に表していない、無表情に職員からされるままになっている。

 1時間ほど子ども達にかまっていたら、突然、E(3才)が「抱っこして!」とそばにきた。
  わたしは喜んで彼を抱き上げ、「ねこのおいしゃさん」「さんびきのくま」を踊った。
  ひとしきり踊ると、Eは、わたしに「あっち、あっち」と外に行くように命令した。
  わたしは、彼の言いなりに園内を歩き回った。

3.

  11時から30分ほど集団遊びを行ってみた。 黄色、水色、ピンク、黄緑色、赤、青、緑色、の布をひらひらさせて、
  「きいろのかぜがふくよ、ヒュー、ひらひらひら……、じーじーばー」
  黄色の布をひらひらさせて、 「たんぽ、たんぽぽ、むこうやまにとんでけ」
  こどもたちは特に、「たんぽぽ、たんぽほ」を繰り返し欲しがった。

 それから、絵本、
 「ころころころ」    谷川俊太郎・元永定正  福音館書店
 「まるまる」      中辻悦子        福音館書店
 「かささしてあげるね」 長谷川節子・西巻茅子  福音館書店
 「ははははは」     五味太郎        偕成社
 Eは集団遊びには入れなかった。

4.

 幼稚園から帰ってきた4才5才児たちといっしょに昼食をたべた。
 私は、幼稚園が始まったばかりで、4才5才児たちの様子が心配であったのだが、食事をしている一人一人の子供たちの姿勢を見ていると、全員背筋が伸びていて力強い、9ヶ月間の私と彼らとの関係の成果を見られてうれしかった。
 しかし、心配したとおり、食事の後、Sが荒れて暴れていた。幼稚園でがんばっていい子にしていたのだろう。
 自分の意識で自分の体や他者の気持ちを在らせようとする広義の鬱病系を強く持っているSは、自分の身を預けることのできるおうち(O養護施設)に帰ってくると自分の気持ちを爆発させてしまうのである。

5.

 子供たちがお昼寝をした後、1時30分から、幼児担当の職員でミーティングをした。
 Eはこの日おひるねができなかったのでミーティングのわきで遊ばせておいた。
 私は、乳児のわらべうたを中心に、7人の子供たちのここ2ヶ月に必要と思われるわらべうたを選びコピーして持参していた。

  私が最初に選んだものは、
 あそばせ遊び(こどもたちの体に触れながら、こどもたち自身が、自分の体を意識し、きもちいい、うれしいと感じられる遊び)の、
  指・手のひら  「ここはてっくびてのひら」
  足・しり    「いちり、にり、さんり、しりしりしり」
  顔遊び     「おでこさんをまいて、めぐろさんをまいて」
 感覚遊び(見ること、聴くことの楽しさを感じられる遊び)の、
  色・形    「たんぽぽ」「じーじーばー」
  関係     「ととけっこう」 であった。

 AやDにみられる表情が動かない現象は、彼女たちが自分の体を楽しく自覚できていないことから起こってくる。(彼女たちの知覚障害の問題)
 CやGが突然気分が変わったり機嫌が変化するのは、彼らが自分の体を苦しいと感じてしまうことから起こる。 (彼らのアトピーやアレルギーの問題)
 FやBが自分の体を持て余し乱暴になってしまうのは、彼らの体の喜びが脳の意識に十分に伝えられていないために起こる。(彼らの行為障害の問題)
 Eがおともだちとの関係をもてないのは、他者の一部の感情や感覚を自分の肉体の苦しみに結び付けてしまう心の機能を造りだしてしまったからである。(彼の広義の自閉症の問題)

 以上の問題の解決の肉体における糸口は、
 @彼らに触れるときに、常に鼓動のリズムをあたえる。(彼らの体を鼓動のリズムでたたいてあげる。鼓動のリズムで歌いかける。)
 A触覚を常に刺激する(乾布マッサージを常に行う)
 B遊ばせ遊びで、彼らが自分の体を意識することをきもちがいい、うれしいと思える経験を繰り返す。
 の3つにあるのである。

 そして、肉体の糸口が開かれると、自分の経験した感覚を意識が正しくまとめられるように育てることができるようになる。
 そこで、感覚遊びが重要になってくるのだ。

 わたしは、とにかく、「子供たちとのふれあいで、意識して鼓動をとろう」ということを職員に強調した。

 「日ごろ、こどもたちのことで気になっていることはありませんか?」
 リーダーの三瀬さんがみんなに聞いた。
 「やはり、Aに表情があらわれないことと、Aの体が冷たいことが気になります。」
 「Dが突然わけがわからなくなることが気になります。」
 「そうだね、Aや、Dのその部分はとても気になるね。
 毎日の日誌にそれぞれの子供たちの手と足の温度を記録するといい資料になると思うよ。
 足が冷たいときには体の調子が悪いはずだし、手が冷たいときは神経症が起きているときだ。
  これが、いつでも手足が暖かいようになると、ニコニコとして元気になるのさ。
 手足が冷たい時には、とにかくよくマッサージして「あったかい、あったかい」と声をかけてあげるといいよ。」
 「それから、1ヶ月に1ぺんくらいに、それぞれの子供たちの成長の段階を記録するといいよ。
 食事を補助なしに食べられるか、  スプーンの使い方、  おはしの使い方、
 排泄の状態、
 おひるねをするか、  眠りの深さ、
 こだわりの行為、  こだわりの行動、
 特徴あるからだの状態
 これらを記録することによって、僕らが世話をすることによって何の問題が解決してきたかが分かるようになるね。
 そして、これがO養護施設の財産になるね。」

 

4月25日

1.

 4月25日10時ころにO養護施設についた。
 私は、元の保育室から木の太鼓や手人形、鈴、シャボン玉、若干の絵本を幼児室に運んだ。
 幼児室に続いている職員控え室は、前回の訪問のときよりずっと整理されて気持ちよくなっていた。
 あいかわらず、Fが何度も私を求めてくる。 そして、D、B、G、Cの順。
 Eは1時間ほど立ってから突然私を独り占めし、あっちこっちに引っ張り回した。
 今回は、Aが笑った。

2.

 11時ごろから集団遊びをした。
  手人形のうさぎとろばを取り出し、 「ととけっこう、よがあけた、まめでっぽう、おきてきな」 と歌う。
  「ととけっこう、よがあけた、Aちゃんも、おきてきな、おはよう……あくしゅ」
  みんな握手をしてくれた!!
 
昨年度のこどもたちとの出会いの状況とちがっている。
  昨年のこどもたちは私の手から手人形をひっぱがし、自分で扱おうとだけしたものだ。
  私は、職員の子ども達に接する態度に確かな伝統ができたことを感じた。
  また、昨年度の子供たちがこの子たちと一緒に暮らしていたことが、子供たちの中での伝統を作ったのだと感じた。
  Dが、「かして」といって、私の手からうさぎの手人形を取っていった。
  そして、「ととけっこう、よがあけた、……」歌い始めたではないか。
  私のまねをすることが楽しかったのだ。
 「たんぽぽ、たんぽぽ」 「じーじーばー」 をやってから、絵本を読んだ。
  「もこもこもこ」 「ころころころ」 「まるまる」 「かささしてあげるね」 こどもたちは、よく聴いていた。
 
Eはまだこどもたちの中には入れないでいた。

3.

 お昼ごはんは幼稚園児も一緒だった。
 今日はLが不安定になっていた。
 手を握ると冷たくなっている。お昼は私のとなりにならんで座るのだといい、その意味を理解できなかったM
になぐられて泣いた。
 抱っこして背中をフォルム治療してやると落ち着いた。
 まあ、この子も幼稚園でがんばっていたのだ。

4.


 食後、Eが「だっこして」とやってきた。
 抱っこしてたくさん踊ると、私の腕の中で眠ってしまった。
 私は、彼を抱えて幼児の寝室へ行って寝かせた。Eはすんなり眠ってしまった。
 すると、となりで、Gがバタンバタンしていた。
 わたしはGにふとんをかけてやった。
 触ってみると、足が異常につめたい、しかし、おなかと胸は熱いのである。
 私は、彼の足をさすり「あったかい、あったかい」と声をかけた。
 すると、彼は「おなかと胸を掻いて」と求めてきた。
 Gが眠るまで20分ほどかかった。

5.

 控え室で、三瀬さんと木村さんと三人でミーティングをした。
 「午前中に子どもたちと遊んだときに『ととけっこう』が子どもたちにうけてうれしかったな。
  Dが僕の手からうさぎの手人形を持っていったと思ったら、『ととけっこう』って歌い始めたんだよ。
 やっぱりね、ふだんからわらべうたのリズムや歌を歌っていると子供たちの心の働きが違ってくるね。
 前回も言ったけれど、とにかく鼓動が大切だね。生きててうれしい!!という実感が繰り返し意識されていないと、『生きることはつらくて悲しいことだ』としか思えなくなって自分や他者を否定してしまうんだ。
  今日読んだ、「もこもこもこ」と「ころころころ」には、聞こえるものや見えるものが楽しい!!という実感を子供たちや大人に伝える力がある。
  「まるまる」は、記号として意識される「まる」にたくさんの意味や内容があることを教えてくれる。
  「かささしてあげるね」は、出会ったほかの人にサービスしてあげることのうれしさを伝えてくれる。
  すぐれた赤ちゃんの絵本の中にこそ、人間として成長するための基本のエッセンスが展開されているのだよ。」
 「これまで保母たちが読んで聞かせていた絵本の中にそんなに深い意味があったのですね。」
 「そうさ、子どもたちを常に世話している人が一番子供たちのことがわかるんだもんね。
  でも、ほとんどの保母たちは無意識で自分の体や心を動かしているから、自分たちのやっていることのほんとの意味を意識化できていないし、世間に向かって言葉で伝えることができていないんだよ」
 「やっぱり、手足の冷たいときは子供の調子が悪いですね。
 Aは、いつも手足が冷たいけど、ほかの子供たちはその日によってちがうみたいですね。」
 「そうだね、神経症が起きるとすぐ手が冷たくなるよ。だから、手の冷たさはその日その時間によって違ってくる。
 足の冷たさのほうは体そのものからくる場合が多いから、体調自体を現してくるね。
 さっき、Gを寝かしつけたら足が異様に冷たいんだ。これは、Gの深いアトピーからくるものだね。
  アトピーが内向しちゃって表に出てこないから、彼がどんなに痒がっても医者は「アトピーです」って言えないんだ。
  それから、Gが今でも時々意識を失う瞬間があることは注意していなくちゃね。
  てんかんからおこる知恵遅れを彼が起こさないようにみんなでがんばろう。」

2001年5月8日

千葉義行