O養護施設レポートへ戻る

レポート7  第7回目の訪問 10月18日19日


呼吸……愛すること

写真の上にカーソルをかざしますと、
ミディで音楽が流れます。

音楽

バッハ

平均率クラヴィア曲集U
Fuga X ニ長調

1.
18日10時30分にO養護施設についた。
AとHがいた。
テーブルの上はおかしがいっぱい。
「たくさんクッキーをいただいちゃって……」
「おいしそうだね、ちばせんせいももらっていいかな、
もぐもぐもぐ……ああおいしい。
いやあ、ほんとうにおいしいねえ。」
Hがわたしのそばまでくる。
「ああおいしい、ああおいしい。」
「おいしいねえ」(H)
「おや、ずいぶんはっきりとことばをしゃべるようになったねえ。」
「H、ずいぶん変わったと思いません?。」
「はじめてあった人にもすんなり抱っこされるようになったんじゃないの?」
「そうなんですよ。ひとみしりがすくなくなりました。」
「よかったね、Hは自分で周りの環境を動かそうとして、周りが動かないとおこって…ないて…、これまで大変だったんだよ。
おかあさん、おとうさんも、自分が愛情を注ごうと思っても、この子に拒否されているように思えたり、この子に命令されていることは、つらいことだからね……

おとうさんやおかあさんにもこの子と同じコミュニケーション障害があれば、親子でお互いに命令しあったり、思いを拒否しあったりしてしまうから、大変苦しい循環が起こってしまうね。
そのような循環の中で子どもへの虐待が起こるんだね。」

2.

昼食をとり歯磨きをした後、Aの添い寝をした。

ここはてっくびてのひら
ありゃりゃにこりゃりゃ
せいたかぼうずに いしゃぼうず
おさけわかしのかんたろうさん

おやゆびねむれ さしゆびも
なかゆび べにゆび こゆびみな

ねんねしな ねんねしな ねんねしな

わたしのゆびをにぎりしめながら、Aはすうっとねむってしまった。

幼児の職員室に戻ると、実習生が私のレポート6を読んでいた。
「フォルム治療ってなんですか?」
「整体のことさ。きみにもやってあげよう。」
胸椎を触り始めると、第5第6胸椎が深く傷ついていた。
「ここ、痛くない?」
「ええ、スポーツでいためてしまって……」
「危うく脊椎損傷になるところだった……」
「それで、整体にずいぶん通ったんです。」
「そうか、それじゃ、整体の効果は身を持って知っているわけだ。」

30分脊椎、腰、頭骨の治療をした後、ライアーでグリッサンドをしてもらいながら、肩、頚椎、肋骨、の治療をした。
さらに、ライアーでラの音を取り、本人にラの音を発声してもらいながら、第3腰椎、第3胸椎、第6頚椎を触る。
「この骨が振動していることがわかるかい?」
「振動がわかります。」
次に、ライアーでミの音を取り、本人にミの音を発声してもらいながら、第5腰椎、第8胸椎、第2頚椎、第3仙骨を触る。
「この骨が振動していることがわかるかい?」
「振動がわかります。」
「人間の脊椎の一つ一つの骨にはそれぞれ固有の音程が響いているんだよ。
頚椎の7個の骨には長音階、第4頚椎にドの音が響いているね。
胸椎の12個の骨には12音階、第12胸椎がドの音だ。
腰椎の5個の骨にはレミソラシのペンタトン音階、第5腰椎がレの音だ。
仙骨の6つの骨にはA#、C、D、E、F#、G#、の全音階、第6腰椎がA#の音だ。
ライアーは胸と腹の前で演奏するから、脊椎と腸骨によく振動が伝わるんだ。
ライアーの振動が脊椎骨と腸骨に響くと、その振動で脊椎骨と腸骨の歪みが治ってくる。」

実習生の彼女は脊椎の固有振動をすぐに感覚できた。すばらしい能力の持ち主であった。

3.
 幼稚園に行っていた子どもたちが帰ってきた。

着替えた後、そとの庭で遊び始めた。
Eが、
「おさんぽにいこう……」
とせがんた。
わたしは、EとそばにいたBだけをつれて、近くの公園に出かけた。
Eは公園で実に生き生きしていた。(前の写真)
何度もコンクリートの壁をよじのぼろうとし、成功したときの表情が引き締まっていた。
EにはLD(視床の微細障害)と行為障害とADHD(前頭葉の微細障害)があった。
これまでの職員の取り組みで、自傷行為や高所へのこだわりがほとんどみられなくなり、職員やボニンティアに甘え身を預けることができるようになったが、多動と意識障害からおこる知恵遅れがまだ残っている。

Eの戸外での運動を増やしてあげることで、彼の多動が解決してくるのではないかと感じた。

左は、Eの昨年9月20日の写真である。
同じ公園で撮った。
私はこのとき、初めてEの普通の子供らしい表情を見たのである。
わたしは、戸外で自由にのびのびと運動することが彼にとって、大脳の緊張を和らげる癒しとなっているのだと感じたのである。

4.
「千葉先生、きょうはおふろにはいる?」
H君(中一)に声をかけられた。
「ああ、いっしょに風呂に入ろう。」
彼は、実にうれしそうな顔をした。
夕食後、6M君(6年生)V(2年生)が幼児の部屋にいた。
6M君がはらばいになった。
「みんなうえにのって!!」
幼児たちは何回も6M君のうえに乗ってよろこんだ。
久しぶりで男子学童の子供たちと風呂に入った。
「ようじたちがねえ、
ぼくがうえにのってっていったらさあ、
みんなぼくのうえにのってきてね、」
6M君がじつにうれしそうに話していた。

中一のH君が、「千葉先生歌って……」という。

 

おもいきって、「クリスマスがやってくる」を湯船の中でうたっておどった。
中一のY君が、笑っている。

……ああ、おおきなこどもたちにも、わたしはうけいれられているのだ…… そう思うととめどなくうれしかった。

食堂で、V(2年生)と6M君(6年生)と3人で音楽をする。
Vが木のたいこをたたき、6Mくんがライアーを弾き、私がピアノを弾きながら歌った。

  なんだか きもちのいいあさ
  まどをあけたそのしゅんかん
  こころのスイッチ かちっとはいった
  ふしぎなかんじさ どうしたのかな
  とつぜん きがついたんだよ
  いつだってはじめられるんだ
  きょうだって いまだって
  そう たったいまがそのとき
  スタート ぼくのとけいが うごきはじめたよ

  スタート ぼくのちきゅうが まわりはじめたよ

新沢としひこと中川ひろたかのうたが食堂に響いた。
中川は私の友人である。

5.

19日朝、私ははじめて寝坊してしまった。

8時近くに幼児の部屋へ行く。
低学年の女子がキューピーをお風呂に入れて遊んでいた。
キューピーにシャワーをかける。
彼女たちのキューピーへの扱いを見て、私は背筋がきゅっと痛くなった。
『キューピーをものとして扱っている。彼女たちはキューピーに人格を見出せないのか……』
おどる人形を繰り返し動かしている子どもたちがいた。
電池を入れると、人形は、フラダンスをしながら回転をする。
それを、繰り返し、繰り返し、動かしている。
Hは、「こわい」といって逃げてきた。
「もう朝ごはんにいこう」
声をかけると、Aは、もくもくとキューピーにお洋服を着せていた。

6.

「おえかきしよう」
「そうだね、きょうは、カメさんを描こうか。」
6M君の管理しているカメを描かせてもらった。
「これは、りくガメだよ」

「あかいっぱい、きいろもいっぱい、あおもいっぱい、しろもいれて」
画用紙の真ん中に六角形を描く、
その六角形の上下に六角形を二つ描き、そのまた上下に五角形を二つ描く。(これで、たてに5つの六角形が並んだよ)
真ん中の3つの六角形の右側の3つの頂点から右に線を延ばし、その線の頂点と上下の5角形の右側の頂点を結んでいく。
真ん中の3つの六角形の左側の3つの頂点から左に線を延ばし、その線の頂点と上下の5角形の左側の頂点を結んでいく。
描いた亀甲模様の周囲を小さな四角で縁取りしていく。
「しわ、しわ、しわ」で首と手の皮膚を描く。

「いっぽん、にほん、さんぼん、よんほん、ごほん」で手足につめを描く。

H(2才)

まだ形を描くことを教えることができない。

意識障害と知恵遅れを表している。

A(3才)

しっかりした形である。

意識の安定を表している。

B(年少)

しっかりした形である。

環境に支えられている感覚を現している。

C(年少)

昨日彼がとってきたバラの花である。

力強い。

幼稚園のお友達の意識を表している。

C(年少)

力強い。

O養護施設の環境に支えられている彼の気持ちを表している。

D(年中)

力強く暖かい。

私への畏敬の感情を表している。

E(年中)

形の認識が起き始めている。

知恵遅れと意識障害のために、乱れた線が入っている。

F(年中)

力強くのびのびしている。

自分への自信が表れている。

M(年長)

うつくしい。

おはなは、Mのお友達への感情を表している。

M(年長)

優美である。

職員や私を見上げて頼っている意識を表している。

G(年長)

じつにすっきりして力強い。

形のバランスと秩序がとてもよい。

自分への自信を表している。

K(年長)

じつに力強い。

自分自身への自身と、私への敬愛の感情を表している。

I(年長)

力強い。

秩序感が進んできている。

職員やボランティアを見上げ、頼っている感情を表している。

P(1年生)

力強い。

この絵では知恵遅れの影がない。

私への畏敬を表している。

O(1年生)

力強い。

形の認識が進んできた。

O養護施設の生活に支えられている自分を表している。

U(2年生)

力強くどっしりしている。

この絵では知恵遅れの影がない。

私への尊敬と畏敬を表している。

V(2年生)

じつに力強く、構造がはっきりしている。

友達へのしっかりした感覚と感情が表れている。

6M(6年生)

構造がはっきりしていてどっしりしている。

自分への自信を表している。

7.

昼食のときにN(1年生)が私のところにやってきた。
ひとりで私に対するときのNはなんと素直で率直であることか……。

Nは、彼女を理解してくれる人といるときは、自分の鼓動を意識でき大変な能力を発揮できるのであるが、他者に合わせようとする努力が大きいために、他の子供たち他の思考が響くと、自分の本当の気持ちが分からなくなってしまうのである。
そして、自分の感情のわだかまりでごねてしまうのである。

幼児のお部屋にクレヨンで描いたMの新しい絵が張ってあった。
私は、この絵の力強さに目を見張った。
色も形もしっかりしている。
怪獣を描いたものであっても、それが『自分の心と肉体の中に棲むものであること』が肉体が意識できるようになったときには、目をそらさずに正面から描けるようになる。

この絵には、Mの体と心の成長が現れているのである。

三瀬さんから相談を受けた。

「来年の幼稚園ですが……、Aの負担を軽くしてあげるために年少から(一年遅れで)入れてあげようと思うのですが、どうでしょうか?
Aはプライドが高いから、みんなといっしょにしてあげたほうがいいのではないかという意見もあるのですが」
「……そうだねえ。
Aのために、無理せずに幼稚園生活を送れるようにしてあげることが一番いい判断だと思うよ……。
年少から入っても、Aが自分のプライドを傷つけられたとは思わないと思うね。
年少から入ったほうが、Aの成長が早いと思うよ。
むしろ、ご家族のプライドの方が納得できるかだろうね。
担当がAを一年遅れのクラスへ入れた理由をご家族に自信を持って説明できることだね。」
「Hも、年少に入れることを検討しているのですが……」
「Hは、幼稚園の方にあらかじめ相談しておいた方がいいよね。
3月までぎりぎり様子を見させてもらって、年少に入れるか、午前中だけの慣らし保育をさせてもらうか、選択をあとのばしにさせてもらうといいね。
Hを幼稚園に行かせない判断をしてしまうと、Aが幼稚園に行ってしまったあとは、H一人が残ることになるから、Hの言葉の発達が遅れてしまうね。
どんな子供でも、同じ年代の子供たちと一緒にいることにより感情と意識の発達が促されるんだ。

だから、障害児は、できるだけ保育園で他の子供たちといっしょに保育されることが望ましい。」

19日1時にO養護施設を出た。

さよなら あんころもち またきなこ

ばいばい

2002年10月27日

千葉 義行

ページ先頭へ戻る