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真女神転生 終極


扉を守護するように、純白のローブを纏った青年が立っていた。

静かな佇まいに、勢い良く殴りこんできた襲撃者であるガイア教徒たちは、気圧されたように二の足を踏んだ。
その青年――メシア教団の最高幹部のひとりであり、新たな救世主と称される彼の力を知っていたから。

思わず助けを求めるような目で、自分たちの幹部を見る。
だが、彼は『行け』とばかりに無言で顎をしゃくるだけであった。

彼の苛烈さを十分に知っている実働部隊としては、それ以上躊躇しているわけにも行かなかった。
一斉に、ローブの青年に襲いかかる。

迫り来る彼等に怯えるでもなく、青年は唄うように呪言を紡ぐ。

「力を求める哀れな者たちよ。汝らに死の安寧を。『メギドラオン』」

光の奔流が発生する。

ガイア教徒達は、簡単に全滅した。
ひとりの青年を除いて。


「ほう、平和主義のお前が。やるようになったじゃねえか、時雨」


衣更の揶揄するような声にも表情を変えず、青年は視線をゆっくりと、旧友へ向けた。
端正な顔には、何の表情も浮かばない。

嘗て共に旅をした仲間であった彼等は、静かに対峙した。

今ではそれぞれ、メシア教とガイア教の象徴的存在になってしまった。
なによりも遠い対極の存在に。

ゆえに、これからの展開はいずれかの、または双方の消滅のみ。




「神罰よ、下れ」

時雨の呪文は完成した。

このタイミングでは良くて相打ち、おそらくは自分だけが魔法を喰らうと衣更には感覚としてわかった。

そう理解していたが、そのまま突っ込んだ。
それも良いかと思っていた。
嘗て友と呼んだ者の手で、この壊れた生を終えるのも良いと。

剣が、時雨を貫く感触に、思わず目を瞑る。
そして、そのまま死が襲ってくるのを待った。

だが、いくら待っても、衝撃が襲ってくることはなかった。

ゆっくり目を開くと、時雨は笑っていた。

「良かった、止められて」

表情が戻っていた。
凍りついた人形のような顔ではなく、その微笑みは優しく、紛れもなく彼の知る時雨のものであった。

崩れ落ちる時雨の身体を、衣更は慌てて支えた。

「し……ぐれ……お前、まさか……洗脳されてたのか」

衣更の声が震える。だとしても、遅すぎた。
どぼどぼと音をたて、止まる兆候も見せずに、血が溢れ続ける。

剣は、時雨の急所を確実に貫いていた。
もう長くは保たない。それに衣更は、癒しの力を持たない。

「違います。私は……貴方の知る時雨さんはないのです」

彼は、白の頭巾をとった。
嘗ての長めの髪はそこにはなく、僧侶の如く剃髪された後頭部には、刻印があった。

「0……ゼロ?」

衣更の呆けたような呟きに、時雨は弱々しく頷いた。
時雨……いや、ロウヒーローは、急激に血の気を失いながらも、口を開く。

「今、メシア教では、生命の操作を研究しています。救世主を創り出し、自分たちの思うままに操るために。私はそのプロトタイプ、ナンバリング ゼロ……」

それゆえの0の刻印。
無から有を作り出す一歩手前の実験。優れた人間をコピーすることが目的。

「時雨さんの……遺体から作られたクローンを……急激成長させ、記憶を注入しただけの紛い物……です。だから、貴方が……気に病む必要はないのですよ」

だが、それでは彼が衣更を助ける理由がない。
造られた存在、組まれた性格プログラム――彼がそういった存在ならば、魔法を止める理由はない。教団からの命のまま、ガイアの幹部を屠れば良かった筈である。

「じゃあ、お前は、なぜ止めたんだよ!?」

叫んだ衣更に、ロウヒーローは視線を向ける。
既に目は碌に見えていないのだろう……、焦点は合っていなかった。

それでも、その瞳に優しい光が浮かぶ。

「魔法を行使しようとした瞬間、貴方たちとの思い出が……、浮かびました」

持たぬ筈の記憶が。むしろ優先的に消去されているであろう思い出が。
思い出してしまった。ゆえに友を殺すことを拒んだ。

「もしかしたら、本物の時雨さんが……見せたのかもしれませんね。羨ましかった……だから……動けなかった。楽しそうでしたよ、美月さんも貴方も……、現在よりもずっと。全てを捨てたら……楽になれると……思いま……す。あなたは……まだ間に……合……う」

最期に微笑んでから、彼は目を閉じた。
血に汚れてさえいなければ、まるで眠っているだけのような穏やかな表情だった。
偽者――作り物などとは思えない表情に、衣更は呆然と呟いた。

「――この微笑が、紛い物だというのならば、俺は何者だ?」

これが、作り物だというのなら、俺は一体何なんだ。

力を得るために、それだけの為に邁進する自分は、人間といえるのか?
いや、悪魔とすらいえるのだろうか?

笑いなどとうに忘れ、教団の命のまま、人を――悪魔を殺す、人でありながら悪魔と合体した自分は。


死者ばかりの部屋で、衣更はひとり煩悶した。
考えないようにしていた。だが、小沢を殺したときから、――いや、悪魔と合体した時から、心の奥で持ちつづけていた疑問だった。


「時雨? 衣更? …………衣更。まさか時雨を……殺した……のか」

静寂を破るように、声がかけられた。
最悪のタイミングで現れ、呆然としているのは、もうひとりの友人――美月。

ガイアにもメシアにも属さない、法に縛られる事もなく、混沌に溺れる事もない中立者。
神に使われることも、悪魔に踊らされることもない『最強の人間』。


彼の姿を認めて、一層ぼんやりと呆けていた衣更は、ある決断を下し、表情を変えた。

「くくく、はははは」

嘲弄。狂笑。
昔の面影もない半魔と成った友人を睨み、美月はもう一度言った。

「答えろ」

暗い声。彼は既に判っているのだろう。
微かに安堵しながら、衣更は問いには応じず、哄笑し、『時雨』の骸を踏みにじった。

「衣更ッ!」

    ――そう、それで良い。
    同じ苦しみを、お前に知って欲しくない。
    俺は、力を欲し、友人までも手にかけた狂人――殺されて当然の罪人。
    そう認識しろ。

狂ったように笑いながら、衣更は僅かに頷いた。
それが結論。

犯したのは、大きすぎる罪。
だから友人に裁いてもらう。

だが、彼には同じ苦しみを味あわせたくない。
それゆえに演出する。
力を渇望する狂った男を。殺されなければ救われない、哀れな男を。

「見ろ! 俺の足元に倒れた時雨の姿を! 力無き正義の惨めな最期だぜ」

殆ど共に行動をした事のない少女――紅葉が、狂った言動の衣更を怯えた瞳で見る。

彼女の姿を認めて、衣更は少しだけ安心できた。ずっと美月が捜し求めていた少女に出会えたことを、心より喜ぶ。
彼女がいれば、美月は狂わずにすむだろう――自分を殺しても。


「お前もガイアの邪魔者だ。死ね。マハラギオンッ!!」

人など一瞬で焼き尽くすだけの魔力の込められた火炎の呪文。破壊することしかできない衣更が尤も得意とする魔法。
だが、それは美月へは届かなかった。

彼をかばうように前に立った魔獣が、猛炎を吸収する。
命じられる前の行動。そしてその理知的な瞳に宿っているのは、微かな困惑。
おそらく、元はパスカルであった『あの』ケルベロスなのであろう。

美月は唇を噛みながら、仲魔たちをCompへ戻した。
心配そうに彼を見上げるケルベロスの頭を、消えるその瞬間まで撫でていた。

その動作が、衣更に昔を思い出させた。


時雨がいて、まだ人間であった自分がいて、ケルベロスを自分の飼い犬と同じように扱う、美月がいて。


食後のケルベロスの散歩に、三人揃って付合わされた。
魔獣にお手をさせて、目を細めて撫でる美月に呆れたりもした。
食事の仕方がなってないと時雨に説教され、喧嘩になって、美月に放置されたりもした。

いつもそうだった。
時雨に説教されて、言い争いになって。
細かい事で時雨と揉めると、美月はいちいち仲裁に入ったりしなかった。
解決するまで放っておかれた。

あの頃は――今は悪魔の出る異常事態でも、いつかどうにかなると、漠然と思っていた。
今では――遠すぎる穏やかな夢。


もう夢を見ることもできなくなった。
だから、剣を抜いて、高らかに笑ってみせる。

「サシの勝負――最高のシチュエーションじゃねェか。さあ――」

殺し合おう

呟き、笑むと衣更は走り出した。
今度こそ――疾走し続ける生を、終える為に。

友たちの居る、夢の残滓の中で。


手を抜いていることを悟られてしまったら、美月に自分は殺せない。
ゆえに、本気で殺すつもりで戦う。

それは――望んでいたことでもある。
欲さずに、興味もなさそうに、それでも、最強の道を歩み続ける彼との、本気の戦いは。



剣同士では、美月の方に遥かに分がある。
衣更は、高い魔力にあかして、立て続けに魔法を放った。

だが、緊縛の術も襲いくる炎も、美月を捕らえることはなかった。
彼は超人的な動きで、全てを躱した。

魔力を制御できない代わりに、彼がこの異変によって得たものは、戦士としての判断力。

たかが高校生の剣道経験者が、悪魔と渡り合い、天魔を天使を魔王を滅してきた。

それは、卓越した判断力に支えられたもの。
間合いを完全に極め、攻撃を最低限の動きで躱し、最短で敵の間合いに入る。それが美月の力。


魔法を放った隙を突き、距離を詰めた美月は、無表情で剣を突き出した。

普段通りの動き。
見えた軌道の通りに、相手を屠る為に最適化された動きをとる殺戮機械。

結果もいつも通り。肉を断つ音が響いた。


剣は確実に衣更を貫いていた。
溢れ出す血を浴びた美月の表情が、途端に泣きそうなものに変わる。

彼の母親が殺されたと知った時と同じ、堪えるような――今にも泣きそうな顔。
このような状態でありながら、彼にとっての自分とは、それだけ重い存在であったことが、衣更は少し嬉しかった。


だが、自身が思っていたよりも、彼の存在は美月にとって遥かに重かったようだ。

倒れていく衣更の姿に、美月の表情が、更に崩れる。
母を失っても、パートナーを失っても、世界が崩壊しても、幼馴染が消滅しても、友人が自分を庇って死しても、彼は歯を食いしばって耐えてきた。

彼もまた衣更と同じように。
止まらないように、落としてきたものが目に入らないように、必死で走り続けて。


だが、全てが――喪われて、とうとう限界に達したようだ。今までの累積が、一気に噴出する。


「なんで……こんなことになるんだ。お前が時雨を殺して……俺がお前を殺して。俺たちはこんな結末の為に、今まで足掻いて、闘って――生き延びてきたのかよ」

衣更の頬に、ぽたぽたと暖かい雫がかかる。

涙――それは、衣更が亜人と化してから失ったものの一つであった。

あの世とやらで、本物の時雨に会ったら、『あの』美月を泣かせたと自慢できるかもしれないな――呑気にも、衣更はそんなことをぼんやりと考えていた。

彼は続けて、想った。

    これでいい。
    神に造られた無垢で哀れな魂でもなく、
    悪魔に躍らされた狂った男でもなく、
    全てを自らの意思で選択してきたお前が残るべきだ。

    これから人間を導くのか、捨ておくのか――それもまたお前の自由だ。


衣更は、碌に動かない口をどうにか開く。

最期まで、狂った男でいるために。
壊れた世界に残る友人が、これ以上苦しまぬように。

「ずっと夢を見ていた。悪い夢――」

ずっと悪夢の中にいた。
東京は滅び、悪魔が世に溢れ、自身は悪魔に堕ち、そして、闘い続けた。

「いや――」

良い夢でもあった。

彼らと会えたから。
そして、たとえ血塗れであっても、自分で選択してきた道を、貫き続けたのだから。
昔に戻れたらと思うことは何度もあった。だが――後悔だけはしていなかった。

「――良い夢だった」

少し深い呼吸をして、そして、止まる。
それが衣更の最期であった。


美月は、両極の英雄たちの遺骸を並べ、血の汚れを拭いた。一言も発さぬまま。仲魔を召喚することもなく。

紅葉は少し迷った末に、その背中に声をかけた。

「でも美月……このまま遺体を放っておいたら、もしかしたら悪魔に……」

紅葉は、そこで言葉を濁した。喰われるかもとは、口にしたくなかったから。

「ああ、わかっている。パスカル」

美月は再度、ケルベロスを召喚する。

僅かな間だったとはいえ、共に過ごした記憶が残っているのだろう。
魔獣は哀しげに鳴きながら、ふたりの身体に頭を擦り付ける。
それを横目に見ながら、美月は手持ちの油をふたりに万遍なく撒いた。

「パスカル、……燃やしてくれ」
「承知シタ」

一声高く鳴いてから、魔獣が炎を放つ。
いつからか狂ったレールの上を走り出したふたりを、炎が包んでいく。

「りえとか名乗っていたっけな、おい――」

火が消えて、しばらくしてから美月は問い掛けた。
背後に潜んでいた少女に対して、静かな、だが凄まじい眼差しで。

「――ゆりこ。何が望みなんだ。俺たちを殺し合わせて、お前らは何を得るんだよ」

現れたのは、加勢もしなかった衣更のパートナー。
黒のアーマーを纏ったりえと名乗っていた少女は、哀しげに微笑んで、スーツの美女へと、姿を変えた。

「気付いていたのね――気付かなければ良かったのに。
――貴方たちは、神と悪魔の代理人よ。秩序と力を選択した彼らが、代理人そのもの。――貴方に与えられたものは、自由。貴方はどちらにでもなれた。神の操り人形にも悪魔の尖兵にも、そしてどちらでもないものにも」


秩序なき混沌の道で暴れることも、意思なき正義の道を歩むことも。
どちらも人間には楽な選択。本能に任せるか、考えることを放棄するか。

「ねえ、美月。どうして中立を選んだの?」

なのに彼はどちらも拒んだ。
神の庇護を鼻で笑い、悪魔の誘惑を踏み躙りながら否定した。

「別に選んだわけじゃない。法も混沌も、何ら感銘するものはなかった。それだけだ」

――興味がないと。
全て一言で済ませてきた。彼を取り込もうとする両陣営に。

「……踊り続ける人形は、踊らされていることに気付かなければ幸せなの。けれど、気付いてしまったら」

どれほど機能が優秀であろうとも、操り手の存在に気付き、己の意思を持った瞬間に、操り人形は意味を失う。――不要となる。

「与えられる運命はひとつ――廃棄よ」

嘆きの言葉と共に、彼女は再び姿を変える。

蛇をまとった全裸の女へと。
リリス――魔界の王ルシファーの妻にて、アダムの最初の女へと。

人類の母となるべく創られ、だが、神を欺き裏切って、魔王の妻となった妖女へと。

美月らが今まで出会った魔の中でも最高級の妖気を放ちながらも、彼女はせつなく哀しい笑みを浮かべ、泣きそうな声で宣言した。

「私が貴方の最初の女になりたかった。……なるはずだった。
愛しているわ、美月。私のものにならないなら、殺してその屍を抱き続けるわ。永遠に」

求めるように美月にかざされた手から、牙を剥いた蛇が襲い掛かる。



何もかもが躱される。蛇も爪も。魔法である吹雪さえも。
不可視のはずの魅了の魔力に至るまで。

仲魔を使役せず、パートナーの少女さえ下がらせたまま。
なのに触れることすら叶わない。

隔てられた絶対の距離が、そのまま彼の心を示しているようで、リリスは唇を強く噛んだ。

「みつきぃッッ!!」

愛しく憎い男の名を叫び、リリスは全魔力を込めてその身を宙へと躍らせた。

選択は間違っていた。

全力の一撃というものは、当たれば確かに強い。
だが、同時に巨大な隙を生むとも知らず。


刃となった爪は、美月の頬を深く薙ぐに留まった。
血飛沫に赤く煙った中で、肉を断つ音が、鈍く響いた。

身ひとつで数々の魔を屠ってきた青年が、隙を見逃すはずもなく。
彼に滅された高位魔の墓標に、始原の女が――夜魔の女王の名が新たに刻まれただけのこと。


彼らは堅く抱き合っているかのように見えた。

事実、美月の左腕は、抱きしめるようにリリスの腰にまわされていた。
リリスの両腕は、美月の首に回されていた。

ふたりを繋ぐものが、リリスの胸を貫く血塗れの剣でなければ、濃厚なラブシーンのように見えたかもしれない。

「美月、最期にキスをして」

爪を硬化させようと試み、為せないと知ると、リリスは喘ぐように幽かな声で呟いた。
哀願に近い言葉に、美月は剣から手を放し、軽く抱きしめながら口付けた。

「お前のこと――嫌いじゃなかったよ」

躊躇いはなく、優しさだけが溢れていた。

意外な素直さと優しさに、リリスは激痛も忘れて苦笑した。
呪をかけようかとの企みが、霧散する。

代わりに占めた想いは、愛しさ。人の指導者となる者。救世主。もし神を、アダムを裏切らなければ、彼女が生んでいたはずの――息子。

与えられた運命を憎んでいた。
用意された道程を厭っていた。

だから神の御子の手を振り払い、堕ちた天使の長の手をとった。

だけど、伴侶のことだけは確かに愛していた。

「ああ、美月。貴方は優しくて……残酷ね」

恨ませてくれない。憎ませてすらくれない。

彼も同じだった。
裏切った妻を罵倒すらしてくれなかった。寂しそうに、それでもお前が望まないのならば仕方のないと、諦めたように頷いたかの人も、どうしようもないほどに優しく、残酷だった。

「愛していたわ。坊や」

今度は自分から口付け、最期にそう囁いた。
本物の恋人同士のように、抱き合いながら、リリスは消滅していった。


『神も悪魔も気に喰わない。だから両方ぶっ飛ばす』

今では彼の口癖であり、主張そのもの。
美月がはじめて、その言葉を口にしたのは、五島とトールマンに、選択を迫られた時だった。

以降、彼が力を増す毎に、両陣営から鬱陶しいほどの熱意をもって、協力を求められた。
答えはいつも一つ。

『自分の道は自分で決める』

彼に協力という名の従属を求めた者は、閻魔も天使も邪龍も魔王も天魔も……全て、彼に滅ぼされた。


今、彼は、時雨の護っていた扉を開きながら、静かに呟いた。

「絶対に許さない、認めない。神も悪魔も」

凄惨な瞳で。
今や最強の滅魔滅神と化した者。ただ人でありながら、神と魔の天敵となった青年は、友たちの亡骸と、一度は喪われ、唯一手元に残った少女とに誓う。

「すべてこの世から消してやる」


誓いは後に真実となる。
天に高く伸びる塔の上に座す天使長も、地に深く続く階下にて待つ天魔の王も、彼の手によって、人間の世界から消し去られた。


その後、導なき世界がどう変わったか――
救世主がどのような生涯を送ったか――は、今はまだ不明である。