「人面樹とハーフエルフ」

 

 赤い夕日の余韻が、果てしなく続く草原を優しく包み込んでいる。
風がさわさわと流れ、草木がその葉々で穏やかな歌を奏でる。
それらに合わせるかのように、バットムやモールベアなどの魔物が哀れな獲物を求め動き出す。
 今、モールベアの高原は太陽の光から解放され、美しく危険な夜の世界の訪れを待っていた。
そして、昼間空から降って来た三人の珍客を、おかしな事件でもてなそうとしていたのである。

「静かだね…」
備え付けられたテントの中から、ケヴィンが珍しそうに外を眺めていた。
近くには大きな木が一本生え、少し離れたところでは大きめの池が澄んだ水を湛えている。
「この近くには魔物どもの棲み家はねぇからな。いってみれば、安全地帯なんだ」
デュランが寝袋を出しながらケヴィンに答えた。
「さすがデュランしゃん! よくしってるでちね!!」
「地元民だしな。 ……だが…おいしい話にゃ必ずウラってのがあるんだよなぁ……」
怪談風にいいながら、デュランはシャルロットを振りかえった。
その表情も、今から怖い話を始めますと言っているようだった。
「な、なななんなんでちデュランしゃん、そ、そのウラっちゅーのは……」
そんなデュランの顔を見て、シャルロットがぶるぶるぎゅうっと縮み上がってしまった。
「二人とも、今…このテントの傍に、何があるか知ってるか…?」
「えっ? …大きな木と、池じゃないの???」
ケヴィンの不思議そうな声に、デュランは大きくうなずいた。
「…たったそれだけじゃないでちか。なにがウラなんでちか?」
シャルロットが言うなら早く言えとばかりにデュランをせかす。
どうやらかなり『ウラ』とやらが怖いらしい。
「だが、実はその大きな木ってのがクセモノなのさ……」
不意にデュランが立ちあがり、テントの外へと歩き出した。
「ま、まってよデュラン!!!」「ま、まつでちデュランしゃん!!!」
取り残されるのが怖かったのか、ケヴィンとシャルロットも慌ててその後を追う。
 デュランは大木の下に立っていた。
「この木はちらっと見ただけじゃただの木にしか見えない。でも…」
「でも?」
「二人とも、良く見てみろよ。ほら、幹のこの辺り。何かヘンな感じがしねぇか?」
デュランが手で示した辺りを、じぃっと目を凝らして見つめるケヴィンとシャルロット。
「ヘンな感じ…? オイラには普通の木にしか見えないよ?」
「あたちにもでち。どこがヘンなんでちか???」
仲良く首を傾げる二人に、デュランは怪しく笑いかけた。
「ちょっと暗いから良くわからねぇけど、この辺りが目で、ここが鼻、その下が口。
 この木は人面樹…いわゆる『トレント』ってやつなんだ」

「と、とれんと???」
シャルロットが言葉の意味もわからずに訊ね返す。
「この『トレント』はな、夜な夜な大地からその根っこを引っこ抜き、獲物を求めて
 闇の中を彷徨い歩くんだ。大好物は…若い女の子の生き血と生肉と悲鳴らしい。
 シャルロット、お前見るからにうまそうだからな。とって食われねぇように気を付けろよ」
意地悪く言うと、デュランは意地悪そうに笑い出した。
「そ、そそそそそそそんな、シャルロットとれんとにたべられちゃうんでちか!!??」
完全なパニック状態に陥ってしまったシャルロットの肩に、がさりと木の枝のようなものが触れた。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
「あははははははははは!!!」
「ぁぁぁぁぁぁ……………………はりゃ???」
少し落ちつきを取り戻したシャルロットが自分の頭上を見上げると、
小さな枝を持ったケヴィンが面白そうに、少し申し訳なさそうに笑っていた。
「ケヴィンしゃん!!!!!!」
「はは、ごめんよシャルロット! なんか面白そうだったから、つい…」
とりあえず謝っているらしいケヴィンからシャルロットは視線を外し、それをデュランに合わせた。
「…このはなし、ホントなんでちょうね???」
「ウソだよ」
「はぁ??????????????????????????????????」
やっぱりデュランは意地悪そうに笑ったままだ。
「いつもお前にからかわれてばっかだったからな、ちょっと仕返しただけだ。
 気ぃ悪くすんなよ、シャルロット!!」
しかし、シャルロットの顔はみるみる泣き崩れていく。
「ひ…ひどいでち……みんなそろって、このじゅんじょーなシャルロットをいぢめるなんて…
 …………うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!!!!!!!!!!」
顔を手で覆い隠し、シャルロットは叫びながらどこかへ飛び出していってしまった。
「シャルロット!! オイラが悪かった、だから待って!!!!!」
ケヴィンが慌ててシャルロットを追って走り出す。
「お、おい待てよ二人とも! もう夜になっちまうぜ!!」
しかし、デュランの言葉に従ったものはいなかった。
「…ったく、トレントに食われちまっても知らねぇぞ」
 さっき自分でウソだと言っておきながらデュランがそう呟いたのは、
この『トレント』の話は、決してデュランの作り話ではなかったからだった。
 
 世界には、沢山の歴史と共に伝説・神話・民話といった話も息づいている。
デュランの生まれ故郷フォルセナもその例外ではなく、いくつもの話を語り継いできている。
『トレント』の話は、デュランがまだ幼い頃、母シモーヌが寝物語として彼に語ったものだった。
 彼自身、トレントが本当にいるのかなんて分からない。もしかしたらこの高原のどこかに
今も生きているのかもしれないし、もしかしたら単なるおとぎばなしなのかもしれなかった。
 デュランはしばらくのあいだ仲間達の去った方を凝視していたが、
やがて、くだらないとでもいいたげに肩をすくめ、ゆっくりとテントへ戻っていった。 

 

 闇へと移りゆく空の下を、シャルロットはただただ走っていた。
先ほどデュランにからかわれた事がよほどのショックだったのか、
それともただ走り出した勢いが止まらないのか、それは誰にも…おそらく本人にも…分からないだろう。
「はぁっはぁっはぁ…」
ようやく暴走を止めたシャルロットは、草の上にどかっと腰を下ろした。
「……まいごになっちゃった……」
今にもびえぇぇと泣き出しそうな声でそう呟くと、シャルロットは草の上に寝転がり、空を見上げた。
 黒く深い天には、白金のような月の灯明と、宝石のような星々の煌き。
「どうしよう、もうよるでち…もどらないとデュランしゃんやケヴィンしゃんにおこられる…
 でも、どうやってもどればいいんでちか……ヒース…おじいちゃん…ぱぱ…まま……」
シャルロットの大きな瞳から涙がじわぁっと滲み出てきた。
 そんなとき。
「お困りのようだね、ハーフエルフのお嬢ちゃん」
「!?」
反射的に飛び起きたシャルロットは辺りをぐるぐる見まわした。しかし、誰か人のいる気配はない。
「だれでちか、いまシャルロットをよんだのは…どこにいるんでちか!?」
「お嬢ちゃん、あなたの後ろだ」
「…?」
言葉の言う通り、後ろを向いてみる。しかし、そこには大きな木が一本立っているだけで
やはり人間らしき姿は見あたらない。
「かくれてシャルロットをおどかしてるんでちか!? いいかげんにでてくるでち!!」
すると、その木が風もないのにがさがさと枝を揺らした。
「私ははじめからここにいるよ。お嬢ちゃんが生まれる何百年も前からね…」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんとシャルロットの目の前で、木が緑色に光る目を開き、うろのような口を動かし始めたのだ。
「…ま、まままさか…………」
シャルロットの脳裏を、さっきのデュランの言葉が稲光のように駆け巡った。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
モールベアの高原全域に響き渡りそうな大声を上げ、シャルロットはその場から逃げ出そうとした。
しかし、トレントの縄のような枝に体を縛られてしまい、敢え無く大樹の元まで引き戻される。
「落ちついて。お嬢ちゃんに危害は加えない」
「シャ、シャルロットなんかくってもおいしくないでちぃ〜〜〜〜!!!」
「しっ! 静かにしないと見つかってしまうよ!!」
枝がシャルロットの口元へ伸び、猿轡のように彼女の口を塞いだ。
「〜〜〜〜〜〜(はなすでち〜)!!!!!」
戒めから逃れようと手足をばたばたさせ、ひたすらあがくシャルロットに
トレントは声を潜めて語りかけた。
「さっきの君の叫び声を聞いて、モンスターどもがこの辺へ集まり始めてる。
 静かにしないと、見つかって食われてしまうよ!」
「〜〜〜〜〜〜〜(あんたしゃんがあたちをくうつもりなんでちょー)!!!!!」
「!!!」
トレントの緑の瞳が、不意にシャルロットを見つめるのをやめた。
そして、新たにそれが向けられた先には、こちらへ走ってくる一匹の獣人の姿が。
「シャルロットをはなせぇ!!!」
獣人はそう叫ぶや否や、トレントへ襲いかかっていった。
「〜〜〜〜(ケヴィンしゃん)!!!!」
シャルロットの表情が明るく輝いた。
「待つんだ、獣人。この子に危害は加えていない!」
「なら、今すぐシャルロットを離すんだ!!」
ケヴィンの言葉にトレントは従った。
「うわぁん!! こわかったでちーーー!!!!」
解放されるや否や、シャルロットはケヴィンに抱きついた。
ごわっとした感触がシャルロットの肌に伝わっていく。
「うひゃあ! きもちわるいでちぃ〜!!」
「ご、ごめんねシャルロット!!」
即座に変身を解くケヴィン。
「…獣人が人間と行動を共にしているとは、珍しいな」
そんな二人の様子を見ながらトレントが呟いた。
「……オマエ、デュランの言ってた、トレントってヤツか?」
ケヴィンが目の前の人面樹を見上げた。
シャルロットに抱きつかれているせいか、少しだけ顔が赤くなっている。
「人間は私の事をそう呼ぶ。顔と意思を持ち、人語を操る怪樹とな」
トレントが静かな口調でケヴィンに答える。その様子は、デュランの言っていたような
若い女の子の生き血と生肉と悲鳴が大好物という恐ろしい怪物とは思えない。
「…………」
シャルロットが怯えきった様子でトレントを見つめる。もちろん、体はケヴィンにしがみついたままだ。
「大丈夫だよシャルロット。このトレント、きっといいトレントだ。
 さっき、シャルロットを掴まえてたの、なにかワケがあるんだと思う」
シャルロットを安心させようとしたのか、本当にそう思ったのかは分からないが、
そう答えたケヴィンの声も表情も穏やかで優しくなっていた。
「言い伝えは必ず正しいとは限らない。おそらく君たちが聞いた私についての話は
 私が夜な夜な獲物を求めて歩き回り、お嬢ちゃんのような若い女の子をとって食らう
 といったものではないか? フォルセナに伝わる歪んだ伝説の一つだな」
「!!」
トレントの言葉を聞き、シャルロットの顔が赤くなった。怒りと恥によるものだった。
「シャルロットにまちがったことおしえるなんて…デュランしゃん…かえったらおしおきでち!!」
「ま、まぁいいじゃないか。少なくともシャルロットがトレントに食べられちゃうことはないって
 わかったんだからさ…。それに、デュランだってトレントのこと多分それしか知らなかったんだよ」
そんなシャルロットたちのやり取りを見て、トレントは何かを決心したようだ。
「…一つ、君たちに頼みたい事があるんだが、聞いてもらえるかな?」
「わかったでち、このシャルロットにどーんとまかせるでち!!」
自分が食われる事は無いと知って、シャルロットはいつもの元気と調子を取り戻していた。
「ありがとう。実はここから少し北に行ったところに、もう一人トレントがいるんだが
 マナの減少の影響を受けたせいか、ここ数年一度も目覚めていない。
 すまないが、そのトレントを起こしてきてくれないか? マナを少し注げば起きる筈だ」
「うん、わかった。オイラたちにまかせて!!」
「さっきのお嬢ちゃんの叫び声を聞いて、モンスターどもがこの辺りに集まっている。気を付けて。
 もっとも、私がさっき一番警戒したモンスターは、ぼっちゃんだったんだが」
気のせいか、木が頬を赤めたように見えた。

 トレントの言葉に従って、高原の北へ向かったシャルロットとケヴィン。
しばらく歩くと、トレントと同じ位の大きさの大樹が二人の目に飛びこんできた。
それと同時に、その木の根元に建てられた見覚えのある小さなテントも。
「あのテント…オイラたちのじゃ…?」
「そうでち! すぐそばにとれんとがいたなんてしったら、
 デュランしゃんどんなかおするんでちょうかね?」
シャルロットがキシシシと意地悪く笑う。
「…ところで、マナを注ぐって、どうやるの?」
ケヴィンが眠りについたままのトレントにそっと触れながら呟いた。
「だ、だいじょうぶでち! シャルロットにふかのーはないでち!!」
ちょっと声を震わせながら笑い、何故かフレイルを手に取るシャルロットを、
ケヴィンはただ不安そうに見つめる事しか出来なかった。
「うりゃああぁぁーーーーーおきるでちぃいいいいいーーーーーー!!!!
 チニホノナテラコルクミニシチトラナノチシラナノチミチンチモニモチノナカカイモチトナ!!!!!」
  ぼかっ!!
  どがっ!!
  ばきっ!!
なにやら意味不明の言葉を叫びながら、シャルロットはフレイルでトレントをぼかすか叩き始めた。
幹が大きく揺さぶられ、ばさばさと木の葉が雨のように落ちてくる。
「だ、だいじょうぶなのシャルロット!?!?!?」
「ンラトニトナノイカカイシラミミミチキチニノイミミミチミミシチスラナルノニミニミチスナンラル
 ニカナノチチニホノナクチノチスイミニノチカイスナミラノチミチ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ケヴィンの問いを無視し、シャルロットは怪しげな儀式をやり続けた。
そのとき、
  ばきゃあっ!!!!
シャルロットのフレイルがトレントの枝をへし折った。
へし折られた枝はケヴィンたちの頭上を越えて飛んでいき、テントにぶつかったようだ。
「な、なんだ今の衝撃は!! 魔物か!?」
安眠をジャマされたらしいデュランが、剣を抜きながらテントを飛び出した時だった。
  ごごごごごごごごごごごご……
突然地面が震え出し、今までシャルロットになされるがままだったトレントが
ゆっくりと目を開き、根っこを大地から引っこ抜いて歩き始めたのである。
「…………」
顔から血の気がさぁーっと引いたかと思った瞬間、デュランは口から泡をぶくぶく噴き出させながら
仰向けにどさっと倒れてしまった。
「やった、トレントが目覚めた!!」
デュランの様子に気付いていないケヴィンが、まだ儀式を行っているシャルロットに叫んだ。
「イスナソクチミミモラニノチスイソクチカカチトニネシラナトニンラナノチミチ!!!!!」
しかし、どうやら儀式に夢中らしく、シャルロットは意味不明の呪文を唱えつづけた。
「ふわぁ………ありがとう、ハーフエルフのお嬢ちゃん。おかげで目が覚めたよ」
辺りを少し歩き回った後、トレントがシャルロットに向かって微笑んだ。
「カラミニノチノナネチニホノナキチミチトチノイミチトチトナキニスナミミマチホ!!!!!!」
しかし、やっぱりシャルロットは儀式をやめようとはしない。
さっきまでトレントを殴りつけていたフレイルは、今は何も無い空間をめちゃくちゃに舞っていた。
「ミチニカラコナスイホシラチニトニカイスナ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ひときわ声を大きく張り上げたあと、シャルロットはフレイルを大きく振り回し、
さっきまでトレントのいた空間に思いきり殴りつけた。
  すかっ……
「はりゃ???」
「…………あのぉ…お嬢ちゃん……」
「ほえ?」
ようやく正気に戻ったらしく、シャルロットはやっとトレントの方を向いた。
「…………あ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……」
恥ずかしいところをお見せしました、とその笑い声は語っていた。

 うっすらと東の空が赤みを帯びてきた頃。
眠れるトレントはハーフエルフの少女によって覚醒し、
無事もう一本のトレントとの再会(?)を果たす事が出来た。
「本当にありがとう、ハーフエルフのお嬢ちゃん」
二本のトレントがそろってシャルロットにお辞儀をする。
「いえいえいえ、どういたしましてでち」
こんなの朝飯前だといいたげに笑うシャルロット。さっきの儀式からは想像できない笑顔だ。
「しかし、さっきの呪文と呼びかけは見事なものだった。
 子供とはいえ、さすが森の妖精エルフの血を引いてるだけあるな」
「も、もちろんでち! シャルロットのじしょにふかのーはないんでちからね!!」
やっぱり声は震えていた。どうやら先ほどの儀式はただめちゃくちゃにやっていただけらしい。
「さて、そろそろ行こうか」「そうだな」
お互いに枝を絡ませ、トレントは朝日の方へ歩いていこうとした。
「待って、どこいくの?」
ケヴィンが二本を引きとめる。
「フォルセナの伝説のせいで、私たちは凶悪な魔物だと人々に思われてしまっている。
 モンスターも多くなってしまったし、ここを離れ、新天地を探すんだ」
「……そうか…きっと見つかるよ、頑張って」
少し不慣れな笑顔を浮かべるケヴィンに、トレントは小さくささやいた。
「キミも頑張るんだよ。人間と獣人の掛け橋となるべき少年よ」
「……?」
言葉の意味がわからず、クエスチョンマークを頭上に浮かべるケヴィン。
「それじゃ、達者でな!!」
「ばいばい、きをつけるでちよ〜!!!!!!」
柔らかい光が辺りを白く覆い始めた中、二本のトレントは夜の余韻と共に消えていった。
「…いっちゃったでちね…とれんと」
「そうだね…」
しばらくの間、ケヴィンもシャルロットもその場を動く事が出来なかった。
たった一晩の出来事だったのに、
何故か何日もトレントたちと一緒にいたような気がしてならなかったのだ。
 二人がやっと歩き始めたのは、闇が完全に消え、空が薄い青に染まりきってからだった。

「それにしても、やっぱりシャルロットはてんさいでちね!」
テントへの帰路の途中、そんな事をシャルロットがケヴィンに訊いた。
「なんで?」
「ただめちゃくちゃにやっただけで、ねぼすけとれんとをおこせたんでちから!
 シャルロットちゃんにできないことはないんでち!! こりはもうまなのつるぎをてにいれて
 ヒースをへんてこおやじからとりかえしたもどーぜんでち!!!」
そんなに上手くいくのかな、と心の中で呟きながらも、
ケヴィンはシャルロットの、朝日にも負けない明るい笑顔を見つめていた。
「ただいまでち〜!!」
シャルロットが元気よくテントの中に入る。昨夜の心配事など綺麗に忘れ去っているらしい。
「シャルロット! ケヴィン!! お前ら無事だったか!!!」
完全武装のデュランがシャルロットに飛びついた。
「デュラン? どうしたの、そんな顔して。何かあったの??」
きょとんと立ちすくむ二人に、デュランは緊迫した顔と声で恐ろしげに語り始めた。
「昨夜、トレントがこのテントを襲ってきやがったんだ!
 あれは言い伝えなんかじゃない、本当の事だったんだ。 
 俺は確かに見たんだ。トレントが根っこを地面から引っこ抜いて歩き出すのをよ!!」
「…………」
ケヴィンとシャルロットはほぼ同時に顔を見合わせ、ほぼ同時にぷっと吹き出した。
「?」
お腹を抱えて笑い転げる二人を前に、
デュランはクエスチョンマークを頭の上に浮かべる事しか出来なかった。

 朝の優しい光が、二本の歩く大樹をやはり優しく包んでいた。
そして、それと同じく優しい風が、どこからか可笑しげな笑い声を二本の元に運んできた。
二本はお互いに顔を見合わせたあと、後ろを振り返り優しげに微笑んだ。
そして、再び前を向くとゆっくりと歩き出した。
笑い声もやがて小さくなり、地平線の彼方へ消えて行った。

 バットムが深き眠りにつき、ギャルビーやアサシンバグが代わりに動き出す。
 モールベアの高原の一日は始まったばかりだ。

                              FIN.

 


  説明。

  この小説は 主人公・聖剣の勇者:シャルロット(クレリック)
        二人目:ケヴィン(グラップラー)
        三人目:デュラン(ファイター)  という設定です。

 
  『トレント』とは。

  モールベアの高原にある、顔のある木のことです。
 なにかありそうでなんにもなかったので、すごく気になっていました。
 今回、この小説で私なりの謎解きをしたつもりですが…。
 (いや、もしかしたらなにかあるのかな? 私が知らないだけで。
  誰か知っていたら教えて下さい…)
 ちなみにレジェンドオブマナのトレントをちょっとだけ意識していたりします。
  果実収穫するの楽しいよね☆

  
  ちなみに、シャルロットが唱えたヘンな呪文に意味はありません。 

ホームに戻るの? 小説コーナーに戻るの?