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- サメの歯を求めて-




画像: 岩村の産地付近にて
撮影:1978年2月19日

採集地:岐阜県恵那郡岩村町
採集日:1978年2月19日、4月2日
採集化石:貝類、マツカサ
時代:中新世

 中学に進むと、なぜか新生代の化石産地ばかり行っていたようだ。たぶん、長く住んでいた岐阜市から愛知県に転居したことで、いくぶん古生代の産地が遠くなったからだと思う。そうしたことから、新生代の主だった化石は採集できていたのだが、どうしても見つけられないものがあった。それは、サメの歯の化石だった。あの鋭い歯と美しい光沢に私は惹かれていた。化石自体は購入したりして持っていたのだが、やはり自分の手で採集したかった。だからどこか良いサメの歯の化石産地はないかと常日頃思っていた。

 ある時、岐阜県の岩村町というところにサメの歯の化石が産出したという記事が書かれた資料を手に入れた。その内容を読む限り多産する感じではしなかったが、岩村町には行った事がなかったし、出たという実績がある以上絶対見つからないとも限らない。準備を整え現地へ向かった。
 資料によると岩村町は久保原砂岩層という瑞浪層群に含まれる地層が分布していて、中新世の化石が産出しているようだ。サメの歯の産出したポイントはいくつかあるようだが、私はまず比較的たくさん産出しているポイントに向かった。

 2月の寒い時期だった。軍手を忘れた事に気づいて、産地の近くの雑貨屋で購入して外に出ると、田んぼで寒天干しをしている光景が見られた。この辺りは寒天の産地なのだ。
 購入した軍手を2重にはめて(そうしないと手先が冷たくてしかたがなかった)露頭に向かう。そこは、砂岩層で所々ノジュールが浮き出ていた。私は落ちているノジュールを見つけ、さっそく割ってみた。保存の良い貝類化石が出てきた。砂岩の方も割ってみると、マツカサの化石が出てきた。貝類化石も含まれているが全て印象になっていた。私はサメの歯はノジュールから産出したのだろうと結論づけた。

 ノジュールを丹念に割っていった。しかし、出てくるのは貝化石ばかりで、おまけに寒さで思うようにハンマーが振れない。この産地はずっと日陰だったので、日当たりの良さそうな産地へ移動することにした。
 その産地は切り通しで、先ほどと違い泥岩層だった。道路沿いにある露頭を崩すわけにはいかないので、わずかに落ちている転石を割ってみるとソデガイの仲間が出てきた。しばらくここで粘ったが、大した成果も上がらず、結局先ほどの産地へ戻ることにした。

 また、ノジュール割りを始めたが、目指すサメの歯は一向に見つからない。やはり、産出はかなり稀なようだ。結局、この日は貝類化石のみで引き上げることになった。
 4月になって、もう一度岩村町へ採集に出かけた。砂岩層のノジュールに的を絞って徹底的に探したが、結局この時も貝類化石のみでサメの歯は見つからなかった。

 しかし、後年ここから持ち帰ったノジュールを砕いたところ、その岩屑の中から数ミリのサメの歯の破片が出てきた。やはり、ノジュールからサメの歯は出ているようだ。

さて、この岩村町が私の少年時代に訪れた最後の産地となった。以後長い冬の時代を迎える事になる。





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