≪STORY≫
間違った未来、誰かが選択を誤った世界。
犯罪結社・青雲幇の牛耳る上海に、一人の男が舞い戻る。
彼の名は孔濤羅。
かつては幇会の凶手(暗殺者)であり、生身のままにサイボーグと渡り合う『電磁発勁』の使い手である。
仲間の裏切りによって外地で死線をさまよった彼が、一年の時を経て上海に戻ってみれば、すでに裏切り者たちは幇会の権力を掌握し、そればかりか濤羅の最愛の妹までもが辱められ殺されていた。
怒りに身も心も焼き尽くされた濤羅は、その手に復讐の剣を執る。
仇は五人。
いずれ劣らぬ凶悪無比のサイボーグ武芸者たちを、
一人また一人と血祭りに上げながら、
孤高の剣鬼は魔都上海の夜闇を駆け抜ける。
≪基本感想≫
ストーリーノベルというジャンルであり、本当に選択肢が1個たりとも存在しない、音楽と絵つきの小説です。その分低価格ではありますが、大量の字が苦手だとか、ゲーム性がなくちゃ却下とかいう方にはお勧めできません。
私には面白かったです。
何故、こんな技術が進んだ未来で、全身を機械化して、お前らはカンフーをするのか
とか
生身の人間として、アレができちゃ駄目だろ 孔濤羅
とか
あんな動機にしちゃ、やりすぎだろ 劉豪軍
とか、
こんだけ引っ張って、そこまで雑魚か 斌綜手
とか
運動するならチチしまえよ 朱笑嫣
など、突っ込みたい所は大量にありながらも、それを躊躇わせるだけの凄みがあったりします。
vs呉榮成などは、脚本の方になんかあったのかと考えてしまうほどの大規模。
突入の時点からワイヤーと自動小銃でガラス突き破ってく孔濤羅の姿に、うわーーと思いましたが、その後の銃装備済みの警備の方々を、剣でぷちぷちぶっ殺していく様に感動。
その後の空中大決戦に至ってはもう。
いや、あれ、人間として出来ちゃ駄目だって。
平地の車上でさえ、どうかと思うのに、高低差のあるなかでアクション可能な彼は、もうターミネーター。
え〜と、人間、超至近距離からの銃乱射を、剣で防いじゃアカンと思うのですが。
≪キャラ感想≫ ※ネタバレ
孔濤羅
キ○ガイ1。復讐に狂った無骨者。主人公。
ぼろぼろの黒のロングコートを纏い、日本刀を携えた幽鬼のような男。京極堂(←実人物じゃねェよ)か芥川さん辺りのイメージか。
口元を微かに吊り上げて笑む様は、主人公というか良いモン側に見えません。ダークヒーロー通り越して、普通にダーク。
内家功夫の達人で、サイボーグたちを紫電掌にて屠っていくわけですが、これは諸刃の剣。紫電掌は当然便利なだけのものではなく、身体に深刻なダメージを負っていきます。組織に属していた頃は、それを考慮して、充分なインターバルをおいてでの仕事ペースだったのですが、当然ながら、今敵は待ってくれません。傷の癒える間もなく、次から次へと襲いくる敵に、彼の身体は、戻りようのない破滅への道を歩んでいきます。
って、真正雑魚にまで紫電掌を使うのは止めれ。
下っ端さんは刀で解体。仇の五人+双子だけに絞っていれば、ああまではならんだろうに。
格好良いけど、かつバカなんだよな。
妹へのプレゼントに迷い、泣いて喜ぶ彼女に慌て、あいつが迎えてくれたから、暗殺の任務にも耐えられたとか独白する様は、シスコン……と呟くことすら許さないほどに一途。
回想のプレゼントの際の遣り取りとか、彼女の演奏をバックに剣で舞う彼とか、何この兄妹は甘々いちゃいちゃしとるんじゃとか思いましたけど。
瑞麗(人形)
初期は空っぽ。感情のないガイノイド(愛玩用人形)の少女。濤羅の惨殺された妹の器として、彼女の魂を分割する実験を行った闇医師・謝逸達が用意したもの。
元在ったモノを、別々の器に汲み分け、もう一度集める。ソレは果たして元のモノと同一なのかという実験なのだと語った医師。
僅かな可能性に縋り、分かたれた先の五人の仇の所有するガイノイドから魂を抽出し、少女:瑞麗に集めていく濤羅であったが……。
……2/5で止めときゃ良かったのに。
無茶苦茶大切にされている瑞麗(大人ver、豪軍所有)、放置され気味のラースヤ(ハゲ所有)、わりと溺愛ペトルーシュカ(人形愛好家所有)の三体は放っておいても良さそうですし。
いや、本当につたない足取りで舞う彼女と、それを見守る濤羅とか、幸せそうでしたよ。内心も考慮すると、全編中で唯一、主要三人が幸せな期間なのでは?
謝逸達
外道ドクター。人呼んで『左道柑子』。
魂を冒涜する研究に没頭し、表の地位を追われ、現在は闇医者として生きている。
瑞麗の魂を5分割してガイノイドに転写するよう求められ、自分の興味から、依頼主である劉らには知らせずに、元に戻せる処置を施した。
と、濤羅には説明したが、実際は劉豪軍公認。本来は、劉豪軍の所有する大人瑞麗を器として集める予定であった。
最後の彼女とふたりきりで会話できるだけで、凄い。あんな怖いのと。
樟賈寶
『ふふ、○○を倒したか。だが、奴は我ら××の中で最弱の存在……』
という台詞を、地で行く御方。さいばーあーむが泣くぞ。
手術の後遺症で、他者の顔がわからない(狂骨の夢ですな)彼は、声紋にて人の認識を行っている為、既にデータ削除した濤羅にしばらく気付かなかった。
ここのタメは、良かったです。戦闘では終始、ずぎゃぎゃぎゃ、しゃきーんとか音が鳴っててなんだかもう。相手にもならないのが切ないですが。
……こいつは、倭刀だけでもいけたのでは。
朱笑嫣
サド姐御。
やたらと主人公というか内家拳士を下に見たがる、外家の最高峰の拳士らしい。
けれど、わりと雑魚。濤羅さん、結構馬鹿にしながら闘ってます。むしろ、これだけ戦闘力の違う相手を、何で今まで下に見ていたのかが理解できない。一度も濤羅の戦い振りを見たことがなかったのか。
チチしまえよとか、下生やすなよとか、突っ込みたい所もありますが、腕切断されても、怯むことなく頑張れたのは偉いかも。武器、鞭だし。
呉榮成
網絡蠱毒と呼ばれる天才ハッカー。
本人最弱。戦闘能力は皆無に等しいし、直に人を殺した経験も無し。
それでも前ふたりよりも、遥かに濤羅を追い詰めてます。……彼がやったんじゃないけど。
ひたすら要塞と化した会社に閉じこもり、侵入された途端、一目散に逃げようとした彼のおかげで、この章の戦闘は凄い。突入時から、ロシアンマフィアの手を借りるわ、ワイヤーにてヘリから窓打ち破って乱入だわ、素晴らしい。
……上海義肢公司の社員というか、プログラマかわいそ。あんな時間まで残業してて、突入してきた戦闘機械に殺されたら、自分は絶対成仏できない……。連日の残業が続いたプログラマは、小休止が来る事だけを夢見て生きているのに……。悲惨だ。
閑話休題。
で、一度は濤羅の追撃を振り切った――と思った呉榮成たん。ビビったでしょうな、立ち上がった濤羅の姿を見て。こちらとしても、『……まさか?』と思ったら、本当に濤羅跳ぶし。そのまま凶(by デアボリカ)と化した呉榮成のガイノイド、ペトルーシュカと空中大決戦。
濤羅――人間じゃねェ。
呉榮成のラスト、大満足。プログラムは次々と現れ改訂されるもの。いつまでも最高のプログラムのままではいられないのです。
元氏双侠(元家英・元尚英)
唯一まともな登場人物たちかもしれない。
でも、双子だからってハモるな。
結合双生児(シャム双生児)であったため、足りない器官を、当時出回り始めた機械化にて補った兄弟。
外家でありながら、濤羅のことを認めていて、友人でもあった。
濤羅を討ちたくはないと思っていたが、斌綜手が公開した濤羅による組織NO.1の殺害映像(偽物)が決め手となって、対決へ。
水辺での戦闘であったため、CGが綺麗だなと思いました。枚数多いし、力も入ってます。
斌綜手
ハゲ。ニトロ名物、悲惨な策士。策士なので、主人公以外に倒されます。
暗器使いでその実力は相当なものなのですが、トチ狂った達人には逆らっちゃいかんというお話。
彼はわりかし頑張っていたのに。部下を動かし、濤羅対策も、ガイノイドを特攻させるべきだと理性的。残念な事に、談判した相手がね……。
暗器使い、好きなのにぃー。
劉豪軍
キチ○イ2。愛に狂った一途者。
主人公の兄弟子で元親友で、――――仇敵。瑞麗の夫。
裏切りの中心人物であり、孔濤羅に背後から瀕死の傷を負わせ、新妻の瑞麗を配下の連中に輪姦させ、惨殺し、そのうえ、魂を五分割してガイノイドに注入させた者。
脳以外の全身をサイボーグ化しているという噂で、現在は犯罪結社 青雲幇のNO.2。
瑞麗そっくりの外見をしたガイノイドを所有し、溺愛というよりも妄執を感じさせるその扱いに、動機はなんとなく掴めましたが、まさかああまでキティとは。
(真)瑞麗
キチガ○3。いや、むしろ真のサイコ。
『本当の私を知っているのが……よりによって、そのふたりですか』
こ、こここ、怖ェ。笑みがまたなんとも。
実際の彼女は、兄への赦されぬ感情に苦しみ、己を充分に愛してくれる夫に想いを返せないことを申し訳なく思い、兄と夫が用意してくれた『幸せ』の中で、ゆっくりと狂っていく運命にあっただけの、哀れな女性なんでしょうが……。
ド鈍い兄と妙に鋭い旦那のお陰で、それが加速し、とんでもない方向に転がり、街一つ巻き込んで大組織が壊滅するまでの騒動になったと。
兄と夫の鋭さが、逆だったら良かったのにな。
……それはそれで、帰ってくる度ヤる兄妹と、気付かず見守る優しい夫という、うすら寒い状況か。
≪シナリオ感想≫ ※ネタバレ
少々、キャラ感想とかぶります。
序盤の陰鬱な雰囲気といい、一貫して救いはないです。そもそも、濤羅は、瑞麗が元に戻れたとしても、どうするつもりだったんでしょう。己の身体が破滅へ突き進んでいることは理解していたでしょうに。
元に戻れた『純粋』な瑞麗を置いて、逝ってしまう気だったんでしょうか。
戦闘は、燃え燃えばっか。
特に空中大決戦と、対元氏双侠と、ラストバトル。なんか圧倒されました。
戦闘描写そのものも凄いけど舞台も良い。
逃げ場の無い最後の一台の車上にて、超至近距離から乱射された銃弾。
有象無象の連中を斬り倒し、逃れたかと思った場に現れる、気の合った友人で、認め合った拳士である双子の強敵。
廃墟と化した自宅。桃源郷の如く美しかった桃園は、枯れ、朽ちて、地獄のように荒み、その中で対峙する、嘗ての親友。
同門対決はもう……。
互いの剣を相殺し合うCGは、しばらく見入ってしまいました。すげーく綺麗。
内家と外家を融合した劉豪軍さんには、危うく吹き出しかけましたが。まあ、理屈はそうだよな。そのものを鍛えて強力にする外家。丹田に満ちた氣により、肉体の限界を超えた力を行使する内家。
ならば、機械化されたものよりは劣るとはいえ、実体よりは相当強力な義体にて、経絡の力を解放したら……ってのは、確かに。
でも分身しないでくれ。服破るし。
しかも傍で、あんあ〜んとかやってる絡み合う二体のガイノイド。盛り上がってるのに、想像してしまうと凄い光景だ。
戦闘に限らず、文字でしか示されていないのに、絵として頭に浮かぶシーンがいくつかあり、今回の文章は、ホント凄いと思いました。
腹いせの如く、濤羅が斌綜手タンの頭ぶった切った時の、桃の花が舞うシーンなんか、無茶苦茶綺麗じゃないですか。感動しかけましたよ。斌綜手の顔半分を想像して、少々戻りましたが。
でもって、ラスト。
嬉しそうに責めるなよ、鬼眼麗人。
いくら、本当の元凶が濤羅だとしても、一般的に考えたら、あんたの行動が変なんだから。痴話喧嘩でここまでやったアンタにカンパイ(ダブルミーニング)。
泣くなよ、復讐鬼。
歯食いしばって、妹の復讐の為に、全てを投げ打って、実際に罪の無い人たちの命まで犠牲にして。
『俺も彼女も、貴様に狂わされたんだ。濤羅』
って、言われたら哀しいのもわかるけど。
冷静に考えると、あんまり濤羅のせいだとも思わん。彼はノーマルで、普通に優しい兄として、大切な妹に接していて、親友を信じ、妹との結婚を祝福しただけ。
人知れぬ想いに苦しむ瑞麗と、笑いかけてもらえない劉豪軍は可哀想だが、どっちが悪いかと言われれば、彼らな気も。
更にエピローグ。
想いを遂げる状況を用意してくれた旦那。それに乗って、彼女の想いに気付いてくれた兄。
そして結末は、彼女の望むままに。
って、このEDってハッピーなのか恐怖エンドなのか。
どちらでもあり、どちらでもないような気が。永遠に続く自己完結の世界ってのも、かなり怖いものがあります。
このゲームって、安易な妹萌えへの嫌味も入ってるんでは。
実妹と結ばれたかったら、このくらいの障害というかカタストロフがあるよと。
実はお前とは血が繋がってなかったんだよ!!
良かった、お兄ちゃんの事、ずっと……好きだったんだ
みたいに、あっさりとは進まないと。
≪総括≫
選択肢の一切無い電脳紙芝居――本当に楽しめました。
ただ、私は読むのが速いこともあり、三時間弱でクリア。コストパフォーマンス悪。
ざっと見た限り、3〜4時間強という方が多かったので、普通はそのくらいらしいですけど。
この結末しかなかったのだろうけれど、それでも虚淵玄さんの書いた話で、彼女を受けいれてしまう結末や、途中で復讐を止めてしまうという展開も見てみたかったかも。そんな選択肢が欲しかったとも思います。
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