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-初めての化石採集 -



画像:貝類を含むノジュール


採集地:石川県金沢市山科
採集日:1973年8月15日
採集化石:貝類
時代:第四紀更新世前期


  「原色化石図鑑」に金沢市で見つかったキララガイの化石が載っていた。金沢市は父の実家があるところだ。それなら、お盆に帰省する際に採集に行こうということになった。
昭和48年8月15日。この日が私の記念すべきはじめての化石採集行となった。

 場所は金沢市の郊外の山科という場所だった。この辺りは第四紀更新世前期(約170万年〜80万年前)の大桑(おんま)層という地層が分布している。主に砂岩層から豊富に化石が産出しているのだが、当時はそんな知識もなく地名だけで来ているのだから産地が分からない。ちょうど通りかかった人に聞いてみると「息子が知っているので案内させる」と言ってくれた。しばらくすると僕よりずっと年長の少年が出てきて、自転車で案内してくれた。その後を車でついていくと小高い丘の上についた。住宅地の造成した後に出来た露頭が産地だった。

 ここの砂岩の中に貝類の化石が沢山出るという。早速露頭に取り付いて捜してみた。砂岩と言ってもボロボロの砂のような感じで、その中に点々と白いものが入っている。ドライバーで掘ってみるとそれは貝の化石だった。しかし、化石も脆くなっており、ほとんどが途中で壊れてしまう。どれもそんな感じで完全に掘り出せたものはわずかだったように思う。それでも、キリガイダマシやキララガイなど多くの貝化石を採集できた。

 ここでの採集の後、案内してくれた少年が「採ってはいけない化石」といっていた場所へ行ってみた。ここは「大桑のおう穴と化石産地」として天然記念物の指定がされている。静かに流れる犀川の清流に添って散策路があり、おう穴や化石の露頭が見学できるようになっている。僕が無数の貝化石の露出する地層を眺めてため息をついていると、父がロープをまたいで、川の中へ入っていった。しばらくすると、一抱えの石を持って帰ってきた。貝化石の入ったノジュールだ。私は「取ってはいけない」と言われていたのに持ち帰ろうとする父親を詰ったが、「落ちていたもの一つくらい良いだろう」と強引に車に積み込んでしまった。

 実直な少年だった私はしばらく罪悪感にとらわれていた。ところが、最初に採集した場所の化石は今私の手元に残っていない。皮肉なことに、この後ろめたい思いで持ち帰ったノジュールだけが、私の化石標本第1号として今でも私の手元に残っている。


※リンクしてある標本は後に採集した標本で、採集日・産地は異なります。



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