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レポート5 第6回目の訪問 6月19.20日

1.
 6月19日10時30分にO養護施設についた。
 幼児の部屋に着くと、
 「きょうはなにをかくの」
 「そうか、みんなえをかくのをまっていたんだね。
 きょうはにんじんさんをかいてみよう。これからじゅんびするからまっててね。」
 準備室でパレットに、赤、青、黄色、白の絵の具を出し、水差しを準備する。
 今日の子どもたちは準備室に入ってこようとしない。
 静かである。
 二人ずつの用具を並べて、
 「きょうはね、ふたりずつえをかこうね。みんなじゅんばんをまっていられるかな?」
 「おおきいこからかこうね、ちいさいこはおおきいこがかくのをみていられるかな?」
 最初、わたしがGをおしえて、刑部さんがFをおしえた。
  あかをいっぱいいれて、きいろもいっぱいいれて、あおはほんのすこしいれて、しろもほんのすこしいれて、にんじんさんのいろになったかな。
 おおきなふでで、よこにまあるく、ごろんってかいてごらん。
 そのしたにごろん、またそのしたにごろん、……
 にんじんさん、かけちゃったね。

 つぎは、きいろをいっぱいいれて、あおもいっぱいいれて、しろをすこしいれて、はっぱのいろになったかな。
 じゃあ、おひさまにむかって、のびろのびろのびろ……」

 GとFが4才、EとDが3才、CとBとAが2才である。

 私は、GとDとCとAをおしえている。
 Cが少し自分の描きたい方向に筆を動かそうとして体が硬かったが、GもDもAも、すなおに筆の動きを楽しんでいた。
 これはすごいことであると思う。
 私は、まだ2才児に絵を教えたことはなかったのだ。
 Eは木村さんが教えた。
 「Eは体に力が入っていた?」
 「さかさまに筆を動かそうとするんですね。」

 「ん……。それは、彼にまだ深い意識障害があるからね。でも、この絵は彼にとってはよく描けているとおもうよ。」

 全体に赤の分量が多いが、自分自身と職員や私(千葉)の母性にこだわっているためであると思われる。(つねりの問題)
 しかし、形も色も美しい。それは、彼らの本当の姿を現すものであると思う。
 とくに、「おひさまにむかってのびろのびろ」とのびている茎がとても良い。彼らの肉体の喜びをあらわしている。

2.
 今日のEはお母さんとの面会があるとのことでお昼寝をしないで待っていた。
 私は、Eをつれて、FやDが床にぶつけて遊んで折れてしまったにんじんを2本持ってウサギのえさやりに行った。
 Eは、自分で直接うさぎにえさをやろうとする。
 私はにんじんを細かく砕いて彼に渡した。
 「うさぎさん、おいしい?」
 「うん、おいしいおいしいって」
 「おしっこでちゃった」

 おしっこがでてもEはえさやりを止めようとしなかった。

3.

 おやつのあと、わらべうたあそびをした。
 「まあるくなあれ、まあるくなあれ、いち、に、さん、ちいさくなれ」
 「まあるくなあれ、まあるくなあれ、いち、に、さん、おおきくなれ」
 「いちばちとまった、にばちとまった、〜〜」
 「たんぽぽたんぽぽ、むこうやまへとんでけ」
 
「ずくぼんじょ、ずくぼんじょ、ずっきんかぶってでてこらさい」

 絵本を読む、
「どうぶつのおかあさん」  薮内正幸  福音館書店
こっこさんのおみせ」   片山健   福音館書店
「ころころころ」      元永定正  福音館書店

 お手玉を出して、
 「えんやらもものき、ももがなったらだれにやろ、Fちやんにあげよか、せんせにあげよか、だれにあげよか」
D、F、C、G、B、A、お手玉を渡すと本当にうれしそうな顔をする。
Dは私にお手玉を渡すこともできるようになった。
GとCはお手玉をためることに興味が移っていった。

「えんやらもものき」から興味が移っていった子どもたちは、お手玉をぶつけ合って遊び始めた。

幼稚園と小学校から帰ってきた子どもたちが参加し始めた。
去年保育をともにしたN、S、R、Mが、絹の布を使って踊った姿は、すばらしい自己表現になっている。

 「ああ、私はこの子たちにオィリュトミーを教えていたんだ……」
 私には、自宅に戻ってこの写真を見てから深い感動が起こった。
小学生の女の子たちが幼児たちに絹の布をマントに結んであげているのを見て、私は、
「この布はねマントにしては欲しくないんだ、自分の前でひらひらさせながらおどってごらん。」
 彼女たちは自分の前で絹の布をひらひらさせた。
 わたしはうたった。
 「すてきな すてきな ぼうしやさん
 あなたに にあいの ぼうしはどれ
 らららんら らららんら らららんららん らんららんららん
 うさぎが ぴょんぴょんって とんできて
 ぼうしをくださいといいました
 あなたににあいのぼうしなら きっとこれです」

 彼女たちの踊りもすばらしかった。


 19日は合間を見て、D、B、C、G、に静的フォルム治療をした。
 Dは特に両肩、Bは特に仙骨と胸椎、Cは頭頂骨、Gは蝶形骨大翼の治療が中心だった。
 風呂に入る前に私を迎えにきたM5に静的フォルム治療をした。
 特に、後頭骨、仙骨、肩甲骨に鬱が、頭頂骨と頚椎と手に神経症が、溜まっていた。
 M5は、全体を判断する能力が優れており、他の子の気持ちを聴こうとするすぐれたこどもである。
 そうであるだけに、深い鬱病と神経症を持っているのである。

5.
 子どもたちが寝静まった後、三瀬さんと刑部さんと実習生と4人で話しこんだ。
 「にんじんは、すばらしいいろがでたね。」
 「Aまで描けるとおもっていませんでした。」
 「みんなやりたいと思っていたからね。大きい子のまねをするとできちゃうんだよ。
 でも、描いてうれしかったと思えば、それでいいさ。
 みんな力が抜けていたね。Eもこれだけ描けるんだもの、たいしたもんだよ。
 今日はね、静けさを感じたよ。絵を描く準備をしているときに子どもたちが静かにしているんだな。」
 「わくわくしてまっていたものね。」
 「Lの手足はまだ冷たいけど、GとAの手足があったかくなったね。
 Aの色が白くなった。そして、たくさん食べるようになった。
 子どもたちがたくさん食べるようになったね。
 子どもたちがおかわりをするとうれしいね。おいしいと思っていることが伝わってくるものね。
 栄養士の力を感じるよ。」
 「私たちも給食委員会でずいぶんいいたいことをいいましたもんね。」
 「おんぶひもが3組あったね。」
 「はじめ、Aのために用意したんだけども。他の子どもたちもおんぶしたがって。
 私たちも子どもをおんぶしていると両手が使えて仕事ができますものね。
 冬はあったかいし、あっはっはっ」
 「おんぶしているときの子どもたちは体を預けてくるね。
 のけぞることの多い子どもは眠れないことが多いけど、体を預けられるようになると、体の緊張が解けて眠れるようになるね。
 おんぶしている状態は、子どもと大人の正面(意識の軸)が一致しているために、子どもは素直に大人の気持ちの中に入ってしまうのね。
 すると、大人の気持ちが安定していれば、こどもの緊張した気持ちがすぐにらくになるんだ。」
 「今日園長先生が「幼児さんたちが代わったのかなあ」と言って、見学の方々を幼児の部屋に案内したときに、幼児たちが「だっこして」っていわなかったっておっしゃっていたよ。
 かえってGが「ばか、あほ、まぬけ」っていったっていうんだが。
 その見学の方が「こどもたちがしっかりしてきたんじゃないですか」っていわれたというんだ。

 僕は、「その見学の方はよく見ておられますね。幼児さんたちと職員との愛情関係が確立してきたからなんじゃないですか」と答えたんだよ。」

6.
20日朝、Bが職員控え室に入り自分でドアをロックしてしまった。
刑部さんがかぎの束を持ってきて開けようとするが、かぎが合わない。
Bはパニックを起こしずいぶん泣いた。

この日、子どもたちの調子が少し狂っていた。
Cが、私にさせようとしたことを私がしないと、彼は私をつねり、刑部さんが作ってくれた「けんけんぱ」用のテープをはがし始めた。
刑部さんは「先生は悲しいな。」といいながら私と一緒にはがされたテープの後始末をした。
Gも、私にさせようとしたことを私がしないと、私をつねった。
Dも、私にさせようとしたことを私がしないと、私をつねった。
最後に、Fも私にさせようとしたことを私がしないと、私をつねり、おお泣きした。
C、G、Fの3人は、私の母性に対して彼らの思いを在らせようとし、つねっているように思われる。
「お母さんに〜をして欲しい」と思う。しかし、お母さんはそれをできない事情がある。
でも、〜をして欲しいと思うことをお母さんにさせたい。
DとAとBは、私を他者として、彼らの思いを私に命令しているように思われる。
彼らの思いは絶対であり、それを他者に命令している、それが実現しなければ、彼らは絶望する。
私は、CとGとFの3人と、DとAとBの3にんに、心の発達のレヴェルの差を感じているのである。

しかし、いずれにせよ、現象としての「つねり」をどう克服してゆくか、が今年のO養護施設の目標なのであると思う。

2001年6月27日

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