養護施設レポートUへ戻る
レポート10 第11回目の訪問 9月4日5日

 O養護施設の幼児担当はよくおんぶをする。
おんぶされることによって、子どもたちは身を任せ職員の気持ちを味わい愛され慰められることの幸せを感じるようになった。

1.

 9月4日11時半にO養護施設についた。
 すぐに昼食、幼稚園児は幼稚園でお弁当、EとGは病院へ行っていたので、残った5人との昼食はさびしかった。
 Aの側で食べたが、Aは、ふりかけをかけたごはんをおかわりした。白いご飯しか食べなかったAが、ふりかけやどんぶりものも食べられるようになってきた。
 最後まで食べていたAに付き合い、おちゃわんをおかたずけし抱き上げると、「せんせい」といっているようだ。
 「ねえ、Aが「せんせい」っていっているよ」と岸田さんにはなすと、
 「ええ、8月半ばから「せんせい」ってことばがでるようになったんですよ」
 「アー、ウー、からアータンもアブアブもなしに「せんせい」か……」

2.

 1時を過ぎると幼稚園児と一年生がかえってきた。
 Uが食堂においてあるざりがにやかえるやかめをみている。
 「ざりがにを描こうか……」
 私が声をかけるとうれしそうにうなずいた。
 「おとこのこの職員室で描こう、道具を持ってくるからまってて」

 幼児の職員室から道具を持ってくると、男の子たちが4.5人集まっていた。

 すいそうにはいったザリガニを持ってきて、「誰から描く?」

U  小1

 昨年からときどき現在の年長児にまざって絵画の指導をしてきた。
 頭が大きく腰が小さい、特定の動作をすると意識が豹変することがあり、心配し、機会あるごとにフォルム治療を行ってきたが、一年生になって体育が好きになりからだが充実してきた。

 彼は自分で捕まえたこおろぎを持ってきて「これを描く」といった。
 描き方を手を添えながら教えると、体から力が抜け、力強く描けた。

 こおろぎを描いた後、「しばふを描く」といった。草の描き方を教えると、丹念に芝生を描いた。こおろぎの住んでいる環境を描きたいと思ったことは、Uの深いやさしさを現していると感じる。

 2.3人がざりがにを描いた後、「もっと描きたい」という。「金魚を描こうか」。
 「とんとんとんとんとんとんとんとん、って一つ一つのうろこを描いていくんだよ」

 金魚の絵もやさしくおだやかである。見る人の分裂病を癒してくれる絵である。

O  年長

 昨年から絵の指導をしていた。

 ざりがにを描いた後、もっと描きたい「自分で描く」といって隅で一人で黙々と描いていた。
 Uも描きたくなって、Oに「こんどは自分の番だ」といったがOは無視して描き続けたために、Uは「ずるい」といってOをたたいた。
 Oは怒ってバケツの水をひっくり返した。それで、この絵が濡れているのである。
 わたしと男子担当職員が床を拭いている間じゅう、Oはすねて電気のスイッチを切っていた。私はOの体を抱きしめていた。

 しばらくして機嫌を直して描いたのがきんぎょである。

きんぎょは見る人の鬱病を癒してくれる絵である。
 ざりがにもきんぎょも、しっかりと描けている。
 意識の充実と内容を読み取る力を感じる。

 食堂にOの絵が張ってあった。緑と黒で描かれており職員が意識障害を現すのではないかと心配して私に尋ねてきた。
 「世間の流行に自分の意識を合わせようとすると食堂の絵の描き方になるんじゃないかな。
  僕と描いているときは、Oはしっかりした絵を描いている。
  そして、僕に体を預けて甘えてくるときはOはとても嬉しそうで穏やかなんだ。そして彼の体の姿勢や座ったときの姿がいいね。
 でも、去年もみんなの顔を描いたりしているときはやはり緑と黒で描いていたよ。
 世間に緊張してしまうとどうしてもまだ緑と黒が出てくるんだね。
 まあ、ゆっくり待っていれば大丈夫すくすくと成長し、世間との関係もうまくいくと思うよ。だから、あまり心配しなくていいんじゃないかな。」

P  年長

てんかん系から起こった知恵遅れを持っている。

昨年から絵の指導をしていた。

OとUのけんかに巻き込まれて絵が水につかってしまった。

このざりがにの絵は非常に力強く立派である。
特に、胴の部分が立派で力強い。

V  一年生

 昨年数回絵画指導をした。

 ざりがには胴が太くて力強い。

 金魚は元気のよさを感じる。見る人のアレルギーを癒してくれる絵である。

 すなおで普通の子である。
 しかし、権威に弱い、友達関係に引っ張られてしまう。
 左回りに円形に歩くことを教えたい。
 自分の本当の気持ちに自信を持つようになれば頼もしい存在になるであろう。

T  一年生

 昨年かもと熊の彫塑を指導した。

 私と会うたびに「ねんどやろう」という。

 ざりがにを描いている間じゅう、「ちがう」とか「自分で」とかいい続けていた。
 8本の小さな足を描くときには、わたしは、「じぶんでえがきたいようにかきな」とつきはなしてしまった。

 しばらくして、「おれ、かえるを描く」といってわたしのところへきた。

 ざりがにはとてもしっかり描けている。

 かえるの胴体や足の質感がなまめかしい。
 
足の指を外側に向かって「しゅっしゅっ」と描くように指導したら、「水かきも描く」といった。白と水をを加え水かきを描くことを教えたら満足した。

 5時半ごろに私が後片付けを始めたら、「ざりがにの足を描いていない」といってきた。
 
「もうおしまい、またこんど」、私は絵画指導を終了してしまった。

 前回の訪問のとき幼児担当の三瀬さんとTの話をした。

 「このまえTが幼児といっしょにおひるねしたんですよ。体を触ってあげると硬くて逃げていくんですよね。」
 「
そうでしょ、F、Tの兄弟は、自分でやろうという気持ちと甘える気持ちと両方ないなぜに持っているからね。
 
自分でやろう、自分の思い通りに他者を動かそうとすると、彼らの体は硬くなって、乱暴な言葉を使うけど、甘える状態になるととてもかわいいね。
 
こっちは、彼らの体を触りながら、ゆっくり彼らの心と体をほぐしていけばいいのさ。」

1K  一年生

 初めて絵画指導した。

 虐待で入園し2ヶ月になるが、職員の世話で元気である。

 ざりがにの絵はしっかりと描けた。
 
手を取って指導しているが、1Kは、私の手に彼の手を預けている。
 「ざりがにの手は、力強くドーン(と描くんだよ)」というと、よろこんでドーンと描いている。

 きんぎょもすてきに描けた。見る人の絶望を癒す絵である。

 1Kの場合は、私や職員に身を預けることによって自分の体を慰めているのだと感じる。

 2J  二年生

 初めて絵画指導をした。

 2Jと会ったのは、昨年、U、1X、Vと仲良くなって彼らの部屋に連れて行ってもらってからである。

 そのとき、5MHと2Jと1Xがカードをして遊んでいた。朝学校に登校する時間になっても彼らは動かなかった。彼らはそのころ不登校気味であった。

 彼らの部屋で、Uは「ジージーやって」とフォルム治療を求めてきた。
 U、V、1X、とフォルム治療をして、2Jに「やるかい」というと、素直に体を預けてきた。
 それいらい、男の子の職員室でUから「抱っこして踊って」とオィリュトミーを求められるときには、2Jも私に抱っこされることがあったのである。

 金魚の絵は見る人の鬱病を癒す絵である。2Jは私に手をとって教えてもらいながら自分の体を慰めていたのだ。

 2Jが「自分で描いていていいか」とたずねてきたので、「すみでならいいよ」と答えると、4枚も描いた。

 かえるの絵は、輪郭を描いてから私のところに持ってきたのだが、すばらしい絵なので,「なかみも描こうぜ」といって、輪郭の色に黄色と青を足し、緑を作ってから、「ボツボツボツボツ」と唱えながらかえるの皮膚を描いたものである。

 ざりがにの絵は、色が赤に黄色を混ぜて作られている。2Jは私の教えていることをよく理解しているのである。

 かっぱの絵は、彼のわだかまりを現すものであろう。

2MS

初めて絵画指導をした。

かえるの皮膚がよくとらえられている。

5M 五年生

初めて絵画指導をした。

5M君は動物たちの世話をし、私にも早くから自分から声をかけてくれていた。

金魚の描き方も素直に喜んでくれた。

 金魚の絵には、見る人のアレルギーを癒す力がある。5M君は、私に手をとって教えてもらいながら自分の体を慰めていたのだ。

 山の絵は自分で描いた。
 山の色を赤と黄色と青と白を混ぜて作り、丹念にトントントントンと描いている。
 力強く、5M君本来の豊かな人間性を現している。

3MK

最後に来て、余った絵の具で描いていた。

3.

 男の子たちと風呂に入った。

 U、V、1K、5M、Z。

 1Kの頭骨のフォルム治療を行う。

 大量の咳が出た。

 9時半、Lがやっと寝付き、最後まで起きていたMが眠りにつくのを見て宿舎に戻った。

4.

 5日朝6時30分に幼児の部屋へ行く。

 食事をとった後、幼児たちと遊び始める。

 わたしが、保育ブロックで「おうちをつくろう」といって並べ始めると、子どもたちは保育ブロックを並べ始めた。
 上左の写真は、DがGとBをあいてにお店屋さんをしているところである。

 めずらしく、Eが抱っこしてといって私のところにきた。
 私は彼を抱っこして、「ねこのおいしゃさん」「さんびきのくま」「くりすますがやってくる」を踊った。
 すると、Eが「おんぶ」といった。
 私は彼をおんぶ紐でおんぶした。
 みると、木村さんがFをおんぶしていた。 冒頭の写真である。

 私は1時間半ほどEをおんぶし体を動かし続けた。
 Eの体から、大量のサムヤサと遡行障害(他者の感情を遡って作り出し思い込んでしまう)とアルツハイマー喪失(主の記憶と感情と意志を失い、自分だけで自分の宇宙を作ろうとしてしまう)が排出されるのを感じた。私から大量の咳が出た。

Aは、まだまだ一人遊びをしている。

左はオレンジの絹の布を見つけ自分で「タンポポタンポポむこうやまへとんでけ」をしている写真である。

上左は、わたしが「ひよこにおかあさんはこんなおかあさん おべんとうどうぞ」といっておへんとう(のつもり)をさしだしているところである。
Aは、この後、ぺろりとわたしのさしだしたおべんとうを食べるしぐさをした。

保育ブロックはよく使われている。

しかし、もっとこまかな遊びとふれあいが欲しい。

いただきもののぬいぐるみなどがたくさんあるが、こまかな動物たちなどに、もっとこまかな感情をもたせて遊べるようになりたいと思う。

8月21日に木の積み木とこまかな動物たちと汽車セットを子どもたちに渡したが、汽車が何台か行方不明となっており、私が手作りしたフェルトの動物たちやつくしんぼも他のおもちゃの下敷きになって散逸していた。

 子どもたちの今の段階の表象を現すのだろう。

5.

 10時から、幼児たちもざりがにを描いた。

 「赤いっぱい、黄色もいっぱい、青はドン、白少し入れて」
 どろどろの絵の具で(水を少なくして)描くことでざりがにの硬い甲羅の質感を表現することができる。
 左の甲羅と右の甲羅は、左と右の方向に描き分ける。
 ざりがにの節は5つの関節でできており、尻尾も5枚からできている。
 はさみを含めて足は、左が5本、右が5本。
 ざりがには5のリズムでできているのだ。
 はさみは太くしっかりと描く。「いち、に、さん、はさみ!」

G  4才

太くてしっかりと描けている。

リズムもしっかり取れている。

やさしい絵である。

身を預けて描けるようになったのはすばらしい進歩である。

今回の絵画では、G、F、C、Eの4人から「自分で描く」「ひとりで」という自分の体と意識に対する鬱病と脳性麻痺が取れ始めたのを感じた。

F  4才

力強く雄渾な絵である。

  3才

「自分で描く」といいながら体から力が抜けていた。

とにかく、Eがちゃんと最後まで描けたのは初めてであり、

この絵には、楽しさを観ずる。記念すべきことであった。

D  3才

リズムに乱れがある。

リューマチから起こる前頭葉の意識の逆転が、「自分で描く」という体と意識への脳性麻痺を起こし、右側の乱れとなって現れるようである。

C  3才

太く力強く描くことができた。

やさしい絵である。

身を預けることがずいぶんできるようになった。

B  2才

力強い絵である。

「自分で描く」といって体に力が入るが、「トントントンはさみ」といいながらリズムを取ると、すうっと力が抜ける。

この絵から楽しさを感じる。

A  2才

力強い絵である。

やさしさを感じる。

彼女の楽しさも感じる。

6.

 最後に、パネルシアターを行った。

 「こぶたのぽんくん」
 「ぽんくんのともだち」
 「ぽんくんなってみる」
 「ひよこのおかあさん」

 最初は、F、D、Aの前で始めた。
 C、B、は後からきた。

 「ぽんくんのともだち」のときに、Eがタッタッとやってきて、やぎさんとひよこのパネルをくしゃくしゃにしてしまった。
 Eには参加したいという衝動が起きたのであろう。しかし、参加の仕方がまだわからないのであろう。Eが本やおはなしをじっと聴くということはまだ起こっていなかったのだ。

 パネルくしゃくしゃ事件は、Eが本屋お話を聴きたいと思い始めたということを現しているものと思う。今後観察を続けたい。

 「ひよこのおかあさん」では、ひよこと、おたまじゃくしと、いもむしが、それぞれのおかあさん(にわとり、かえる、ちょうちょう)にお弁当を作ってもらって、それを食べる、という内容である。
 パネルに作ったお弁当を子どもたちに分けてあげると、「おいしい、おいしい」といって食べてくれた。

 Eがおはなしや絵本に参加したいと思ってきたとすれば、幼児たちの集団の遊びはこれから一段と充実していくものと思う。

2001年9月8日

千葉義行

ページ先頭へ戻る