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レポート12 第13回目の訪問 10月2日3日

「ぶーらん、ぶーらん」「なーんでぶーらんていうの」「ぶーらんっていうとCがにこにこするんだもん」

1.

 2日11時にO養護施設についた。
 こどもたちは庭でみずたまりのどろで遊んでいた。
 「ちばせんせいだ」こどもたちはどろだらけの手で私の周りに集まってきた。
 私は、手のひらでこどもたちにタッチした。BとAは私の手のひらにどろだらけの手を擦り付けてニコニコしていた。
 Fは、どろだんごを私に見せた。
 「おおきくなーれ、おおきくなーれ、どろだんご」と唱えながら私は、彼女のどろだんごをなでた。

 

 Gも、私にどろだんごを見せた。
 「ひっかれ、ひっかれ、どろだんご」と唱えながら、Gのどろだんごもなでた。
 Eは、自転車でみずたまりを渡ることに夢中になっていた。

2.

 昼食の後、庭にビニールシートを広げて絵を描いた。

G(年少)
「このまえはかきのきを描かなかったから描く」と、自分でいった。
前回はお空を描いた後遊んでしまって、「もう描かない!」といったのだ。
描きたくなった描いただけにすばらしい絵になった。
深緑から黄色へのグラデーション、黄色から白へのグラデーション、とてもすてきだよ。
M(年中)
あかまんまを描いた。
ふしからふしへと茎の角度が変化していくあかまんまの姿は美しい。
ふしから「ドーン、シュウー」と伸びている葉っぱを描いた後に、ピンクのおはなを「ポツポツポツ」と描いていく。
お花が美しい。せっかく描いた葉っぱまでも、ピンクのお花で染められていった。
Mのやさしい感情を表す作品である。
S(年長)
あかまんま。
バックの空間は「ゆうやけ」である。
「赤いっぱい、黄色少し、青ほんの少し、白いっぱい、お水をどぼどぼどぼ」
ふしからふしへの茎の変化がなまめかしい。
赤の濃いピンクで花を描いた後、自分で白と青を加え薄紫の花を葉っぱや茎の先端に描き加えた。
 足指と第6胸椎と第6肋骨と鎖骨から起こるリューマチ性の広義の脳性麻痺・分裂病が原因であろう。
S自身は、職員と私に身をゆだねようとしているのだが、どうしても、「自分だけの刻印」を自分の作品に付けたいと思ってしまうのである。
N(年長)
あかまんま。
美しい。
せっかく描いた葉っぱの上にも、お花を描きたかった。
N自身の記憶の寂しさと愛憎を癒している。
R(年長)
あかまんま。
なんとすばらしい絵であることだろう。
これまでのRは、右回りに右に進む半円のフォルムがえがけかなったが、この絵ではじめて右回りに右に進む半円のフォルムがきれいに描けた。
また、自分の名前をしっかり書くことができたのだ。
O(年長)
柿の木
前回はみんなは柿の木を描いたのだが、Oは私の車を描いた。
今回は、前回みんなが描いた柿の木を描きたくなったのだ。
紫の柿のみが柿木の周りを取り囲んでいるのは、彼の認識が後頭骨と十分に結びついていないために、手の思考意識が胸椎と肋骨で循環を起こしやすいことを現している。
彼は、そそのかされると弱いのだ。
彼の仙骨をしっかり治して置きたいと思う。
P(年長)
あかまんま
なんというやさしさと美しさだろう。
形がしっかり描けないところに、リューマチ性の分裂病から起こった知恵遅れが見られる。
彼の胸椎をしっかり治して置きたい。
Y(一年生)
あかまんま
Yはなんと透明になってきたことだろう。
昨年描いた絵と比べると歴然とした差が分かる。
昨年は、心のもやもやが絵の表現を幽霊のようにしていたのだ。
今年の絵は、すっきりとした青空と、路傍に生えているあかまんまをそのまま肯定している。

 

 
3.
 幼児の部屋に戻ると、Gが抱っこを求めてきた。
 「そらをみてたら」を抱っこして歌った。
 側を見ると、Aが一緒に自分の体を動かして踊っている。
 Aは、後ろに動くことを恐れなくなっていた。
Aを抱っこして踊り始めると、Bが、「ふたりで……」といって、Aと一緒に抱かれようとしてきた。
二人を抱っこし、「ねこのおいしゃさん」「くりすますがやってくる」「さんびきのくま」「もりのくりすます」……Bが笑うと、Aがうれしそうに笑う。Aの笑いを見てBが笑う。
幼児の職員室ではブランコにCが乗 っていた。
口をきっと結んでブランコを揺らしている。
「ブーラン、ブーラン」
私が声をかけると、
 「なーんで、ブーラン、ブーラン、ていうの?」
 「ブーラン、ブーラン、っていうと、Cがにこにこするんだもん」
 私が声をかけると、Cの体から力が抜け、彼はにこにこするのである。
幼児たちは写真にとってもらった自分の姿を見ることにこだわりを持っている。
 とくにBのこだわりは激しい。
 他者に自分を認めてもらいたいという鬱病から起こっているのだと感じている。
 2日の夜に、Bは、何回も私のデジカメに移った自分の写真をみた後に、「Bくんのしゃしんがない」と泣き出した。
私は1時間ほどBを抱き続け、Bをフォルム治療し、咳を出し続けた。
4.
 9時から2回の女子の職員室で、小笠原君と話をした。
 午後に描いた女子と年長のこどもたちの絵を持っていったのである。
 ちょうどパソコンを持参していたので、去年のこどもたちの絵と、今年の女子と年長のこどもたちの描いた絵を、小笠原君に見せることができた。
 そのとき、3Hが(3年生)がうずくまって泣いていた。
 「どうしたの」と聞くと、学校から借りてきた本が見えなくなったという。
 小笠原君が、「明日もう一度いっしょに捜してあげよう。もし見つからなくても、先生がノートに(本を探したけれど見つからなかった。もう少し探す時間をください。と)書いてあげるから大丈夫だよ」といったが、本人の気持ちはなかなかおさまらなかった。
 「3Hの絵はとてもしっかりしていて他の子の面倒を見れる子だということが分かるよね、柿の木の絵なんか暖かくて美しかった。
 でも、それゆえにといった方がいいかな、『みんながこう在って欲しい』という気持ちが強いんだ。
 『借りてきた本は返さなければならない。』とみんなにさせているものだから、自分が本を返せない立場になってしまったことが許せないんだね。
 小脳から起こる鬱病の典型的なケースだよ。今日は小笠原さんが彼女の後頭部に4.5分手を当てて寝せるんだね。今日は小脳に大変な緊張があるから……。小脳に緊張が蓄積されると、お腹が痛くなって、学校に行きたくないって言い出すよ。
お腹がいたいっていいだしたら、お腹をよくさすってあげて、学校には無理にはいかせない。
小脳と腰椎の緊張が収まると、くよくよがなくなるから、また学校にいけるようになるね。」
 「O養護施設には、小脳性の鬱病を持っている子は多いよ、Nにもその気があるし、2Yにも2Mにも5Mにもあるな、僕らが頼りになるなと思う子にはあるね。
 そういえば、2Mは、この前柿の木の絵を描いたときには学校を休んでいたんだっけね。
 この子達が、こまかなことを苦にせずに、『だいじょうぶ、だいじょうぶ、少し待っていればいいように解決していくからだいじょうぶ。』って生きていけるように世話をしていきたいね。」
 「去年のこどもたちの絵と今年のこどもたちの絵を比べてみると、今年の絵にはいっそうの成長の後が見えるな。Yの絵なんかぜんぜん違うものね。」
 「ここのこどもたちは、みんな美しい絵を描いている。それでいいんだということですか?」
 「うん、そうさ。職員たちも、子供たちが成長することを待てるようになってきたもんね。

 職員がゆっくり待てるようになると、子ども達が職員に体を預けられるようになる。
 幼児たちのおんぶや抱っこがしやすくなってね、おんぶするとぺタッと体を預けてくるものだから……。幼児たちが職員の気持ちを味わっているんだなあって感じるよ。
 O養護施設全体がいい方向へいい方向へ歩んでいるのが分かるよ。」

5.あれる

 3日の朝は、Eが兄のMに向かって体ごとぶつかっていって取っ組み合いをし、Mが泣き出す事件から始まった。
 すると、GとLがはやしたてる。
 GはEと同じくらいの体なので取っ組み合いになっても互角なのだが、LはEにはやられっぱなしになる。
 Cは、自分だけでポーズをとっている。
 幼児たちのシャツやパンツを見ると、ガオレンジャーが印刷されていた。
 「おとな以上に、こどもたちは、世の中の流行に弱いんだよ。
 戦うということが世の中の流行であれば、その意識にすぐ巻き込まれてしまう。
 ゴレンジャーが流行っていた頃は、どこの保育所でも幼稚園でもロボットのような動きで子ども達がポーズを取っていた。

 しばらくそんな様子を見かけなくなってうれしかったんだけれどなあ。」

 BとAは私のそばにいた。
 「やさしいうたをうたって」Bが私にいった。
 「やさしいうたって、なんのおうたかなあ。」
 それは、「もりのくりすます」のことだった。去年の年中児たち(今年の年長児)が何回も私に求めてきた歌である。
 BとAを抱きながら私は「森のクリスマス」歌った。
 私は歌いながら涙が出て止まらなくなった。
 「なんでないているの?」Bがきいてきた。

   きょうはうれしいクリスマスの日
   もりのなかではどうぶつたちが
   さんたくろーすのおじいさんの
   おくりものをまってます
      いちばんはじめはりすさんに

   メリメリクリスマストゥユー…………

 わたしは、りすさんのところに、Bくん、Aちゃん、Dちゃん、Cくん、Fちゃん、Gくん、Eくん、と幼児たちの名前を全部いれてうたった。
 「Bくんは、Bくんがいない。……」

6.
 朝食後もこどもたちは荒れていた。
 警笛が鳴る自動車のおもちゃをCは独占して遊んでいる、警笛がならない自動車はつまらないので、EはCに「かして」というのだが、Cは断固としてかさない。
 Cの表情は恐ろしいものであった。
 上の写真はそのときの二人のやり取りの様子である。
 Eの表情は獲物を狙うような精悍な表情でふだんのEの表情ではない。
 また、Bが「Bくんのしゃしんをみせて」という。
 何度もデジカメの写真を見せたが、
 「Bくんがいない!!」
 また、はげしく泣きだした。

私は1時間ほどBを抱き続け、Bをフォルム治療し、咳を出し続けた。

7.

 

10時くらいからこどもたちは園庭で遊び始めた。

 どろんこになっているこどもたちからは、ガオレンジャーの影は消えていた。
 三瀬さんと1時間ほどミーティングをした。

 子ども達が自分のものを持つことができるように、一人一人のこどもたちにクレヨンと画帳を持たせることにした。

2001年10月14日

千葉義行

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