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レポート6 第7回目の訪問 7月3.4

1.
 7月3日12時30分にO養護施設についた。
 遅れて昼食を食べていたら野本君がEを抱っこして入ってきた。
 ずっと散歩していたのだという。
 昼食を食べ終わると、Eが、
 「かたぐるまして、うさぎさんみにいこう」という。
 うさぎごやのかぎを取って、Eをおんぶしてうさぎごやへいった。
 「かたぐるま」「きょうはおんぶ」「かたぐるま」「きょうはおんぶ」
 うさぎごやには、新しいかぎがついていて、開けることができなかった。
 すると、Eはうさぎごやの前のコンクリートブロックにすわって「いやだ、いやだ」ととなえはじめた。
 ごねているEではあったが、そのとき私はEをかわいいと思った。
 これまでのEであったら、頭を壁に打ち付けてもっと泣き喚いていただろう。そのようなEのそばにいる私には、彼の激しい絶望と苦しみが聴こえてきていた。
 今日のEからは、苦しみは聴こえてきたが、絶望は聴こえてこなかったのである。
 それから40分ほどEをおんぶして園庭を歩き回った。
 「はっぱ、はっぱ、はっぱっぱっ」
 「とんぼとって」「とんぽさんはEが近づくとこわくなってにげちゃうんだよ」
 「とんぼつかまえて」「とんぼさん、とんぼさんEのところにとまってあげて……」
 とんぼがたくさんとまっている場所で彼を降ろすと、とんぼをつかまえようとするが、とんぼは逃げてしまう。すると、彼は、「いやだ、いやだ」とわめく。
 彼をおんぶし歩き回ると、私から大量の咳が出てきた。
 Eは私の背中で眠ってしまった。
2.
 1時半から3時すぎまで職員会議があった。
おやつは3時半ころからはじまった。
こどもたちがおやつをたべているあいだに「3びきのくま」のパネルシアターをはじめた。
「3びきのくま、3びきのくま、しあわせかぞく、
3びきのくま、3びきのく ま、なかよしかぞく、
おとうさんはミハイルイワノビッチ、
おかあさんはナスターシャペトローブナ、
 ちいさなこどもはミシュートカ、
3びきのくま、3びきのくま、しあわせかぞく、
3びきのくま、3びきのくま、なかよしかぞく、」
おやつをたべおわった子どもたちが、近づいてすわってじっと聴いている。
MとKとLの年中さんの3にんは、いっしょにうたったり手をたたいたりして特に良く聴いてくれた。
Mたちの「もういちど」のことばで、2度目を始めようとしたが、こどもたちは自分でキャラクターを動かしたくなって無理をしはじめたので中止をした。
ついで絵本を読む。
「ひまわり」  和歌山静子   こどものとも年少版8月号
「ただいまー」 笠野裕一    こどものとも年少版6月号
「あっちみて こっちみて」 中辻悦子  子どもの友012 6月号
MとKとLの年中さんの3にんと、DとF、5にんの前で読む。
あらためて、年中さんたちの絵本を聴く態度の深さに驚いた。この3人は昨年度から引きつつづきかかわっているのだ。
彼らの絵本を聴く態度にもかかわらず、LとMとKは、それぞれ、「自分の絵本だ」といいあって絵本の取り合いをした。……(自分の気持ちの一部は聴こえるが、みんな・全体の気持ちはまだ聴こえていないのだ)
3.
 夕食はBとKのそばでたべた。
 すると、Lが「ちばせんせいのそばでたべたい」といい私のそばにいすを持って引っ越してきた。
 すると、Mも「ちばせんせいのそばでたべたい」といい私のそばにいすを持って引っ越してきた。
 Lが「ちばせんせいパイナップルおかわりして」といった。
 パイナップルの残りがほとんどなかったので、「パイナップルはもうなくなっているよ。これからゆうしょくをたべるひとたちにとっておいてあげなくちゃね。じゃあ、はんぶんだけかおわりしよう。」といって半分を取り分けた。
 すると、Lは、自分でパイナップルをひとつ手づかみしたのである。
 わたしは、彼の手をつかみパイナップルをはなさせた。
 「先生に取り分けてもらうのでなければいけないよ。じぶんでとってきちゃあだめ。」
 Lは、「ちばせんせいのばか」といって泣き出した。
 そして、私が目を離している間に、パイナップルをひとつとってきてたべはじめた。
 私は、彼を見つめながら何も言わなかった。
4.
 食後、Dが「えほんをよんでからねる」といった。
 「ひまわり」と「ただいまー」と「あっちみて こっちみて」を持ってきて読んであげたが、Dは「わたしがよむ!」といった。
 わたしは、「じゃあ、みんなによんであげて」といって、Dに「ひまわり」のえほんをわたした。
 「どんどこ どんどこ」 「どんどこ どんどこ」
 冒頭の写真である。
 力強く、いきいきとしたDの様子が撮れていると思う。
5.
 4日朝、私は近くのスーパーにイカを買いに行った。

 子どもたちといっしょに買ってきたイカを描く。

 「あかいっぱい、あいいろいれて、きいろもいっぱい、まぜまぜして……おみずをいれるね。
 いかさんのえんぺらのところを描くよ、まんなかぎゅっ、そとへむかってなみがざぶん、
もいちどざぶん、こんどはみぎがわ、なみがざぶん、もいちどざぶん。
 せぼねをまっすぐここまで(指で目標を示して)えがいてごらん。
 ひだりのむねは、おおなみざぶん、おおなみざぶん、〜〜
 みぎのむねも、おおなみざぶん、おおなみざぶん、〜〜
 しろをいれて、
 ひだりのおめめのまわりをぐるん、みぎのおめめのまわりをぐるん、まんなかぎゅっ。
 しろをいれて、
 まえのあしは6ぽんあるよ。いっぽん、にほん、〜〜〜6ぽん。
 きいろをまぜて、
 あしにぽっぽがいっぱいあるよ。ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ、〜〜〜〜。
 しろをいっぱいいれて、
 うしろのあしは、みじかいのが2ほん、ながーいのが2ほん。
 ながいのは、ゆっくりおおきく、ゆっくりおおきく。
 きいろをまぜて、
 ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ、〜〜〜〜。」
 Bと、Cの絵には、まだ、自分で描こうとして筆を逆方向に動かした様子が見えるが、
Aの作品も、Bの作品も、Cの作品も、全体が太くゆったりと描かれていて、とても良い。
 彼らの無意識において、職員を深く信頼している状態が絵に現れているものと思われる。
        
 Gの絵は、頭と胴と目がしっかり大きく描けているが、足が少し小さい。
 意識がはっきりしていて自我が大きいが、自分の意識と体で他者を支えていくところにまだ怯えがあるのだろう。
 Eの絵には、胴の線が波打っているところに意識障害が現れている。
 Gとは逆に、自我を感じることへの恐怖が深くあり、それがまだ癒えていないものと思われる。
 Dの絵には、たどたどしいが、職員を無意識で深く信頼し、職員を真似しようとするひたむきさが感じられ、それが、感動的である。
6.
 Cが、私のそばにやってきて、「ばんそうこうはって」という。
 みると、虫刺されがほとんどなおった状態である。
 私は、彼の手をとって、「Cちゃんはげんき、このままでだいじょうぶ」と歌った。
 しばらくこの押し問答が続いた後、Cは、わたしをつねり、噛み付き、私の後頭部を力まかせにたたいた。
 Cは、6月ごろから私のそばで絵本を読んでもらったり遊んだりするようになった。
 それまでは、絵本が始まるとすっと居なくなったりしていたのだ。(Gは、いまも絵本が始まるとすっといなくなる)
 Cは、6月から、私の母性に頼るようになり、身を任せ始めたのだ。
 すると、Cは「自分が母親であるならばこうする」ということを私に求め始めたのである。
 Cの母性に対する思考に私が従わないと、かんしゃくを爆発させたのだ。
 Lのパイナップルのケースもそうであろう。
 「自分の子どものためになんでもかなえてあげよう」とするのが、L自身の母性の思考なのだ。
 Lも、Cも、全体(みんな)を感じながら判断できるように、彼らの母性を育てる時期にさしかかったのである。
 けっして、Lも、Cも「自分勝手な子ではないのである」
7.
 昼食を食べたあと、Qに「おへやにきてあそんで」といわれた。
 Qとてをつないで、2階の女子の部屋にあがった。(現在、年長児は女子と一緒にくらしているのである)
 そこで、「クリスマスがやってくる」「すてきなぼうしやさん」「ねこのおいしゃさん」「3びきのくま」を、RとOとQをおんぶして踊りながら歌った。
 ひとしきり3人の相手をしていると、Sが「ピアノを弾いて」といってきた。
 女子の職員室へ行くと、Sは童謡の本を広げて、「弾いて」という。
 「あめふりくまのこ」「ゆりかごのうた」「かぜさんだって」「しゃぼんだま」「おかあさん」私の好きな童謡を弾いて歌った。
 いつのまにか、NとSが、交代で私のひざにのっていた。
8.
3じのおやつをみんなで食べ、「3びきのくま」のパネルシアターをもう一度上演してから、わたしは「さよなら」した。
 Cも、Lも、「ケロッ」としたかおをしていた。

 今回の訪問の中では、Eにも、Aにも、自傷行為は起こらなかった。

7月13日

千葉義行

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