レポート1 第1回目の訪問 4月19日
おうちのなか、おうちのそと……
1.
4月19日11時にO養護施設についた。
みんな幼稚園に行っていて、A(3才)とHちゃん(2才)だけが残っていた。
三瀬さんから、初めて幼稚園に行った子どもたちの様子を聞く。
E(4才)、C(3才)、B(3才)は、分離不安で2.3.日泣いたが、このごろはだいじょうぶだという、Fはぐずっている、D(3才)、I(4才)、G(4才)はマイペースであるという。
「夜の睡眠の状態はどう?」
「こどもたち全員が、おふとんに入ったらすぐ寝てしまう状態です。
職員がらくだ、らくだ、といっていますよ。」
「それはよかったね……。
E、C、Bが泣いたのは当然だね、4月に泣いておけば5月以降は元気に幼稚園に通えそうだね、とくに、Eが泣いたのは良かったね。
朝、いっぱい泣いて、幼稚園から帰ってきたらめいっぱい甘えて……、初めてのことはこわいからね……。でも、おうちのなかでまっててくれるひとがいてよかったね。
夜の子どもたちの睡眠の状態が良いのは、子どもたちがおうちの中では安心しているからだからね。
Fのぐずりが5月までにおさまるといいね。きっと5月までにおさまると思うよ。
幼稚園のみんなに合わせようとする努力がストレスとして溜まると、5.6月に幼稚園にいけなくなるケースが起きてくるけれど、おうちの中のお母さんにこどもがちゃんと甘えられていると、初めてのお友達や先生との関係に対する緊張を自分で乗り越えて成長することが出来るんだ。
DとIとGには、まだ、初めてのお友達や先生との関係に対する自分の緊張を意識できていないというコミュニケーション障害が残っていると考えるべきだろうね。」
昼食は、AとHと三瀬さんと刑部さんと私……、
「うーん、ちょっとさびしいね……、いつもみんな、いっぱいいたからね。」
2.
Aをだっこして保育室へ戻った。
「ゆうびんやさんえっさっさっ Aちゃんをはこんでえっさっさっ」
ふとんが2枚しいてあった。(HとAのふとんである。)
「おひるねしない。」
「ん? Aちゃんはおひるねしないといけないよ……、」
「おひるねしない。」
わたしは、しばらく保育室でAをだっこし、ゆっくり寝せ、添い寝した。
「おやゆびねむれ、さしゆびも、なかゆび、べにゆび、こゆびみな、ねんねしな、ねんねしな、ねんねしな」
みぎて、ひだりて、みぎあし、ひだりあし……。
3.
午後、幼稚園児たちが帰ってきた。
B、F、C、Eの顔は緊張でこわばっていて、3月までの雰囲気とは違っていた。
この4人に引きずられるように、幼稚園に行っていないAが緊張していた。
しかし、抱き上げると全員がぺったり体を預けてきて、とてもかわいく、いとおしかった。
FとBは、わたしのだっこを取り合いした。Bを抱っこしてかまっている私を待てなくて泣いているFが上の写真である。BもFを抱っこしている私を待てなくて、泣き出し三瀬さんに抱っこされていた。
CとEとGが、Cがだいじにしていたたいこに編み棒をつきさしていた。
「こらぁ、なんてことをするの……。」
私は、Eの頭を軽くたたいて編み棒を取り上げ職員控え室の机の上に置いた。
すると、また、編み棒を持ち出し、Cがじぶんのたいこに穴をあけ始めた。(上の写真)
「なんてことをするの……。これは(このたいこは)Cのだいじだいじだろう……。あなをあけちゃたいこさんがいたいいたいって……。」
自分の大切なものを毀損しようとしているのは、自傷行為である。
暴れているCを抱き上げ背中をなでたが、そうすると、Cもわたしにぺったんとしてくるのである。
「いやいや、みんなようちえんでがんばってきて疲れているんだね……。
でも、だきあげるとぺったんしてくるからね……。幼児部の職員に対する子どもたちの信頼の深さを感じるよ。
だから、5月にはだいじょうぶだね。」
年中、年少児とくらべて、KとMの年長児は元気で明るかった。
やっぱり、去年もようちえんにいっていたのだし、おにいちゃんおねえちゃんだものね……。
GとIとDは、普段の状態に見えた。
彼らの肉体は緊張状態にあると感じるのだが、それが意識に上ってこないようである。
Hも、幼稚園児たちの緊張とは関係のない様子であった。Hの肉体は幼稚園児たちの緊張と不安を感覚しているはずなのだが。Hに起こっている知恵遅れが肉体の緊張を意識に伝えきれていないのであろう。
GとDとIにも、Hに起こっているのと同じ知恵遅れが起こっているのであると感じる。
Aには、この意味の知恵遅れがないので、不安定な状態になり、緊張しているのである。
O(1年生)とS(1年生)とU(2年生)が幼児の部屋にきていた。
Oは、すぐに私の体にまとわりつき、Sは、「ちいさなライヤーをかして」といってライヤーに触り、Uは、「ごほごほやって」といって、わたしのひざにのってきた。
私は、この日、U、S、O、F、D、A、にフォルム治療を行った。
4.
男の子たちと風呂に入った。
「くりすますがやってくる」「そらをみてたら」「ねこのおいしゃさん」「パレード」いつもの歌を歌って踊った(オィリュトミー)。(もちろん、はだかのままで)
「ライヤーやる?」
「今日は(食堂や事務室で)勉強していないのかな?」
「ううん、だいじょうぶだよ。」
ライヤーと木の太鼓を持って食堂に行くと、6Mくん(6年)とU(2年)がいた。
「おれ、ピアノ弾きたい。」
「そおっとな」
Uと6Mくんに「ド」の音だけを弾かせて、わたしが伴奏し、「ひびきの森」(三善晃作曲)の5のドが響いた。
「たいこをたたいてみる?」
「うん」
1ヶ月ぶりに太鼓に触った二人は、4拍子を刻めるようになっていた。
1ヶ月前の二人は、リズムを刻むことが出来なかったのである。
食堂に鈴木さんと刑部さんが顔を出した。
「ピアノを教えているんですか?」
「まあ、ちょっとすわってみな。」
鈴木さんをピアノの前に座らせて、
「ドの音だけを鳴らしてね……」
「ひびきの森」(三善晃作曲)の5のドが響いた。
「すごーい……、ドの音ってすごいんですね……、どんどん音が広がるんですね。」
9時前になってUが、「ごほごほやって」とフォルム治療を求めてきた。
きょう2度目のフォルム治療を行った。
5.
9時から10時にかけて宿直の鈴木君と勤務明けの刑部君と話をした。
「(幼稚園に行き始めに)みんなに合わせようとして自分だけでがんばっている子がいることが心配だったけれど、BもCもEもFも最初ぐずったのがよかったね。
ここではぐずっているけれど、だっこするとぺったんしてくるもんな……。
職員にこころからたよれる状態があれば、5月には分離不安が解決して来るんだ。」
「一昨年は、幼児たちはだれかれかまわず『だっこして』とか『かたぐるまして』とかいってね、だっこするとからだをそっくりかえして、『あっちえいけ』とか『こっちえいけ』とか命令する状態だったんだよ。
去年は、幼児たちがじつに職員にたよれるようになったもんね……。だっこするとからだをぺったんと預けてくる。だれかれかまわず『だっこして』と命令することはなくなった。
でも、職員と一対一の関係が取れるようになっているけれど、おともだちと自分との関係がまだ取れていない。
だから、待つことが出来なくて、職員を取りあっこしてしまう。
今年の目標は、みんな一緒にわらべうたあそびができるようになることだね。
去年もこの目標を掲げたんだけれど、とうとう実現することは出来なかった。
去年度で、幼児たちは、自分の心臓の鼓動と肉体から聴こえて来るわらべうた(ペンタトン音階の歌、レミソラシの音階)を歌えるようになった。だから、体が楽しいと感じられるようになり、職員に身を任せることが出来るようになった。
でも、おともだちの心臓の鼓動を聴いてそれに自分の鼓動を合わせることがまだ出来ていないんだ。
なわとび、まりつき、おてだま、がいま気になっていてね……、わたしの年代(50代)のちょっと下の人までは、路上で縄跳び、まりつき、けんだま、おにごっこを集団でやっていたものなんだけど、この幼児たちのお父さんお母さんはそのような習慣がなくなってしまってから生まれてきたもんでね……。
日本のよき伝統では、集団で、鼓動をあわせる遊びをやっていたんだ……。
ことしは、女子学童の低学年の子どもたちまで含めて、なわとび、まりつき、おてだまに取り組めないかな……と思ってね。」
6.
20日6時30分に幼児の部屋へ行く。
Eの体をマッサージし写真をとった。
緊張の残っている表情である。
Fをマッサージし写真を撮った。これも、緊張が残っている。
Iは、いつもの表情。
児童相談所からO養護施設へ、そして幼稚園への入園という自分を取り巻く環境の激変にマイペースにみえるIには、自分の体の緊張を意識しないところにおおきなコミュニケーション障害が隠されているように思えてならない。
7.
「今日は絵を描くの。」
「ごめんな、今回は絵を描く余裕がなかったんだよ。
5月に絵を描こう。」
「おれ、鯉を描きたい。
ここの池におおきな鯉がいるんだよ。」
「そうか、写真でとって、大きく引き伸ばせばそれを見て描けるな……。
写真に撮りに行こう。」
6MくんとO養護施設の池に行ったが水がにごっていてうまく写せなかった。
「ほいくえんの庭のこいならもっと大きいよ。」
保育園の池の鯉はうまく写真に写った。
5月には、この鯉を学童の子どもたちと一緒に描こう。
昼食をみんなと一緒に食べてから、O養護施設をあとにした。
さよなら あんころもち またきなこ ばいばい
2002年4月28日
千葉義行
音楽
バッハの弟子?
《J.P.ケルナーのコレクション》よりの6つの小前奏曲より BWV939ハ長調