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-巨大ウミユリと置き去りにした化石 -




画像: 金生山遠景
撮影:1975年12月3日

採集地:岐阜県大垣市赤坂町金生山
採集日:1973年〜1978年
採集化石:貝類、ウミユリ、サンゴ、フズリナ、腕足類
時代:ペルム紀


   金沢市山科での採集の次に出かけたのは、大垣市赤坂町にある有名な化石産地、金生山だったと思う。金生山は当時住んでいた岐阜市から最も近い産地(車で30分くらい)だったので、一番良く通った産地だった。最初に採集したのは、ふもとに近い採石場で、黒っぽい石灰岩(黒帯)の転石の中に材化石が含まれていたのを持って帰ったのを憶えている。しかし、この化石は今は手元に残っていない。今思うと貴重なものだったのに、当時はそれ程価値があるものと思っていなかったみたいだ

 その後、もう少し山の上にある霞帯にウミユリの化石が沢山採集できることが分かり、ここに一番良く通った。ここのウミユリは大きいことで有名だ。普通は直径1p位までなのだが、私の記憶ではここのウミユリは直径10Cm近いものもあったように思う。ただし方解石に置換されているので、個体で分離するのは難しい。私の持っているものに10Cm位の長さのものを何とか母岩から分離した標本があるが、やはりクリーニングの途中で何度も割れてしまったので、接着剤でつなげなければならなかった。
 
 この標本を見つけたのは私の父で、石灰岩の大きな固まりに露出しているのを無理な姿勢で取り出そうとしたので、岩と岩の間に指を挟んでしまった。父が飛び上がって痛がったのを良く憶えている。ここのウミユリは今ではなかなか採集出来なくなったと聞いているので、この標本は私のお気に入りの一つとなっている。霞帯ではウミユリ以外にパラフズリナ、四射サンゴ、大きな腕足類エンテレテス、小型のベレロフォンオキナエビスの一種などが採集できた。

 何年かして、この霞帯より上の黒帯の採石場から大型の貝類が出ると聞き何回か行ってみた。最初は石の見方(化石の見分け方)が分からず、全く収穫はなかったが、何度か通ううちにベレロフォンアルーラといった貝類の化石をいくつか採集出来たが、数は沢山出なかった。

 黒帯では、今でも残念に思っていることがある。それは黒帯の産地に通うようになって間もないころだと思う。夕刻近くなって、父が石灰岩の露頭の上の方に何か見つけた。よじ登って見てみると風化面に30Cmくらいの長細い筋の入った棒のようなものがある。「何だろう?」という父の問いに私はすぐに答えられなかった。しばらく考えて、「植物の茎かな?多分流木だよ」と答えた。父は「何だ流木か!」と興味がないようにその場を離れた。でも、よく観察してみると、潰れてはいるが断面はドーナッツのように穴が空いており、植物とは違うように思えた。それでも、その時は化石の正体は分からなかった。「古生代の植物は珍しいから持って帰ろうよ。」と父にせがんだが、すでに辺りは暗くなってきているし露頭から切り出すのは難しいと思われたので、父の「帰るぞ。」の一声で簡単に諦めてしまった。

 帰りの車中で、先ほどの化石がどうしても気になり「原色化石図鑑」を広げてみると、金生山の項にツノガイの写真が載っていた。それを見て私は「デンタリュウム(ツノガイの一種)だ!!」と声を上げてしまった。先ほど見たのは圧力で潰れていたので、図鑑に載っているような円筒形をしていないが、特徴はまぎれもなく大型のツノガイである。しかし、気がついた頃はトップリに日が暮れて、家の近くまで帰ってきてしまっていた。おそらく、翌日には採石が始まり、あの場所は崩されてしまっただろう。当然、あんなに大きなツノガイの化石はその後採集できなかった。私はこの教訓を生かして、今は現地で分からない化石でも持ち帰るようにしている


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