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生命体における黒

 植物や動物を描くとき、赤と藍色と黄色を混ぜた黒を使うと、生き生きした表現になります。

 炭から造られたカーボン系の黒は、黒の色をきわだたせますが、そこに生命を感じられなくなるのです。

 人間のつくり出した、プラスチックや化学繊維や印刷物の黒を表現するには、カーボン系の黒を使う方がよいのですが、土や石や木工製品や陶器や自然繊維などを描くときには、赤と藍色と黄色を混ぜた黒を使う方が、生きた表現になります。
 なぜならば、土や石や木工製品や陶器や自然繊維や植物や動物や人間は生きているからです。

 

感触

 イカはヌメヌメとしています。

 海に済む生き物のヌメヌメを表現するには、絵の具をたっぷりつけ、中速度で筆を動かします。

 動物の毛のつやつやを描くには、絵の具を少なめにし、筆をサッサッと早く動かします。

 植物の葉や茎や根のじわじわ伸びる力強さを描くには、絵の具の量を中ぐらいにし、筆をゆっくりと動かすのです。

 

イカの胴を描くことと胸郭の形成

 イカの胴は、背骨を描いてから左右に丸く中心から外側に向かって描きます。

 これは、人間と動物と昆虫の胸を描くときの基本となります。

 また、人間の腕と足を描くときの基本にもなります。

 イカの胴を子ども達に描かせるとき、子どもの後ろで両手を子どもの描く方向に半円を描くように丸く押し出して横に振ります。
 すると、子どもの描くイカの胴がゆったりとしてきます。

 子ども達の描いたイカの絵を並べて比較して見ましょう。細く硬く描かれたイカの胴と、ゆったりしたイカの胴との差を感じることができるでしょう。
 それを、その子の日常に対する私達の観察と照らし合わせてみましょう、他者に心を預けることのできる子どもの描くイカの胴は比較的ゆったりとしており、自分自身で自分のことをしようとする子どもの描くイカの胴は細身で硬く描かれていることを観察できると思います。

 これは、こころの胸郭の発達と関係が深いのです。

 こころの胸郭が発達していれば、他者に身をゆだねることができるのですが、こころの胸郭が未発達であると、全部を自分だけでやらねばならぬと思い込み、他者に対して緊張してしまうのです。

 イカの胴を子どもたちに描かせることによって、また私達が子どもの後ろで両手を子どもの描く方向に半円を描くように丸く押し出して横に振ることによって、その子は、自分を先生や仲間の子ども達にゆだねる方向で一歩前進できるのです。

 

  イカのしっぽを描くことと包容力の形成

 しっぽを描き、特に後ろのおおきな足を絵の具をたっぷりとつけて描きますと、子どもの気持ちがおおらかになります。

 子ども達の描いたイカのしっぽを並べて比較して見ましょう。

 ささいなことにこだわらない大局感を持っている子どものイカのしっぽは、大きく張り出していて、自分に見えたと思い込んだ現実にこだわる子どものイカのしっぽは、細身で鋭いことを観察できると思います。

 自分に見えたと思うことに煩わなくなると、おおらかになるのです。
 その子がおおらかになると、他の子ども達が自由でのびのびしてきます。
 その子には、他者を育てる力がもともとあったからなのです。

 

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