O養護施設レポートUへ戻る

レポート23 第24回目の訪問  2月19日20日

あったかおふとん

1.

 19日、郡山は雪が20cmほど積もっていた。 バスは定刻に出発したが道路が込んでいて駅まで1時間以上かかってしまった。
 O養護施設についたのは11時半を回っていた。
 いつもより1時間の遅れだった。

 昼食を食べてから子どもたちと遊び始めた。
 Eがわたしの膝に座った。
 「ぱっぱらぱなし、よんで。」
 「そうか……、ノンタンの絵本……、すきなんだ……。」
 職員室の棚から、「ぱっぱらぱなし」「あわ、ぷくぷくぷくぷぷぷう」「およぐのだいすき」「おばけむらめいろ」、をおろし、ノンタンの絵本を読み始めた。
 B、A、G、C、D、F、が交代でわたしとEの回りにきて、いっしょに絵本を見た。
 4冊を交代で繰り返し、繰り返し読んだ。
 4才のEがこれだけ長い時間わたしから絵本を読んでもらったのは初めてのことであった。
 LD・視床の微細障害があったために、これまでは、言語意識を起こそうとすると苦しみが起こりじっとしていられなくなり多動が起こったのだが、言語意識が起こっても苦しみが少なくなってきたのだ。
 彼には、わらべうたをうたっておどっても多動が起こっていた。わらべうたをうたっておどろうとすると、自分の内的な意識を聴こうとし意識化しなければならないので、その作業が彼にとっておおきな苦しみとして感じられていたのであろう。
 このひ、Eはわたしの背中に負ぶさってきて、「まめっちょまめっちょ、……」とわらべうたも口ずさんだのである。
ノンタンの絵本がひとしきり終わると、Gが「ちいさいの、かして」といった。
ペンタトンライアーのことである。

「ちばせんせいのいる ところでね……」  
G、C、F、D、B、が交代でペンタトンライアーを弾いた。

2.

 先週、H(2才3ヶ月)が新しくようじのおへやに来た。
 お昼寝の部屋を見ると、Aが寝ていて、Hひとりが起きていた。

 顔が合うと、『じぶんをつれていけ』と体で言っていたので、Hを抱き上げた。
 抱き上げると、子供たちの声がする方向にわたしの体を指示する。

 プレイルームで、Hを抱きながら、まず、「ぞうさん」を歌ってオィリュトミーした。
 ついで、「しゃぼんだまとんだ」を歌ってオィリュトミーした。童謡系の歌のほうが彼女にとって受け入れやすいようだと直感したからである。

 「ぞうさん」と「シャボン玉」をじっと聴いていたので、「たんぽぽ たんぽぽ むこうやまへとんでけ」とわらべうた系のうたを歌ってオィリュトミーした。

 「たんぼぼ」のうたも、じっと聴いていた。
 Hにゆっくりかかわっていると、Bが「Bのばん、Bのばん」と騒いだ。
 HをおろしてBをだきあげると、Hは自分の頭を床に叩きつけた。自傷行為である。
 B、D、F、と交代で抱っこして踊る。
 そのうち、Aがおきてきて抱っこを求めた。
 そこでわたしは、AとBの手をつないで「まめっちょ」を踊ってみた。
   まめっちょ まめっちょ
   いったまめ ぽりぽり
   いんねえまめ なまぐせ
   すずめらが おどっから
   おれらも まわりましょ
「まめっちょから ずずめらがおどっから」 までは、拍を感じながらとびはね、「おれらもまわりましょ」で、くるりと一回転するという踊り方で、Aはたいへんよろこんだ。
 すると、Dがすぐてをつないでき、Hもそばで体を揺すっていたのである。
 わたしは、Hのてをとって、A、B、D、といっしょに、「まめっちょ」をつづけた。
 さらに「いちばちとまった」をつづけた。
 Hは、声をあげて笑っていた。
 わたしは、さらに、Hをうつ伏せにして、仙骨のフォルム治療を試みた。
 腰(腸骨)に手を当てただけでも重苦しい感覚が登ってくる。
 重い脳性麻痺が起こっていることが分かる。

 頭頂骨と側頭骨と前頭骨を触ると重苦しい感覚が登ってくる。 ADHD・前頭葉の微細障害、脳梁の微細障害から脳性麻痺、LD・視床の微細障害から自閉症、全体の障害から知恵遅れがすでに起こっているようである。
 
病院の診察で脳挫傷であることが分かったとのことであるが、ADHD・前頭葉の微細障害はもとから彼女が持っていたもので、脳梁の微細障害と視床の微細障害は脳挫傷の結果として起きたものであろう。

3.

 Uが幼児の部屋に顔を出した。
 「かもさん、ぬろう。」
 手にはハムスターを持っていた。

 「ハムスターはね、かごの中で自由にさせてあげていた方がいいんだよ。(できれば、自然の中にそっとしておいた方がいいだけれどね。)  Uが持って歩くと、ハムスターは自分で動けないから、だんだんよわってしまうよ。」
 自分の気持ちとペットの気持ちの区別がつかないのは、ペットを飼っているいわゆる健常児や健常者の大人たちといっしょである。
 自分の気持ちとペットの気持ちの区別がつかないために、人間は動物や植物をペットとして飼いはじめた。自分の気持ちとペットの気持ちの区別がつかないのは、人間に起こった、広義の意識障害と脳性麻痺というコミュニケーション障害によるものなのだ。
 Uの場合、この広義の意識障害と脳性麻痺はまだ深く残っており、彼の知恵遅れの部分を大きく構成している。
 養護教育に携わるもの、保育に携わるもの、教育にたずさわるものは、人間に起こっているこのような微妙なコミュニケーション障害に関する認識(自分もこのような障害を持っているし、持っていたんだ。という自覚)が必要である。
 この認識が起こらなければ、自分の目の前の子どもたちの変化は起こらないのである。

4.

 3時頃から学童の子どもたちにかもの彫塑を教えた。
 6年生の6Yが近づいてきた。
 「ぼく、きょうはくちょうをぬれない。
  ねていなければならないので……」
 「どうしたんだい」ときくと、
 「おなかがいたくて……」という。
 「そうか……ゆっくりやすんでいな。」
 新しい女の子どもたちも来た。

 ひとりひとり別々に来て、
 「あたしもやりたい……」というのがおもしろかった。

L(年中)

ゆたかで、肉体の深みを表現している。

K(年中)

うつくしい。

自分の意識の内部を聴いている:彼女の聴覚を現している。

M(年中)

ゆたかである。

意識の表層を触っている。

R(年長)

うつくしい。

自分の意識の内部を聴いている:彼女の聴覚を現している。

O(年長)

いじわるな霊が意識障害を起こしている。

胴がこれほど豊かなのだが…。

P(年長)

ゆたかである。

知恵遅れで論理の繰り返しが起こっている。

N(年長)

うつくしい。

自分の認識を聴いている。しかし、待てない。

R(年長)

ゆたかである。

自分の肉体を聴こうとしている。

U(1年生)

ゆたかである。

意識の上で、自分と指導員の心が区別できていない。知恵遅れ

T(1年生)

うつくしい。

指導員の感情を聞こうとしている。

Z(1年生)

うつくしい。

環境の中を漂っている状態。

V(1年生)

ちからづよい。

肉体を意識し始めている。

Y(1年生)

ゆたかである。

自分の感情を聴いている。

2Y(2年生)

うつくしい。

指導員の気持ちがそれでいいと思い始めている。

2MS(2年生)

うつくしく、やさしい。

環境を肯定している感情。

3H(3年生)

うつくしい。

環境を肯定している自分の気持ちを聴いている。

5M(5年生)

ゆたかである。

環境の意識を認識し始めている。

   

 いつものことではあるが、OとYのふざけぶりは激しかった。
 パレットに絵の具を大量に出したり、他の子どもの作品に手を出したり、……
 わたしは、ふざけるOの頭を軽く叩いてしまった。
 Oの頭を叩いてしまってから、OとYの場合は、がまんして彼らが自分でできるようになるのをじっと待つことが正解ではないか?なぜ、自分はOの頭を叩いたのか?Oの感覚障害にわたしの感覚が動かされてしまっているのではないか?と気付いた。
 Oの絵画に、みどりや黒によるモノトーンの作品がおおいこと、今回のかもの彫塑では、粘土によるかもの彫塑では構造をしっかりと把握できていたのに、色をつける段階においては、すてきな色を意識できなかったこと。
 これらのことは、彼が、自分の肉体は意識できてまとめることができるのだが、環境(O養護施設、幼稚園、等)の意識の一部が聴こえないこと(広義の自閉症)を現している。  絵画教室を運営しているわたしの気持ちが、Oに聴こえなくなる為に、Oに意識障害が起こり、いたずらやいじわるをする霊が憑依し、感覚障害が起こり、わたしの意識を動かしてしまうのである。
 Oのこの広義の自閉症・意識障害・感覚障害をどのように治療していくかという方法については、当面、振動・聴覚による治療・ライヤーによる音楽療法が有効になるものと思われる。
 夕食を食べてから後片付けをした。
 5MとVくんが手伝ってくれた。  できた作品をかざりたいとふたりが言い出した。
 主任先生に場所の指示をもらおうと学童の職員室に行ったら、食堂にいらっしゃるという。
 「食堂にかざってみんなに見てもらいたい」

 食堂では、主任先生が2MSくんに九九を教えていた。
 私は、はしゃぐVを押さえて、金魚の水槽の前にかもの彫塑を置いた。
 5Mくんがかもたちをきれいに並べた。……5Mのかもは、全部のかもの中央に置かれていた。……

5.

 男子学童の子どもたちといっしょに風呂に入った。
 すぐ、主任先生がたくさんの学童の子どもたちをつれて入ってこられた。
 主任先生はすぐ、2MSくんをつかまえて九九の復習を始められた。
 「クリスマスうたって」子どもたちの声を押さえて、 「食堂でね、少し歌おうね、……」といって、風呂から上がった。
 私の胸がキュンとなり、手の指先が冷たくなった。
 こんなことで神経症が起きる自分も情けなかった。
 食堂にはVと5Mくんが来た。
 ピアノの音量を小さくして、『いつも何度でも』をピアノで弾いた。
Vは、のうてんきに、  「『かさ』をうたって」とせがんできた。
 『かさ』をうたった。
 「いちねんせいはねるじかんだよ」
 Vは、迎えに来た職員に連れられて帰っていった。

 「ライヤーにしよう」
 わたしは、5Mくんに35弦ライヤーをわたし、グリッサンドをさせ、一音ずつの弾き方を教えてから、
 「千葉先生がひとつ音を弾いて、『どうぞ』といったら、ひとつのおとをかえしてごらん。」といって、7弦ライヤーを手に取った。
 10分ほど、5Mくんとわたしの即興演奏は続いた。
 とても美しい音楽だった。
 「あたまがすこしいたくなった。……」
 「じゃあ、おやすみ。……」

6.

 9時過ぎから12じまで、三瀬さん、刑部さん、木村さん、の幼児部のスタッフと話しこんだ。
 木村さんとはライヤーの即興演奏も行った。
 美しい演奏だった。
 刑部さんが語った。
 「わたしに、Aがなかなかなつかなかったんですよ。

 ごはんを食べさせようとすると手を払われたり、わたしがいると泣き止まなかったり。……
 ある日、とうとう、Aをしかったんです。
 そのひから、Aもわたしを相手にするようになって、」
 「そうだね……、
 自閉症ッけを持っているとね、相手の特定の感情が響くとその人に心を閉じちゃってね……、
 だから、自閉症ッけを持っている子には、相性の合う職員を担当につけないとね……、
 自閉症ッけを持っている子に嫌われても、その職員の責任じゃあないからね……。
 接触を続けた後で、本気で叱ると、その子との意識の通路が開くことがあるんだ。
 そのときだったんだね……。だから、叱るという判断で正解だったんだ。」
 「Hちゃんはどうですか?」
 「今日来てみてとても感心したのは、Hがにこにことして安定していたことだね……。

 Hの意識をじっと聴いていると、世話してもらっている職員の気持ちの中に入ってしまっている。お母さんの影がない……。
  これは、Hの知恵遅れを現すものだけど……。
 いまのHにとって一番必要なものは、Hの表の意識が安定していて、恐怖や怯えがなく、職員に身を任せていられることだからね……。
 この意味で、幼児部の職員の実力はたいしたもんだと思ったよ。」
 「脳挫傷の予後を観察して、あとでそちがかわるかもしれないとのことなのですが?」
 「今日、Hの頭と腰と脊椎を触って治療した結果では、

 脳挫傷が起こる前にADHD・前頭葉の微細障害が起こっていたね、そして、脳挫傷が引き金となって、LD・視床の微細障害がおこり自傷行為など自閉症系の障害が起こっている。
  また脳梁にも微細障害が起こり、脳性麻痺系の障害が起こり深い知恵遅れが始まっているよ。
 脳梁の脳性麻痺系の微細障害から腸骨(骨盤)がとても悪く、脊椎を通る神経系統の速度がとても遅いね。
 まず、心臓の鼓動の音を彼女の体と意識に響かせること。……『いちばち』『ここはてっくび』『おでこさんをまいて』『たんぽぽ』『おやゆびねむれ』『ジージーバー』『まめっちょ』『せんぞうやまんぞう』
 そして、体全体のマッサージ、特に腰と足指のマッサージを念入りにね。
 絵本は、『ころころころ』『まるまる』『がちゃがちゃどんどん』『もこもこもこ』を少しずつ読むんだね。
 重くて大変だけれど、おんぶも必要だね。

 EくんとAちゃんにどう取り組んだらどのような結果がおきてきたか? Hは、これらの経験の復習のケースになるね。」

7.

 20日、6時半すぎにようじのお部屋へ行く。
 ねぼすけのGをつかまえて、脱がせたシャツで胸腹背中をゴシゴシ乾布摩擦をする。
 Gの胴体の皮膚はアトピーでざらざらした鮫肌になっている。もちろん、膝とひじの内側、そして首には、アトピーによる激しい湿疹が起こっている。
 「とにかく、肌に接触するところは全部、綿のシャツ、綿の衣類を着せてね。
 アトピーは、自分の肉体にとって異物と感じられるものを体外に排出しようとすることから起こっているんだ。
 免疫機能と代謝機能があせっているんだね。
 本来ならば、異物は血液やリンパ液が肝臓や腎臓に運んで、尿となって排出されるのが人間の仕組みなんだけれど……、
 第一に、人間にとって異物と判断しなくてもいいものを異物として判断してしまう。……免疫系のあせりだね。
 第二に、尿から排出すべきところを皮膚や粘膜から排出しようとしてしまう。……免疫系のあせりと代謝系の発育不全から起こっているんだね。

 代謝機能の発達を促進するためには、綿のものをきることだね、そして、ご飯を少し黒くする。胚芽米を食べるといいんだよ。

 免疫系の機能障害を治療していくためには、皮膚をよくマッサージすること、化学物質が食事に入り込まないようにすること、特にお塩を精製塩から自然塩に変えると効果が大きいんだよ。
 免疫系の機能障害は、アトピーを引き起こすだけではない。子どもや大人が喧嘩っ早くなってしまう、いわゆる行為障害も免疫系の機能障害から起こっているからね。

 これからは、食事の問題や衣類や住まいの問題、つまり、衣食住の問題もO養護施設の問題として取り組まなくてはいけないね。」

8.

朝食後、ライヤーを出した。
幼稚園に出かける前の年中さんもライヤーに触った。
Hにもはじめてライヤーに触らせた。
彼女は目を閉じて何度もグリッサンドを行っていた。
Fが「せんとちひろやって」ともとめてきた。
 Fをだっこして「いつもなんどでも」をうたっておどる。
 「たっくんも……」「まっててね」

 Bは、わたしが踊っているフォルムのままに、足で図形を描いて踊っていた。
 ……ああ、オィリュトミーがこの子どもたちの体の中に深く浸透しているんだ。…… 
 わたしはうれしかった。

 F、B、D、A、H、
 かれらを抱っこして、わたしは何回もおどった。

 おなかのちょうしの悪いFがおふとんにねていた。
 Aも少し調子が悪かったので、Fのおふとんにもぐりこんだ。

9.

 おやつのあとに、クレヨンで桜の枝を描いた。
 16色のブロッククレヨンを使った。
 「どのいろで描こうかな?」
 好きな色のクレヨンを選ばせ、枝を幹から枝の先に向かって描かせる。

 「つぎのいろ」別な色のクレヨンを選ばせ、そのいろを『ごしごし』と幹から枝の先に向かって描かせ、色を重ねさせる。

 「つぎのいろ」を重ねたい色がなくなるまで繰り返す。赤、青、黄色、緑、は一色は必ず入れるように指導する。

 芽の色を選ぶ、赤と黄色と黄緑以外の色を子どもたちが選んだときには、その色を『そおっと』描くように指導する。

 芽を描いたら、『すてきないろ』を一色選ばせ、ブロッククレヨンの広い面を使って同じ方向にうすく空間を描かせる。

A(3才)

力強い。

Aの感情を現している。

B(3才)

やさしい。

Bの他者意識を現している。

C(3才)

論理障害があるために、線が細くなってしまっている。

D(4才)

リューマチから意識障害が起こっているために、前に描いた線に沿って描くことができていない。

E(4才)

まだ意識障害が残っているために色がまだらになっているが、よくここまで回復したものだ。

F(4才)

うつくしい。

彼女の認識を現している。

G(4才)

うつくしい。

彼に聴こえてきた、お友達の気持ちを表している。

M(年中)

ゆたかである。

彼に聴こえてきた主の感情を現している。

L(4才)

アレルギー・神経症を現している。

もっと太く力強く描けるようになるだろう。

   

 昼食を子どもたちと食べてからO養護施設を後にした。

2002年3月3日

千葉義行

音楽

三善晃 ひびきの森より 
1.5つのドa
2.5つのドb
3.ドがたくさんa
4.ドがたくさんb
抜粋

ページ先頭へ戻る