「希望を教えてくれた君へ」
僕は、自分の望む世界を創ることにした。
かつてと同じように、ただ流されるだけで、それなりの幸せを得られる世界を。
先生は、それを「自分勝手に、怠惰になっているだけ」と言った。
けれど、僕はこのボルテクス界で、それがどんなに尊いことかを知った。
当たり前すぎて、そのありがたさがわからなくなっていただけなんだ。
もちろん、そんな僕の行為をカグツチは咎めたけど
僕は心の奥で燻っていた憎しみを、ここぞとばかり力に変えてぶつけてやった。
――オマエはまた、新たな苦しみの国を生み出すのだ……
カグツチが遺した嘆きの言葉。
確かに、あの世界で幸せに過ごせた僕は本当に幸せ者で
先生や氷川のように、あの世界に絶望していた人は多かったのかもしれない。
けれど、だからといって、全てを壊してしまうようなやり方が許せるはずもないから。
「君とは、もう逢えなくなっちゃうのかな」
ボルテクス界が次なる世界へと生まれ変わる刹那、僕は愛しい女王と別れを惜しむ。
「いいえ、アタシたちは元々アナタが暮らしていた世界にもいたのよ。
ただ、ニンゲンたちがアタシたちの存在を忘れてしまっただけで。
アナタが憶えていれば……また、逢えるわ」
「ありがとう、メイブ……僕、君のこと絶対に忘れない。
絶対に、君のコト捜して逢いに行くから……」
「絶対に逢いに来て!
忘れたら……絶対に、承知しないんだから!!」
辺りが眩い光に包まれる。
繋いだ彼女の手の感触がだんだんと薄れていく。
……全ては、再生される。僕の望んだままに。
僕は以前と同じように、勇に利用され、千晶に振り回される日々を送り始めた。
しかし、以前と全く同じわけじゃない。全く決まらなかった進路を、僕は見出したから。
「○○学院大学文学部英文学科? 今のあなたの成績だと少し厳しいわよ」
「大丈夫です。どんなに不利な状況でも絶対に巻き返せるって、僕には自信がありますから」
「そうね。あなたは本当にたくましくなったものね」
祐子先生は幸せそうに笑ってくれた。
「で、何でいきなり○○学院なんかに行きたいって言い出したんだ?」
「好きなコが出来たんだけど、そのコイギリスに住んでてさ」
「ぶっ!」
まさか僕が「好きなコがいる」なんて言い出すとは思わなかったのだろう。勇のリアクションは傑作だった。
「○○学院は、イギリスの大学と留学生の交換とかが活発なんだ。だから、英語勉強して留学して、そのコに逢いに行くんだ!」
「なんちゅー短絡的な理由なんだ」
「いーじゃん。理由が何であれ、やりたいことがあるってのはいいことだよ」
「まぁ……そりゃあ、なぁ……そうか、最近妙にオマエの活きがいいと思ったら、そんな事情があったのか」
えへへ、と僕は笑う。そして同時に、嘘ついてごめんなさいと心の中で謝罪する。
確かに、僕には好きなコがいて、そのコがイギリスに住んでいるということは嘘ではない。
ただ……そのコは、人間ではないだけの話。
今も鮮明に思い出せる。小さな身体で、しかし頼もしく僕を助けてくれた愛らしい妖精の姿。
成長して凛々しくなった姿も、さらに力をつけた夜魔の女王の姿も。
人間に戻った僕には、もはや君を呼び出す力はない。
けれど、必ず逢いに行くから。
希望を教えてくれた君に。
FIN.
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