---くにたちを愛した山口瞳展レポート---

<第三回>

一点一点をもっと時間をかけて見ていたかったが、
別室で式典を始めるとの案内があり、
やむなく移動せざるを得なかった。



式典は、この特別展の発起人代表である、
嵐山光三郎氏の挨拶から始まった。



嵐山氏は山口瞳氏の人と業績をエピソードを交えながら
ユーモラスに語り、挨拶というより、
山口瞳論を話されたように思う。
その後、郷土文化館長の坂井伸夫氏の
特別展開催の経緯報告があり、
山口治子夫人と正介氏が挨拶にマイクの前に立たれた。
正介氏が、本来なら母がお礼を言うべきなのですが、
代わって自分が話すが、
何を話すかは全て母の指示によるものですと、
笑いを誘いながらお礼の言葉を述べた。
この中で正介氏は、突然、この席にも
北海道から出席されている中野さんが父の書誌と
評伝をまとめて本にしてくれました、と私の
「変奇館の主人 山口瞳評伝・書誌」の紹介をしてくれた。
私はビックリし、うろたえ、
赤面して顔を上げることができなくなった。
評伝はよく調べていて、ぼくの知らなかったことが
次から次と現れて、とまで誉めていただいたのだから、
なおさらである。
羞恥と喜びで汗がドッと噴きでてきて、
ハンカチで何度も顔を拭った。



式典が終わり、パーティとなったが、
パーティ会場へ入る前に中庭へ出て煙草を吸った。
館内は全面禁煙で、中庭に灰皿が置いてあった。
私と同様ニコチン中毒者が数人おられて
煙草を吸っていた。
そのなかに、常盤新平氏がおられた。
私はドギマギしながら挨拶をした。
氏の近作「天命を待ちながら」「ニューヨーカーの時代」を
読み終わったばかりなので、そのことを話すと、
「テレちゃうな」とおっしゃり、
名刺を渡してくれた。
名前だけの、他にはなにも記されていない
シンプルな名刺である。
裏に住所が記されている。
作家の名刺を頂戴したのは初めてであり、
肩書きのない、
名前だけで勝負している人間の名刺だな、と思った。



私は常盤新平氏に、山口瞳氏について書かれた
文章を集めて一冊の本にして欲しい、と
今考えると失礼なお願いをした。氏は、
イヤァ、短い文章ばかりだから、とおっしゃるので、
でも文庫の解説、山口瞳大全の解説など
充分量はありますよ、と性急に畳みかけたが、
パーティが始まるとの声がして
話は中断してしまった。


                

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